「京都医療少年院の早期改善及び移転・新営を求める意見書」(2019年6月27日)(本イベントは終了しました。)


2019年(令和元年)6月27日

法 務 大 臣  殿
法務省矯正局長  殿
法務省大阪矯正管区長  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  三  野  岳  彦



京都医療少年院の早期改善及び移転・新営を求める意見書



第1  意見の趣旨
1  建物の老朽化に伴い少年の生命・身体を侵害しかねない状況を改善するため、速やかに、京都医療少年院内の建物の耐震補強、居室等への空調機の設置を行うべきである。
2  京都医療少年院に入院している少年のプライバシーを保護するため、速やかに、外部から施設敷地内を視認不可能とする処置をとるべきである。
3  入所している少年の特性に十分配慮した処遇が可能となるよう、速やかに、適切な位置への保護室の設置及び少年に対する個別教育の実施に適した部屋の設置を行うべきである。
4  第1項ないし前項の対応とともに、一刻も早く京都医療少年院を、旧宇治少年院跡地へ移転・新営すべきである。

第2  意見の理由
1  京都医療少年院の概要
  京都医療少年院は、関東医療少年院とともに、「保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害があるおおむね12歳以上26歳未満のもの」を対象とする第三種少年院であり、名古屋矯正管区以西の広域の少年を収容対象としている。
  同院は、昭和24年1月に「京都少年療養院」として発足し、昭和26年4月に現在の名称である「京都医療少年院」に改称された。昭和37年4月に全面改築工事が完成し、その後、教室棟等・保護室棟・教育事務棟の新営工事がなされた。
  以降、同院の建物には、部分的な改修工事等は行われてきたものの、55年以上もの間、抜本的な改築工事等は行われておらず、平成15年に完成した教育事務棟以外の建物については、老朽化が著しい。
  そのため、京都医療少年院は、旧宇治少年院跡地への移設が決まっている。平成30年6月から、旧宇治少年院敷地内の建物取壊工事等が開始しており、令和2年から旧宇治少年院敷地内において新たな建物等の建築工事等に着工し、令和5年以降に工事が完了する予定とのことである。
  しかしながら、以下のとおり、現時点において同院建物に認められる問題点は既に看過しがたい状態にあることから、一刻も早く、同院建物の問題点を改善するとともに、旧宇治少年院跡地への移転・新営を実現する必要がある。

2  建物の老朽化に伴う問題
  京都医療少年院では、上記のとおり、昭和37年4月に改築工事が完成した後、55年以上もの間、抜本的な改築工事等は行われてこなかった。
  その結果、平成15年に完成した教育事務棟以外の建物、とりわけ、同院において少年が日常的に生活する建物は、老朽化が著しく、かつ、耐震性が不十分であり、震災時に建物の倒壊や天井の落下等が生じかねない危険な状態にある。
  また、平成30年の夏期の気温が例年と比べて非常に高かったことは周知の事実であるが、同院では、ほとんどの部屋に空調機がない。
  平成30年の夏期は、廊下の空調機の冷気を扇風機で各室に送る、保冷剤の貸与といった職員の工夫によって熱中症対策が行われ、幸いにも同院の少年に脱水症状や熱中症の症状は認められなかったが、今後もそのような対策で十分であるか極めて疑問であり、抜本的な対策として、空調機を設置する必要がある。
  なお、同院の配線設備上、新たに空調機を設置することは困難であるとのことであるが、入院している少年は、夏期になると熱中症等の危険にさらされることになり、入院者の生命、身体に関わる問題である。配線設備も含めた抜本的な対策を行うべきである。
  以上のとおり、現在の京都医療少年院の建物は、老朽化に伴って、耐震性及び夏期対策の面で、少年の生命・身体を侵害しかねない極めて危険な状態にあることから、速やかに、京都医療少年院内の建物の耐震補強、居室等への空調機の設置を行うべきである。

3  プライバシーに対する配慮が不十分となっていること
  京都医療少年院は、開院後に周辺の傾斜地に住宅が建設されたことによって、現在、周辺の住宅や道路等から院内の様子、例えば、屋外での作業やプールでの活動状況等が容易に視認可能な状態となっている。
  そのため、第三者が、いかなる少年が在院しているかといったことや、院内での生活状況を容易に知ることが可能である。
  これまでにも、社会的に耳目を集める事件を起こした少年が入院した場合、周辺の傾斜地にマスコミが多数訪れ、同院内の状況を撮影しようとしたこともあったとのことである。
  このように、京都医療少年院の周辺環境は、少年に対するプライバシーの権利への配慮を欠くものになっていると言わざるを得ない。
  従って、速やかに、外部から施設敷地内を視認不可能とする処置をとるべきである。

4  その他建物の構造上の問題
  上記の問題以外にも、京都医療少年院の建物は、構造上問題が多い。
  京都医療少年院は心身における著しい障害を持つ少年を対象とする第三種少年院であり、他の少年院に比しても頻繁に保護室が利用されるといった実態が存在するが、保護室は男子収容エリアにのみ存在しており、女子が保護室に移動をする際には男子収容エリア前を通らなければならない。また、高次脳機能障害等により生活レベルが著しく低下した少年への医療上及び処遇上における介助を職員が容易にできるための広い空間を有する大型収容室、医療措置過程において病状に応じた職業指導を行いうる施設等、少年の病状や特性に応じた個別教育の実施に適した部屋が設置されていないといった不備も存在する。
  上記不備によって、在院している少年の特性に十分配慮した処遇が困難となっているのであり、速やかに、適切な位置への保護室の設置、少年に対する個別教育の実施に適した部屋の設置を行うべきである。

5  移転・新営の必要性
  上記問題点は、前述のとおり、過去55年以上もの間、抜本的な改修工事等が行われず、同院の建物が極めて老朽化していることが原因である。
  入院者の生命、身体、プライバシー等の重要な権利を保護するため、上記改修工事は必須であるが、老朽化した建物で、対症療法的に都度対応しているだけでは対応に限界がある。
  また、老朽化に伴い、水道管が破裂する等、居室の衛生環境にも問題が生じており、矯正教育の基盤である入院者が生活をする場として相応しくない環境の中で生活しなければならない実態も存する。
  従って、一刻も早く、旧宇治少年院跡地への移転・新営を実現する必要がある。

6  少年に対するあるべき処遇と現状
  憲法第13条では、個人として尊重されるべきことが保障されており、少年院に在院している少年に対しても、収容目的及び趣旨に反しない以上、できる限り保障されなければならない。
  同条は、個人のプライバシー権を保障しているところ、少年院に収容されている事実及び少年院での生活状況は、在院者のプライバシーに極めて深く関わる事情であるから、それら事実及び状況に関する情報は、みだりに第三者に知られることがないよう十分な配慮がなされなければならない。
  一方、子どもの権利条約第37条(c)は、「自由を奪われた全ての子どもは、人道的におよび固有の尊厳を尊重して取り扱われ、かつその年齢に基づくニーズを考慮した方法で取り扱われる。」と定めている。
  かかる憲法及び子どもの権利条約の規定に基づき、少年院法第1条は、「この法律は、少年院の適正な管理運営を図るとともに、在院者の人権を尊重しつつ、その特性に応じた適切な矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行うことにより、在院者の改善更生及び円滑な社会復帰を図ることを目的とする。」と規定する。そして、同法第15条は、「在院者の処遇は、その人権を尊重しつつ、明るく規則正しい環境の中で、その健全な心身の成長を図るとともに、その自覚に訴えて改善更生の意欲を喚起し、並びに自主、自立及び協同の精神を養うことに資するよう行うものとする。」として、処遇の原則を定めていることから、少年院においては、かかる処遇の原則に沿った環境が整備される必要がある。
  とりわけ、第三種少年院は、心身における著しい障害が存在する少年を対象とすることから、そのような少年の特性に十分配慮した処遇がなされなければならない。
  ところが、これまで述べたとおり、現在の京都医療少年院の建物は、老朽化に伴い、少年の生命・心身に危険を及ぼしかねない危険な状況にある。また、プライバシーへの配慮は不十分で、設備上も、少年の特性に配慮した処遇が困難となっており、このような環境における生活を強いることは、「在院者の人権を尊重しつつ、その特性に応じた適切な矯正教育その他の在院者の健全な育成に資する処遇を行う」とする少年院法の目的に反することは明らかである。

7  関東医療少年院との比較
  ところで、京都医療少年院と並ぶ第三種少年院である関東医療少年院は、令和元年度に、新たに造成された国際法務センターに移設されることが決定されている。
  しかるに、関東医療少年院の移設後も京都医療少年院の上記状況が改められなければ、日本に2箇所しか設置されていない各第三種少年院両者間で処遇に大幅な差異が生ずることが懸念される。
  このように、少年院間で処遇に不合理な差異が生ずることは、平等権(憲法第14条)の観点からも問題があるものと言わなければならない。

  8  結語
  以上に照らすと、少年の人権の侵害が生じている状況又は生じかねない状況が存するのであり、同院の施設状の問題を改善するためには、抜本的な改修工事を行わなければならない。そして、これと併行して京都医療少年院を、旧宇治少年院跡地へと早急に移転・新営することが最も有効かつ抜本的な手段及び対策となることは明らかである。
  そこで、一刻も早く、京都医療少年院内の建物の問題点を改善するとともに、京都医療少年院を旧宇治少年院跡地へ移転・新営すべきである。
以  上


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