「大崎事件第三次再審請求棄却決定に抗議する会長声明」(2019年7月2日)(本イベントは終了しました。)


  最高裁判所第一小法廷は、2019年(令和元年)6月25日、いわゆる大崎事件第三次再審請求について、再審開始決定(2017年(平成29年)6月28日鹿児島地方裁判所決定)及び同決定を維持した即時抗告審決定(2018年(平成30年)福岡高等裁判所宮崎支部決定)を取り消し、再審請求を棄却する旨の決定をした(以下「本決定」という。)。
  大崎事件は、1979年(昭和54年)に請求人が親族と共謀して被害者を殺害し、死体を遺棄したとの嫌疑により起訴された事件である。犯行を裏付ける客観的証拠はなく、共犯者とされた親族の供述を主な証拠として、請求人について懲役10年の有罪判決が確定した。
  逮捕以来一貫して無実を主張していた請求人は、1995年(平成7年)に第一次再審請求を行い、鹿児島地方裁判所は2002年(平成14年)3月26日に再審開始を決定した。しかし検察官の抗告により、即時抗告審において再審開始決定は取り消され、特別抗告審において取消しが確定した。続く第二次再審請求審では、新証拠である供述心理鑑定によって、有罪の根拠となった「共犯者」とされた親族の供述の信用性が減殺されたことが認められたにも関わらず、再審請求は棄却され、即時抗告審・特別抗告審でも棄却決定が維持された。
  今般の第三次再審請求審では、新たな法医学鑑定と供述心理鑑定によって、確定判決の認定した共謀も殺害行為も死体遺棄もなかった疑いを否定できないとされ、二度目となる再審開始決定がなされた。検察官の即時抗告申立による即時抗告審でも再審開始の結論は維持されたが、またしても検察官が特別抗告を行い、本決定に至ったものである。
  本決定は、検察官の主張は「単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない」として排斥した。そうであるにもかかわらず、特別抗告を棄却することなく、あえて職権による判断として、再審開始決定を「取り消さなければ著しく正義に反する」と述べて、自ら取り消し、再審請求を棄却したのである。
  再審手続は、無辜の救済のみを目的とする非常救済手続であって、犯人の処罰を目的とする手続ではないことに異説はない。また、再審開始決定の効果は再審公判を開始させるものであるが、それ自体として確定した有罪判決の効果を消滅させるものでないことも明らかである。そのような制度の趣旨や効果に照らす限り、再審開始決定を取り消さなければ「著しく正義に反する」ことになる事態を具体的に想定することは困難である。まして、検察官による特別抗告に理由が認められないとしたにもかかわらず、あえて例外的な職権行使によってまで再審開始決定を取り消さなければ「著しく正義に反する」という事態は、一般的にも本件についても、およそ想定することができない。したがって、本決定の述べるところの「正義」とはいかなる概念であるのか、理解が困難であり、本決定のような職権行使のあり方が再審制度の趣旨に照らして許されるものとは考えがたい。
  そもそも、無辜の救済を目的とする再審手続において、再審請求権者の筆頭に位置づけられている検察官は、有罪を追求する訴追者ではなく、無辜の救済のための審理に協力する公益の代表者として振る舞うことが期待される。検察官が上訴を繰り返すことにより再審開始を阻もうとすること自体が制度趣旨に反するのである。しかし、それ以上に、検察官の主張に理由がなくとも検察官の求めた結論は認めるという方向で裁判所が職権を行使することが許されるならば、再審制度の趣旨は著しく没却されてしまう。人権救済の砦であるべき裁判所が、犯罪の嫌疑をかけられた人に対する壁として立ちはだかることになる。本決定は、最高裁判所がその最も重要な役割を自ら放棄したものとして、まさに著しく正義に反するものである。
  よって、当会は、適正な刑事手続の保障とえん罪の根絶を希求する法律専門家の団体として、本決定について強い憤りを込めて抗議し、最高裁判所が人権救済の最後の砦としてあるべき役割を取り戻すよう、猛省を求めるものである。

2019年(令和元年)7月2日

                                                                                            

京  都  弁  護  士  会

会長  三  野  岳  彦
      


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