「クレジット過剰与信規制の緩和に反対する会長声明」(2019年7月25日)(本イベントは終了しました。)



  経済産業省産業構造審議会商務流通情報分科会割賦販売小委員会は、令和元年5月29日付中間整理~テクノロジー社会における割賦販売法制のあり方~(以下「中間整理」という。)において、割賦販売法の与信審査について、技術・データを活用した与信審査の導入を検討し、その上で①極度額10万円以下の少額・低リスクのサービスについては指定信用情報機関の信用情報の使用義務(以下「使用義務」という。)と指定信用情報機関への信用情報の登録義務(以下「登録義務」という。)を課さず、②少額・低リスク以外のサービスについても、技術やデータを活用した方法で与信審査ができる事業者には使用義務を課さないという方向性を示した。
  2008年改正割賦販売法は、過剰与信を規制するため、クレジットカード会社にクレジットカード発行時の指定信用情報機関への信用情報の照会(割販法30条の2第3項)と、都度の指定信用情報機関への残高情報・事故情報の登録(同法35条の3の56第2項及び第3項)を義務づけた。これらの規定により、利用者にかかる全体の債務状況が共有され、多重債務の防止が図られている。当会も、2007年12月13日付「割賦販売法改正に関する会長声明」において、実効的な過剰与信規制の実現を求めたところである。
  中間整理は、こうした2008年改正割賦販売法のクレジット過剰与信規制を緩和しようとするものであるが、①少額・低リスクのサービスであっても、他社債務や延滞事故発生状況を確認・登録せずに利用ができるとすると、別々の業者から少額の与信を複数受けることが可能となり、債務額が増大化するおそれがある。こうしたおそれは、少額・低リスクのサービスへの新規事業者の算入拡大が予想される中で看過できないものである。そして、現在でも若年者への少額・低リスクのサービスでの与信がなされているケースが見受けられる中で、今後成年年齢が引き下げられ、適正な与信審査がなされなければ、若年者の多重債務の増大を招くおそれが一層強くなる。
  また、②技術やデータを活用した与信審査についても、現行法の画一的な支払い可能見込額調査に比して、その代替手段としての合理性が認められる内容であることが客観的に検証されているかにつき疑問がある。各クレジットカード会社が独自に収集するビッグデータやAIを活用したスコアリングモデルによる与信審査基準には、必ずしも個々の消費者の信用力に関係しない要素も含まれる可能性があり、他社債務・延滞事故発生状況がわからない前提での与信審査には限界があるといわざるを得ない。多重債務防止のためには、やはり画一的な支払可能見込額調査のために、使用義務を課すべきである。
  以上のとおり、中間整理は、クレジット債務の状況を業界全体で共有することによって過剰与信を規制するという2008年改正割賦販売法の趣旨を根本的に没却するものであるから、当会はこれに反対する。

2019年(令和元年)7月25日

京都弁護士会    
会長 三  野  岳  彦


      
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