福島原発事故によって生じた除染土の再生利用に反対する会長声明


福島原発事故によって生じた除染土の再生利用に反対する会長声明


  環境省は、2025年(令和7年)3月、東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下「福島原発事故」という。)で発生した除去土壌(以下「除染土」という。)について、放射性物質の濃度が8,000Bq/Kg以下の土壌を再生利用するための基準やガイドラインを定める省令改正を実施し、同年4月1日に施行した。これを受けて政府は、同年5月27日、全国で再生利用を進めるための基本方針を決定した。
  この省令改正は、2020年(令和2年)にも同様の改正案が示されたが、当時はパブリックコメント等で反対意見が多数寄せられ、見送られた経緯がある。対象となる除染土は、福島県大熊町・双葉町の中間貯蔵施設に保管されている約1,400万立方メートルのうち、放射能濃度が8,000Bq/Kg以下のものが約4分の3に及ぶとされている。政府は、最終処分前に再生利用を進めて保管総量を減らす意図とみられるが、以下の重大な問題がある。
1  制度間の整合性に重大な疑義がある
  原子炉等規制法(以下「炉規法」という。)に基づく放射性物質の取扱いでは、放射能濃度が概ね100Bq/Kgを下回るものが「クリアランスレベル」とされ、放射性物質としての管理を要しないとされている。一方、8,000Bq/Kgという基準は、廃棄物処理や環境分野の運用上設定されたものであり、炉規法の基準とは法体系およびリスク管理の考え方が異なる。
  したがって、環境省が進める「8,000Bq/Kg以下の除染土の再生利用」は、クリアランスレベルを超える放射性物質を一般環境下で利用することを認めるものであり、放射性物質管理の原則との整合性に重大な疑義を生じさせる。
放射性廃棄物の処分は、「人間の生活環境に有意な影響を与えないように行う」ことが原則であるとされている。この原則を逸脱する形で再利用を進めることは、制度全体に対する国民の信頼を損なうおそれがある。
2  被ばくリスク評価には不確実性が残る
  環境省は、8,000Bq/Kg以下の除染土を再生利用する場合、表面を通常の土砂で覆土するなどの遮へい措置を講じることにより、一般公衆の追加被ばく線量は年間1mSv以下に抑えられると説明している。
  しかし、この評価は、作業時間、覆土厚、遮へい材の有無、土地利用形態等の前提条件に強く依存しており、前提条件を変更した場合には、年間数mSvから十数mSvに達する可能性があるとの専門家の指摘もある。
  また、環境省は「10,000Bq/Kgを下回るため特別な防護措置は不要」としているが、実際の作業現場においては、放射能濃度のみならず、実効線量および作業条件に基づいた労働者防護が不可欠である。
  このように、被ばくリスクは評価手法および前提条件によって大きく変動し得るため、現時点において一律に「安全」と断定できる状況にはない。
3  特措法上、再生利用の明確な根拠がない
  除染について定めた「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「特措法」という。)第41条は、除染土に対する措置として「収集、運搬、保管又は処分」を規定しているにとどまり、「再生利用」については明文で規定していない。
  環境省は、再生利用は「処分」に含まれると解しているが、循環型社会形成推進基本法、廃棄物処理法、資源循環促進法等の他の環境関連法令においては、「処分」と「再生・再利用」は明確に区別されており、概念上および制度上の整合性に問題がある。
  このような重要な政策変更を、国会審議を経ることなく、省令改正および基本方針のみで進めることは、立法手続上の透明性および民主的正当性を欠くものである。
4  結論
  以上の理由から、当会は、福島原発事故によって生じた、放射能濃度が100Bq/Kgを超える放射性物質を含む除染土の再生利用に強く反対する。

  2026年(令和8年)1月29日

京都弁護士会
会長  池  上  哲  朗
      



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