国選弁護制度の基礎報酬の抜本的改善を求める会長声明
国選弁護制度の基礎報酬の抜本的改善を求める会長声明
1 刑事弁護の憲法上の意義
刑事弁護は被疑者・被告人の基本的人権を保障し、刑事裁判が適正に行われるために必要不可欠である。憲法第34条は弁護人依頼権を明文で保障しており、この権利は公正な裁判を受けるための根幹をなしている。加えて、大川原化工機事件の公訴棄却判決、プレサンス事件の無罪判決、さらに福井女子中学生殺人事件や袴田事件での再審無罪判決は、刑事弁護人の活動がえん罪被害の防止及び救済に果たす役割の大きさを改めて示している。刑事弁護人は、国家権力による刑事訴追手続きにおいて無罪推定の原則を実質的に保障し、適正かつ公正な裁判を実現するために必須の存在である。
近年では、被疑者段階での弁護、とりわけ取調べの可視化(弁護人の立会)が重視され、公判前整理手続や裁判員裁判への対応など刑事弁護活動は大きく変化するとともに、その業務の負担は質的にも量的にも増大している。佐賀県警察科学捜査研究所の職員によるDNA鑑定で不正が発覚した事例に見られるように、捜査機関側の鑑定の信用性を争うべき事案も少なくなく、刑事弁護の専門化、高度化は一層進んでおり、刑事弁護人の職責はより重要なものとなっている。
2 国選弁護人の重要性とそれに見合わない国選弁護報酬の低廉さ
この憲法上の弁護人依頼権を実質的なものとするため、刑事訴訟法では国選弁護制度が定められている。現在、日本の刑事弁護の約9割は国選弁護人が担っており、国選弁護人が被疑者・被告人の権利を守り、適正手続が保障された刑事司法制度を支えるために極めて重要な役割を果たしている。
しかし、国選弁護人の活動を支える報酬体系は、国選弁護人の職責や労力に見合ったものとなっていない。国選弁護報酬は、弁護士が法律事務所経営を維持しながら、適正な弁護活動を行うために必要とされる費用として適正な額とされなければならない。
国選弁護報酬の額は国によって定められているが、もともと、業務に要する時間や労力に比して低額である。国選弁護人の報酬制度では、基礎報酬部分において基本的な交通費、通信費、謄写料などの直接経費、事務所賃料や事務員人件費、光熱費といった間接経費を賄うべきものとされており、それらの経費を差し引いた実質的な報酬はさらに低廉なものとなる。
加えて、近年、社会問題となっている物価高、人手不足による人件費高騰にかかわらず、国選弁護人の基礎報酬の額は2006年(平成18年)から現在まで20年にわたりほとんど変わっていない。この20年の間に消費者物価指数は約18%上昇し、大卒初任給は20%以上、最低賃金は60%以上増加するなど、国選弁護活動に要する経費は著しく増加している。それにもかかわらず基礎報酬は20年にわたりほとんど増額されておらず、経費を差し引いた実質的な報酬は一層目減りしてきている。物価や人件費の上昇傾向は今後も続くことが見込まれ、実質的な国選弁護報酬はさらに減少していくことが想定される。
3 当番弁護士・国選弁護人登録者数の現状
国選弁護を担うことが弁護士にとって経済的な負担となり、若手弁護士を中心に国選弁護から離脱する傾向が顕著になっている。このまま基礎報酬が据え置かれれば、報酬はさらに低廉なものとなり、国選弁護を担う弁護士の確保が一層困難となることは明らかである。実際に、東京や大阪では国選弁護人につながる当番弁護士の登録者数が激減しており、制度の破綻が現実に生じつつある。京都においても、弁護士会員の人数が増えているにもかかわらず、当番弁護士・国選弁護人の登録者数には減少傾向が表れている。このまま国選弁護制度が機能不全に陥れば、憲法上保障された弁護人依頼権そのものが空文化し、刑事司法制度の根幹が揺らぐことになる。
4 結論
すべての市民が等しく弁護を受ける権利を制度として保障し、刑事司法における適正手続を維持するために、国選弁護人を確保することは国の責務であり、弁護士の使命感やボランティア精神に依存することは許されない。国選弁護人の基礎報酬の増額は不可欠であり、喫緊の課題である。現在の国選弁護業務の予算は160億円前後と極めて僅少であり、100兆円規模の国家予算に占める割合は年々低下している。我が国の人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れていると言わざるを得ない。
当会は、被疑者・被告人の権利擁護と公正な刑事司法制度の維持のため、国に対し、国選弁護制度の基礎報酬の抜本的改善を強く求める。
2026年(令和8年)2月16日
京都弁護士会
会長 池 上 哲 朗
会長 池 上 哲 朗
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