日野町事件につき速やかな再審公判の進行を求めるとともに、 検察官抗告の禁止を含む再審法改正を求める会長声明


日野町事件につき速やかな再審公判の進行を求めるとともに、

検察官抗告の禁止を含む再審法改正を求める会長声明



  最高裁判所は、2026年(令和8年)2月24日付で、いわゆる日野町事件の第二次再審請求について、検察官の特別抗告を棄却する決定(以下「本決定」という。)をした。これにより、大津地方裁判所による2018年(平成30年)7月11日付再審開始決定(以下「開始決定」という。)が確定することとなった。
  当会は、「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の鉄則に従って再審開始を認めた各決定を高く評価するものであるが、同時に、阪原弘氏の逮捕以来38年という長期間を要し、この間、同氏が無期懲役受刑者としての立場のまま亡くなられたこと、すなわち、人ひとりの人生がえん罪被害により丸ごと奪われ、その人の命があるうちに救済に至らなかったという事態について、その重さを深刻に受け止め、えん罪の根絶を求める立場から、深く遺憾の意を表明せざるを得ない。
  本件は、1984年(昭和59年)12月に滋賀県蒲生郡日野町で発生した強盗殺人事件とされる事案であるが、殺害行為や被害品である金庫奪取行為がいつ・どこで行われたのか等の事件の核心をなす事実関係が未解明のまま、警察は1988年(昭和63年)3月に被害者方店舗の常連客であった阪原弘氏を逮捕し、苛烈な取調べの末に「自白」をさせた、典型的な見込み捜査と自白依存型の事件である。阪原氏は、起訴後一貫して無罪を訴えたが、第一審判決(大津地方裁判所)は、「自白」はその内容にしたがった認定ができるほど信用性が高くないとしながら、阪原氏が犯人であることは自白以外の間接事実のみにより推認できるとして無期懲役判決を言い渡した。他方、控訴審判決(大阪高等裁判所)は、間接事実のみによっては犯人であるとの推認はできないが、「自白」の基本的根幹部分は信用できるとして、阪原氏を犯人とする根拠については第一審判決と全く逆の理論構成をしつつ、有罪の結論には誤りはないとした。最高裁判所は阪原氏の上告を棄却し無期懲役判決を確定させたが、第一審判決と控訴審判決の有罪認定の根拠が全く異なることから、有罪の根拠が極めて脆弱であることが明らかな事案であった。
  第二次再審請求においては、阪原氏が被害金庫発見場所に捜査官を案内したとされる引当実況見分調書の写真ネガが証拠として開示され、同調書の写真の順番の入れ替えが行われていたことが明らかになったこと等が開始決定に結びついたが、第一次再審請求段階で速やかに適切な証拠開示がなされていれば、阪原氏が存命のうちに再審開始に至ったはずである。
  また、検察官が開始決定に対する即時抗告申立てを行い、即時抗告棄却決定に対してもさらに特別抗告を行った結果、再審開始決定の確定が7年7カ月も遅延する結果となった。本決定は、検察官の抗告に理由がないことを明らかにしたものであるが、理由のない抗告を繰り返して、根拠薄弱な有罪判決の維持に固執した検察官の対応は、えん罪の救済に背を向けたものであり、公益の代表者としての役割を履き違えたものと言わざるを得ず、強く非難されなければならない。そして、そのような対応を可能とする現行再審法の規定には、えん罪救済制度として重大な欠陥がある。
  当会は、2026年(令和8年)2月16日に「えん罪救済を困難にする法制審議会による再審法改正案に反対し、国会において『えん罪救済のための再審法改正』を求める意見書」において、同月12日に法制審議会が答申した再審法改正に関する要綱(骨子)が、再審開始決定に対する検察官の不服申立てを維持していることの不当性を指摘したが、日野町事件について本決定がなされたことは、まさにその不当性を如実に示し、検察官の不服申立てを禁止する法改正が必要であることを示す立法事実である。
  よって、当会は、検察官に対し、日野町事件の再審公判においては、これ以上えん罪救済を妨げる有罪主張を行わないよう求めるとともに、政府及び国会に対し、あらためて、①義務的証拠開示命令制度の創設及び②再審開始決定に対する検察官の不服申立ての禁止を含む、真にえん罪被害者を救済可能とする再審法改正を行うことを求める。

  2026年(令和8年)3月2日

京都弁護士会                

会長  池  上  哲  朗
    


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