治安維持法が初めて適用された京都の地から、基本的人権の堅持・尊重を求める会長声明


治安維持法が初めて適用された京都の地から、
基本的人権の堅持・尊重を求める会長声明


  2025年(令和7年)は、治安維持法公布から100年目の節目の年であった。
京都は、治安維持法が国内で初めて適用された京都学連事件の発生場所であり、当会は2025年(令和7年)12月6日に、「治安維持法100年-歴史に学び、未来を守る」と題したシンポジウムを開催した。
治安維持法は「国体の変革」等を目的とする結社・言論を取り締まるものであり、市民の思想・信条の自由そのものを監視し、圧殺した。小林多喜二のように残虐な拷問の末殺害された市民も多数に及んだ。朝鮮、台湾、満州国では2000名に及ぶ市民が死刑判決を宣告された。京大俳句会事件のように、思想検事の独断偏見により、活動家ではない単なる詩人達の集まりも容赦なく弾圧された。
このような歴史を経て、第二次世界大戦後、日本国憲法が制定され、思想・信条、表現、及び人身の自由が厚く保障されるに至った。

  しかし、2013年(平成25年)以後、特定秘密の保護に関する法律、共謀罪法(「テロ等組織犯罪準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正)、重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律、重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律、能動的サイバー防御法(重要電子計算機に対する不正な行為による被害の防止に関する法律および同整備法)等の、市民の行動を網羅的に監視・取締することを可能とする法律が、次々と制定されてきた。
さらに、2025年(令和7年)10月20日に、自由民主党と日本維新の会は、「インテリジェンス・スパイ防止関連法制について、2025年度(令和7年度)に検討を開始し、速やかに法案を成立させる」ことを内容とする政権合意を行うに至り、その一環として、外国のスパイ活動への対処等を調査審議する「国家情報会議」を置き、その事務局として「国家情報局」を設置するとする国家情報会議設置法案(インテリジェンス・スパイ防止関連法制の1つ)が本年3月13日に閣議決定され今国会に提出されている。

  しかし、そもそも日本国内においてインテリジェンス・スパイ防止に関する法案を制定する必要性を基礎づける立法事実の存在について具体的な説明はなく、法案の必要性について根本的な問題が存在する上、インテリジェンス・スパイ防止という極めて抽象的な目的のもとに対象行為の設定・運用が国家により恣意的に行われるおそれが払しょくできない。
このように目的の正当性の検証が困難であることに加えて、思想・信条の自由や表現の自由にかかわる制限である以上、権利の制限は必要最小限度でなければならず、必要以上に広範囲かつ重い制限を行うような法制度は許されない。治安維持法は、国体護持という極めて抽象的な概念に基づき、国家権力による国民の権利侵害として安易にかつ恣意的に濫用されたという歴史的教訓を決して忘れてはならない。

  当会は、憲法の基本原理である基本的人権の尊重を再確認するとともに、治安維持法下で生じた深刻な人権侵害を二度と繰り返さない社会を目指すことを強く誓う。そしてこれからも、立憲主義の理念の下、憲法の基本的人権尊重原理を実現するための取組(街頭宣伝活動・シンポジウム等)を継続し、市民とともに行動していく決意を表明するとともに、内閣と国会に対して基本的人権を堅持・尊重することを求める。

  2026年(令和8年)3月26日
京都弁護士会    
会長 池上哲朗

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