文部科学省及び京都府による 教育基本法第14条第2項違反の認定に抗議する会長声明


文部科学省及び京都府による
教育基本法第14条第2項違反の認定に抗議する会長声明


  2026年(令和8年)3月16日、同志社国際高校の沖縄研修旅行において発生した転覆事故により、乗船していた同校の生徒と船長の2名の尊い命が失われた。当会は、亡くなられた2名の方に衷心より哀悼の意を表する。
  この事故に関し、文部科学省は、2026年(令和8年)5月22日、名護市辺野古への在日米軍新基地建設工事に関する学習が、教育基本法(以下「法」という。)第14条第2項に違反すると認定し、学校法人同志社に対し指導通知を発出した。また、京都府も、文部科学省と同様の見解に立ち、同志社国際高校に対して是正措置を取るよう指導した。1947年(昭和22年)の教育基本法の施行以来、同条項違反が認定されるのは(改正前の旧第8条第2項も含め)初めてのこととされる。
  しかしながら、教育行政が、重大事故について学校の安全管理責任を検証することと、法第14条第2項違反を問擬することとは別問題である。
  法は、「平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成」を目的とし(第1条)、第14条第1項で「良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」と定めている。この政治的教養の教育において、国家・社会の形成者としての資質や能力を育むために、現実の具体的な政治的事象も取り扱って、生徒が自らの判断で権利を行使することができるよう、具体的かつ実践的な指導を行うことが重要である。したがって、「法律に定める学校は、特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない。」と定める同条第2項の規定については、現実の政治的諸課題を取り扱うことを禁じるものではなく、特定の政党を支持・反対することを目的として、生徒が主体的に考え判断することを妨げるような内容の政治教育や政治的活動を禁じるものと解される。
  今回の同志社国際高校による上記学習には、普段新基地建設抗議に使用されている船に乗るプログラムが含まれていたが、実際の抗議行動に参加したわけではないし、配布されたしおりや講話に反対派の主張が含まれていたとしても、それは当事者からのヒアリングであって、学校側が生徒に反対運動への支持を強制したわけでもない。それらは、特定の政党を支持・反対することを目的とするものではなく、生徒が主体的に考え判断する機会を奪う態様ということもできないから、法第14条第2項に違反するものとはいえない。むしろ教育基本法が求める「良識ある公民たるに必要な政治的教養」を育むためには、対立の現場を五感で知ることで、生徒自身が主体的に考え、議論を深める「主権者教育(アクティブ・ラーニング)」としての意義は否定されるべきでない。
  本件事故の検証と法的責任の判断は、学校と運航団体の安全管理体制、乗船判断の是非を客観的に精査することが必要である。むしろ、法第14条第2項の適用は、事故原因と教育内容の峻別を曖昧にし、法第16条が禁じる教育内容への不当な介入となり、同項の適用により政治教育を萎縮させる危険性も看過できない。
  さらに、京都府は、法第14条第2項違反を理由として、学校法人同志社への補助金の減額及び過去の交付分の返還を検討していると報道されている。しかし、上述のとおり、法第14条第2項違反の認定自体教育内容への不当な介入である上、教育内容に着目した不利益取扱は、憲法第26条が保障する教育の機会均等や私学の教育の自由を侵害するものであり、私立学校の教育の振興と保護者の教育費負担の軽減を図るとした「京都府私学運営費補助金交付要綱」(以下「要綱」という。)の趣旨にも反するものである。
  したがって、当会は、文部科学省に対し、教育内容に不当な介入をしたことに抗議し、速やかに法第14条第2項違反の認定を撤回することを求めるとともに、京都府に対し、法第14条第2項違反の認定を撤回し、憲法第26条に違反し要綱の趣旨にも反する法第14条第2項違反を理由とした学校法人同志社への補助金の減額及び過去の交付分の返還請求をしないよう求める。

      2026年(令和8年)6月11日


京都弁護士会    
会長 谷  口  直  大


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