最低賃金額の「全国平均1,500円」の実現時期を先延ばしにすることに抗議し 「2020年代」との目標の堅持を求める会長声明
最低賃金額の「全国平均1,500円」の実現時期を先延ばしにすることに抗議し 「2020年代」との目標の堅持を求める会長声明
1 2026年(令和8年)7月21日付「経済財政運営と改革の基本方針2026「責任ある積極財政」元年~日本の挑戦を起動する!~」(いわゆる「骨太の方針」)は、最低賃金の引上げに関し、「2020年代に全国平均1,500円という高い目標(骨太方針2025)の達成に向け、官民でたゆまぬ努力を継続し、労働生産性の継続的な向上を図ることで、遅くとも2030年代前半できる限り早期に全国平均1,500円を達成する。」と定めた。そこで引用される2025年(令和7年)6月13日付「経済財政運営と改革の基本方針2025~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」では、「賃上げこそが成長戦略の要」であると位置づけた上、最低賃金については「最低賃金を着実に引き上げ、2020年代に全国平均1,500円という高い目標に向かってたゆまぬ努力を続ける。」としていたところであるが、上記の修正について成長戦略本部事務局の担当者は、報道によれば、「遅くともを追加し、期限を明確化した」趣旨であると述べている。
すなわち、上記基本方針2025では「2020年代に全国平均1,500円」と既に達成時期が明記されていたにもかかわらず、「日本成長戦略(案)」はその時期を「2030年代前半」へと先延ばしにし、かつ「できる限り早期」と抽象化するものであるといわざるを得ない。また、「賃上げこそが成長戦略の要」であるとの位置づけもなされておらず、他方で投資と賃上げの好循環を強調しており、これまでの政府方針を大きく転換するものである。
2 最低賃金は「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的」とするものであり、当会としても、繰り返し発出してきた会長声明等において、物価上昇と実質賃金の低下傾向の中で、特に低賃金労働者の生活を支え、地域経済を活性化させるために、最低賃金の大幅な引上げが重要であることを強調してきた。
実際にこれまでは中央最低賃金審議会でも毎年度相当額の最低賃金の引上げが答申されており、地方最低賃金審議会でもそのとおりの、あるいはそれ以上の額の引上げが継続的に行われてきたところである。最低賃金の大幅な引上げの重要性はもはや共通認識であり、従来の「2020年代に全国平均1,500円」という方針は昨今の大幅な物価上昇よりも前に策定されたものであることからすると、現状ではより高い最低賃金目標の設定が必要な状況であるとさえいえるのであるから、最低賃金を大幅に引き上げる当該方針を着実に達成することは最低限必要である。
最低賃金の大幅な引上げについては特に中小企業の事業活動への影響を懸念する指摘があるが、労働政策研究・研修機構「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」(2025年)の概要(速報)によれば、最低賃金の引上げによる事業への影響については「受けていない」との回答が40%弱で最も多く、他方で経営が苦しくなったとの回答も25%程度あったが、中小企業への支援策を講ずることによってカバーすることが可能であり、上記「概要」でも、最低賃金の引上げや賃金の引上げに対応していくために期待する政策的支援として、賃金を引き上げた場合の税制優遇(所得拡大税制等)の拡充や助成金の拡充を求める意見が多く上がっているところである。
3 このように、特に低賃金労働者の生活を支え、地域経済を活性化させるためには、中小企業への十分な支援策を講じつつ、従来の政府方針である「2020年代に全国平均1,500円」を堅持することがどうしても不可欠である。
当会は、最低賃金全国平均1500円の達成時期についての「2030年代前半できる限り早期に」という方針に対して抗議するとともに、これを撤回し、従前の政府方針である「2020年代」を堅持するよう、強く求めるものである。
2026年(令和8年)7月23日
京都弁護士会会長 谷 口 直 大
ダウンロードはこちらから→[ダウンロード](.pdf 形式)
