永住許可要件を厳格化するガイドライン改定に反対する会長声明


1  2026年(令和8年)8月4日、出入国在留管理庁は、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)22条が定める永住許可の要件を厳格化するガイドラインの改定案(以下「本件改定案」という。)を公表した。
本件改定案は、「独立の生計を営むに足りる資産」(入管法22条2項2号)を有するか否かという独立生計要件について、世帯人数に応じた日本人世帯の平均収入を上回る水準の年収(以下「水準年収」という。)に継続して達していることを考慮要素とするとして、これまでの基準を引き上げる。また、将来の年金の受給見込額(申請時点の年齢、申請時点までを含む加入対象期間全ての年金の加入状況及び申請時点の年収から推計される。)が、水準年収で30年間働き、その期間、厚生年金に加入していた場合に将来受給可能な年金の見込額に達していること(不足分は金融資産による補充を認める。)を新たな考慮要素として追加する。「日本国の利益に合する」(同条項柱書)かという国益要件については、積極的かつ具体的に当該外国人の永住が日本国に利益をもたらす必要があることを明記し、公共の負担とならないことを重要な考慮要素とするほか、日本語能力等の新たな要件を追加する。
本件改定案は2027年(令和9年)4月1日以降の申請分から適用されるが、年収の水準及び公共の負担とならないことという評価基準は、2026年(令和8年)4月1日以降の申請で同年10月1日に審査中の案件にも遡って及ぶとされる。
本件改定案によって、これまでの基準であれば永住許可を受けることができていた者の多くが新たに永住許可を受けられなくなることは確実である。

2  出入国在留管理庁は、本件改定案による許可要件厳格化を、永住許可は法務大臣が入管法により認められた裁量権に基づいて判断するものであり、在留許可は日本に在留を希望する外国人にその権利に基づかずに一定の利益を付与する性格を有すること等を挙げて正当化する。しかし法務大臣の裁量も、立憲主義の下、憲法や日本が批准した国際人権条約による規制を受けるのであって、無制限ではない(憲法98条1項及び2項)。憲法や国際人権条約に照らして本件改定案には以下のとおり重大な懸念がある。

3  まず永住許可は、在留期間の更新を要せず活動の制限も受けない在留資格を付与する唯一の行政処分であり、日本に生活の本拠があり、就労し、納税し、家族を形成してきた外国籍住民にとって、生活を支える法的基盤である。日本で生まれ育った者等日本にしか生活の基盤がない外国籍住民の「自国にとどまる権利」(自由権規約12条4項、自由権規約委員会の一般的意見27パラグラフ19。Nystorm v Australia, No. 1557/2007 (18 July 2011)、Warsame v Canada, No. 1959/2010 (21 July 2011))を保障するための極めて重要な在留資格という意味合いもある。
ところが本件改定案は、10年以上にわたり日本で安定した生活を営み、既に日本にしか生活基盤のない外国籍住民であっても、日本人世帯の平均を上回る水準年収等の厳格化された要件を満たさない限り永住許可を取得できないこととして、在留安定の道を閉ざし、「自国にとどまる権利」の保障を危うくする。長年に渡り誠実に働き、税や社会保険料を納付してきた多くの外国籍住民を、水準年収に満たないことなど所得階層のみを理由として永住者資格から排除する点で、財産を理由とする差別を禁止する自由権規約26条や平等原則を定める憲法14条1項に違反するおそれもある。
また、本件改定案による永住許可要件の急激な厳格化は、従前のガイドラインを前提に永住許可を得ることを目指して努力してきた外国籍住民の人生設計を突き崩すという点で極めて残酷である。外国人にも、権利の性質上許されないものを除き基本的人権の保障は等しく及ぶところ(最高裁昭和53年10月4日大法廷判決参照)、外国籍住民の幸福追求に対する権利(憲法13条)も当然に保障され尊重される。しかし本件改定案は、長年日本で暮らし永住許可を得ることを目指して努力してきた外国籍住民らの幸福追求権を尊重するものではなく、むしろあえて踏みにじるようなものであって、非人道的な取扱い(自由権規約7条)にあたるおそれすらある。
そして、憲法や人権条約が保障するこれらの人権の侵害や制約を生じさせてでも永住許可要件を厳格化することの必要性・相当性を基礎づける具体的事実は示されていない。

4  適正手続の観点でも問題がある。永住許可に関するガイドラインは、入管法22条が定める抽象的要件を具体化して審査基準を明確化し、予見可能性を確保するために2006年(平成18年)より策定・公表され、直近では本年2月に改定されたものであり、その運用と改定にあたっては予見可能性を確保することが必須である。ところが本件改定案が新設する水準年収等に係る基準は、ガイドライン改定前にされた申請にも遡って適用される。審査基準を事後的に差し替えて申請時に存在しなかった要件を課すのはいわば「後出しジャンケン」であり、適正手続保障の要請(憲法31条)に著しく反する。
  また、本件改定案は、入管法22条2項の「独立の生計を営むに足りる資産」という文言からは導くことの困難な水準年収や将来の年金受給見込額といった実質的過重要件を、国会審議を経ず出入国在留管理庁によるガイドラインの改定という形式で追加している。これは法律による行政の原理(憲法31条)に照らして重大な疑義がある。

5  以上の理由により、当会は、法務大臣及び出入国在留管理庁長官に対して、憲法違反の重大な疑義のある本件改定案で示した永住許可要件の厳格化の見送りを求める。また、外国籍住民を含むすべての人が人権を等しく保障される共生社会の実現に向けた施策を力強く推進することをあらためて求める。

      2026年(令和8年)8月25日

京都弁護士会
会長  谷  口  直  大  
    

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