有事法制三法案可決に対する会長声明(2003年6月6日)


会 長 声 明


  1. 本日、参議院本会議において、有事法制三法案が賛成多数で可決された。
      当会は、この有事法制三法案は、憲法の基本原則(国民主権、基本的人権尊重、平和主義、地方自治の本旨尊重)に照らし様々な問題があるので、充分な審議を尽くし、問題点が解消されない限り廃案にすべきであると主張してきたが、本日、誠に残念ながら参議院本会議において、可決されるにいたったものである。
  2. しかしこの法案には以下の疑問がある。
    1. この法案の「武力攻撃予測事態」の定義や適用範囲は参議院の有事法制特別委員会及び審議においても曖昧なままであり、「予測事態」と周辺事態法の「周辺事態」との異同や両法が発動される場合の関係が依然として不明確であって、軍事力行使の基本を定める法制として極めて大きな危険をはらんでいる。
    2. 有事認定の客観性を担保するために新たに規定された、有事の「認定の前提となった事実」を対処方針に定めるとの点についても、その内容は不明確で判断の客観性を担保するうえで十分でない。
    3. 法案は、国会の事前承認を認めておらず、国会による民主的コントロールが適切に及ばない蓋然性が高い。
    4. 有事における内閣総理大臣の地方自治体等に対する指示権、代執行権は、当面凍結されたとしても何ら変更されておらず、有事における地方自治が維持できない危険性がある。
    5. 有事における民放を含むメディアに対する政府による統制の危険性も完全に排除されていない。
    6. 自衛隊法改正案中の、国民の基本的人権と真っ向から抵触する部分に対してなんらの手当てがなされておらず、基本的人権の保障の観点からみて極めて大きな問題がある。
    7. 危機管理庁の設置等につき不透明な部分が多く、問題の多い法案を拙速に成立させたとの疑念を拭えない。

      以上のとおり、この法案には憲法の基本原則に照らし多くの重大な問題点が存在し、有事法制三法案に対し当会が指摘してきた様々な危険性は全く解消されていない。
  3. この法案は、衆議院において、自由民主党と民主党の衆議院有事法制特別委員会理事の密室での協議によって政府案の修正合意をし、与党及び民主党、自由党は、それにもとづき僅か数時間の同委員会審議と衆議院本会議における審議で衆議院を通過させているが、本修正案のもつ上記の重大な問題点に照らすと、民主主義による審議のあり方としても極めて大きな問題があった。
      当会は、このような重要法案について、十分な国民的議論も国会審議もないままに衆議院本会議において可決されたことに強い危惧と遺憾の意を表し、参議院において、この法案について徹底的な審議を行い、上に指摘した法案についての問題点を明らかにし、問題点の解消にいたらなければ有事法制三法案を一旦廃案にし、新たに出直すことを強く求め、参議院において、党派を離れ良識の府にふさわしい審議が尽くされることを強く期待していた。
  4. しかしながら、参議院においても極めて不十分な審議に終始した結果、この法案がもつ問題点が解消されないまま、本会議において可決されたことについて、当会は、改めて遺憾の意を表さざるを得ず、憲法の基本原則が大きな危機を迎えたことを深く憂慮する。当会は、引き続き今後ともこの法案のもつ問題点を市民の前に明らかにしていくとともに、この法案にもとづき制定されていく法律が憲法の基本原則を損なうことがないように注意深く見守り、基本的人権を保障するための仕組み創設に向けてさらに努力を続けていく所存である。
      また、憲法の基本原則をいま一度かみしめ、それが揺らぐことのないように最大限の努力をすることを改めて決意するものである。

                                                      2003(平成15)年6月6日
                                          
    京都弁護士会  塚  本  誠  一

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