意見書

「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会報告書についての意見書」(2016年8月17日)


2016年(平成28年)8月17日


内閣総理大臣  安  倍  晋  三  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  松  本      純  殿
消費者庁長官  岡  村  和  美  殿
消費者委員会委員長  河  上  正  二  殿


京  都  弁  護  士  会

会長  浜  垣  真  也
  


消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に

関する検討会報告書についての意見書



第1  意見の趣旨
1  特定適格消費者団体(以下「団体」という。)の情報面の支援につき、団体による電磁的方法による情報提供申請を可能とするともに、提供される情報の範囲として「処理結果」を追加すべきである。また、団体に費用負担が発生しない形で、PIO-NETにアクセスできる端末配備を実施すべきである。
2  団体の財政面の支援につき、直接的に団体に資金援助をする支援策を実施すべきである。仮に、そのような支援策が困難であるとすれば、地方消費者行政推進交付金の活用事例として、団体による被害回復関係業務を挙げ、団体が同交付金を被害回復関係業務に利用できる環境整備をすべきである。
3  不特定多数の者からの寄附増進のため、寄附者の氏名、住所及び職業を記録させる消費者契約法施行規則21条8号の規定を改正し、少なくとも一定の金額以下の寄附を受ける場合には、これらの情報の記録を不要とすべきである。
4  団体の財政面の支援につき、消費者庁において差止請求及び被害回復関係業務に活用できる基金を創設し、同庁がその運用に携わるべきである。
5  仮差押えの担保に係る措置につき、独立行政法人国民生活センターを立担保実施機関として、団体の要請に応じ立担保を実施すべきである。また、結果的に、団体が共通義務確認訴訟に敗訴し、同判決が確定したり、第2段階で授権をする消費者が少なかったために過剰執行と評価されるような事態となった場合であっても、団体が故意又は重過失により事業者に損害を与えた場合を除き、求償が免除されるべきである。
6  活動実績に関する書類を簡素化するため、ガイドラインを改訂して、活動実績に関する書類としては概要を示す書類で足りることとすべきである。
7  適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドラインを改訂して「差止請求関係業務を適正に遂行するための体制が整備されていることを証する書類」(消費者契約法14条2項4号、同法17条6項)の例示から議事録を削除し、公衆の縦覧に供する書類から除外すべきである。
8  役員等の住所等の変更の届出を簡素化すべく、内閣府令を改正して、役員、職員及び専門委員の住所、略歴及び電話番号その他の連絡先については変更の届出が必要ないものとすべきである。
9  適格消費者団体及び特定適格消費者団体の認定の有効期間を原則として5年間に伸長すべきである。

第2  意見の理由
1  総論
  2013年(平成25年)12月4日、消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律(以下「法」という。また、法に基づく制度を「新制度」という。)が成立し、同法は、2016年(平成28年)10月1日から施行される。
新制度は、個々の消費者からの授権に応じて、簡易かつ迅速に被害回復を図れることを目的としている。かかる立法趣旨を実現するべく、新制度は、消費者の利益を代表する消費者団体を訴訟の担い手としているが、団体の活動は、その多くをボランティアに依存しており、現時点では経理的基礎が脆弱である。新制度が持続的かつ実効的に活用されるか否かは、行政による団体支援の内容に大きく影響される。
  今般、消費者庁は、「消費者団体訴訟制度の実効的な運用に資する支援の在り方に関する検討会報告書」(以下「報告書」という。)を公表したところであるが、この報告書は、今後、具体的な団体支援策を定めるにあたり重要な意味を持つ。
  団体の支援策については、新制度の立法趣旨に則ったものである必要があり、個々の消費者が簡易・迅速に被害回復が図れるよう、訴訟の担い手である消費者団体の現状、実状を踏まえたうえで定められなければならない。ところが、報告書を見ると、例えば、財政面の支援として、既存の地方消費者行政推進交付金の利用を促すほか、寄附増進、民間基金の創設を奨励するのみで、なんら具体的な財政支援策が打ち出されていない等、団体が新制度を担うにあたって、不十分な内容となっている。今後、報告書に記載された内容以外に、意見の趣旨記載の具体的支援策を実施すべきである。

2  意見の趣旨1について
  新制度において、団体が差止請求及び被害回復関係業務を行う端緒となるのは、消費者被害に関する情報である。もっとも、消費者からの被害情報のみに依拠して被害の全体像を把握することは困難である。したがって、団体がPIO-NET情報を活用し、消費者被害の実態を把握することを容易にすべく、電磁的方法による情報提供申請を可能とすべきである。
  また、団体が被害回復関係業務に取り組むに際しては事業者の対応状況を踏まえる必要があり、事業者の対応状況をより正確に把握するためには、団体が「処理結果」についても確認できることが望ましい。そこで、提供される情報の範囲として「処理結果」を追加すべきである。
  さらに、速やかな被害回復を行うためには、リアルタイムで消費生活相談に関する情報を入手できることが望ましい。そこで、各団体にPIO-NETにアクセスできる端末を配備すべきである。ただし、現状の団体の経理的基礎の脆弱性に鑑み、端末配備に際しては、団体に費用負担を要求すべきではないと考える。
報告書では、結論としていずれも検討を続けるとするのみで具体的な支援策を記載していない。速やかに上記各支援策を実施すべきである。

3  意見の趣旨2について
  現状、団体の経理的基礎は弱く、団体の活動は、ボランティアに依存している部分が多い。また、現行の差止請求においては、収入を得ることが想定されておらず、かつ、新制度においても、授権をした消費者から報酬、費用の支払を受けることができるものの、報酬・費用については上限が設けられる等の制約があり(法65条4項6号)、報酬により多額の余剰が生じることは考えがたい。このように、現状、新制度によって団体の経理的基礎が劇的に改善されることは考えがたく、団体の資金面の援助の必要性は高い。
  また、団体の行う被害回復関係業務は、本来的には行政が行うべきものであるところ、団体は同業務を行政に代わり行うものである。したがって、団体に対しては、一定の資金援助が行われて然るべきである。海外の消費者団体においては、公益活動を行う場合に国や行政から多額の資金援助を受けて活動している例が多い。
  そこで、団体の財政面の支援につき、直接的に団体に資金援助をする支援策を実施すべきである。
仮に、そのような支援策が困難であるとすれば、少なくとも、次善の策として、地方消費者行政推進交付金の活用事例に、団体による被害回復関係業務を挙げ、それを周知公表することにより、団体が新制度を利用する際に同交付金が使用できる環境を整えるべきである。報告書は、後者の案を記載するのみであり、支援策として不十分である。

4  意見の趣旨3について
  団体の経理的基礎の強化のためには、市民からの寄附を増進する必要がある。ところが、現行法上、団体は、寄附者の氏名、住所及び職業を記録する必要があり(消費者契約法30条、同法施行規則21条8号)、そのことがクラウドファンディング等の匿名者による寄附制度利用の障害となっている。
  そもそも、同法30条の趣旨は、適格消費者団体の業務の適正な運営の確保にあるところ、団体の運営や方針に影響力を及ぼすとは考えがたい少額小口の寄附金についてまで、氏名、住所及び職業等の情報を収集する必要はない。
そこで、寄附増進のため、寄附者の氏名、住所及び職業を記録させる同法施行規則21条8号の規定を改正し、少なくとも、受領する寄附金額が一定額以下の場合には、これらの情報の記録を不要とすべきである。

5  意見の趣旨4について
  現状、団体の経理的基礎は、新制度を運用するうえで十分なものとは言い難い。将来的には、団体が自らの活動のために経理的基礎を強化し、自立的・自主的に活動していくことが望まれるとしても、少なくとも新制度の運用が軌道に乗るまでは、団体を財政面で支援していくことが必要である。
  ところが、報告書においては、民間団体において基金の創設が望まれる旨の記載があるものの、結論として国や行政による具体的な財政支援策はなんら打ち出されていない。そこで、消費者庁において差止請求及び被害回復関係業務に活用できる基金を創設し、同庁がその運用に携わるべきである。

6  意見の趣旨5について
  報告書においては、仮差押えの担保に係る措置につき、独立行政法人国民生活センターを立担保実施機関として、団体の要請に応じ立担保を実施すべきことが明記されている。詐欺的な業者が、会社を倒産させて逃亡することにより、消費者のための被害回復が図れない事例が多く存在する点に鑑みると、仮差押えは団体にとって非常に重要な制度である。その利用可能性を確保すべく、報告書において立担保機関の決定及び立担保の実施という支援策が明記された点は評価できる。
  もっとも、団体が仮差押えを行った際に、その後の本案訴訟(共通義務確認訴訟)が必ずしも認容されるとは限らない。この点につき、判例においては、仮処分を行った者に敗訴判決が言い渡され、同判決が確定した場合に「他に特段の事情のない限り」その者の「過失があったものと推認するのが相当である」とされていることからすれば(最高裁昭和43年12月24日判決、判例タイムズ230号173頁)、団体が共通義務確認訴訟に敗訴した場合に、過失が推認され、その結果損害賠償義務を負うという場合もあり得る。しかし、故意又は重過失により損害を与えた場合はともかく、過失の推認により損害賠償責任が認められた場合にまで、団体が立担保機関から求償を受けるとすると、団体が敗訴をおそれて被害回復関係業務を躊躇する可能性があり、同業務への萎縮効果が大きい。団体が行う被害回復関係業務は、公益的な活動である点からしても、軽過失により損害賠償義務を負った場合には、求償が免除されるべきである。
  また、第二段階で授権を行う消費者の数は未知数であり、結果として授権をする消費者の数が少ないと、仮差押えの被保全債権の金額が消費者に分配すべき金額を上回り、過剰差押えと評価し得るような場合も想定される。もっとも、そのような事態は、様々な事情に左右される事柄であり、団体において完全に予測することは困難である。
  以上のことから、結果的に、共通義務確認訴訟において団体の敗訴判決が確定した場合ないし過剰差押えと評価されるような事態となった場合であっても、団体の故意又は重過失により事業者に損害が生じた場合を除き、求償を免除すべきである。

7  意見の趣旨6について
  団体は、特定認定及び認定の有効期間の更新の際に「差止請求関係業務を相当期間にわたり継続して適正に行っていることを証する書類」を提出する必要がある(消費者裁判手続特例法66条2項2号)。その具体的内容は、ガイドラインに定められているが、活動実績に関する書類等の提出が義務づけられている。
しかし、これらの書類の作成及び整理には、多くの時間及び人員が必要とされる。経理的基礎と人的資源が必ずしも十分といえない団体にとって、これらの時間や人員は、被害回復関係業務を行ううえで足枷となる可能性がある。
  そこで、活動実績に関する書類を簡素化すべく、ガイドラインを改訂して、活動実績に関する書類としては概要を示す書類で足りることとすべきである。

8  意見の趣旨7について
  現状、適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドラインによると、適格消費者団体の活動を記録する議事録は、公衆の縦覧に供する書類とされている。そのため、プライバシーに関わる事項や差止請求を検討したもののそれには至らず公にならなかった事案における事業者の特定に関する事項については、その都度マスキングを行う必要があり、そのための事務作業は適格消費者団体にとってかなりの負担となっている。
  そこで、議事録の公開のための作業を簡素化すべく、同ガイドラインを改定し、「差止請求関係業務を適正に遂行するための体制が整備されていることを証する書類」(消費者契約法14条2項4号、同法17条6項)の例示から議事録を削除し、公衆の縦覧に供する書類から除外すべきである。

9  意見の趣旨8について
  適格消費者団体及び特定適格消費者団体は、役員、職員及び専門委員の住所、略歴及び電話番号その他の連絡先に変更があった場合に変更の届出が義務づけられている(消費者契約法14条2項6号ロ、同法施行規則8条1項、法66条2項6号ロ、同法規則10条1項)。しかし、消費者庁から適格消費者団体ないし特定適格消費者団体の役員、職員及び専門委員に対して個別に直接の連絡をすることは実際には考えられず、消費者庁が役員、職員及び専門委員の住所、略歴及び電話番号その他の連絡先を常時把握している必要性はない。
  そこで、役員等の住所等の変更の届出を簡素化すべく、内閣府令を改正して、役員、職員及び専門委員の住所、略歴及び電話番号その他の連絡先については変更の届出が必要ないものとすべきである。
報告書においては、同様の提案が行われており、妥当である。

10  意見の趣旨9について
  適格消費者団体及び特定適格消費者団体の認定の有効期間は原則として3年間であり(消費者契約法17条1項、法69条1項)、これら団体は、認定の有効期間の更新の都度、多数の書類を用意しなければならず、その事務負担は大きい。他方で、差止請求の制度は、2007年(平成19年)の運用開始から安定的に運用されており、順調に適格認定の有効期間は更新されている。新制度において被害回復関係業務の主体となるのは、適格消費者団体を母体として特定認定を受ける特定適格消費者団体であり、従前と同様に適切に有効期間を更新することが予想されることからすると、厳密に3年という期間毎に、更新手続きを経る必要はないと考えられる。
  そこで、事務負担を軽減すべく、適格消費者団体及び特定適格消費者団体の認定の有効期間を原則として5年間に伸長すべきである。
  報告書においては、認定の有効期間を伸長すべきとしているが、具体的な伸長年数は明記されていない。団体の事務負担の軽減と定期的な監督の必要性とのバランスから、伸長期間は5年とするのが妥当である。

以  上


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