「京都市が『特例許可制度』を変更して一部地域で建物の高さ規制を緩和することに反対する会長声明」(2018年12月19日)(本イベントは終了しました。)


1  京都市は本年11月15日、「特例許可制度」を変更して、市長による認定制度に移行させ、景観審査会の審査を省略することなど手続を緩和させた上で、一部地域で建物の高さ規制を3メートルから11メートルの範囲で緩和をする方針を明らかにした。
その理由として、市中心部におけるホテルの建設が相次いだことで地価が急騰したために市民の新たな住居や働く場の確保が困難になったことから、マンションやオフィスビルを増やし、子育て世代の市外流出を防ぐことを狙いとすることを挙げている。

2  高さ規制の強化は、神社仏閣を除き公園・緑地の少ない盆地都市の京都において、100年後を見据え、三山の眺望景観を保全するとともに、町家の景観を保全し、併せて住環境を守ることによって、よりよい歴史都市・文化都市京都となることを目指してこれまでの政策を大きく転換する決断をするとして、2007年(平成19年)9月に施行された新景観政策に基づくものであり、現在では住民はもとより、経済界、建築学会等も含め、80%を超える市民の賛同するところとなっている。
当会も、2007年(平成19年)2月9日付の意見書で、新景観政策の素案に対し、高さ制限の引下げなどの基本方向に賛同し、不十分な点や問題点について指摘しつつ、これについては住民参加の下に見直すべきことを求めた。

3  今回の高さ規制の緩和は、この新景観政策による高さ規制の強化に逆行するものであるから、その実施にあたっては、それを支える立法事実と手段の相当性が強く求められる。
  この点、これほどの宿泊施設の増加に対しては、事業者からも、もはや繁忙期以外では供給過剰であるとの意見が述べられるに至っている。また、子育て世代の市外流出という実態があるとして、それが地価の高騰が主たる原因であるとする根拠が明らかでない。また、それが仮にそうであるとしても、高さ規制の緩和がかえって地価の高騰を招くことは2015年の京都駅周辺の規制緩和の際にも明らかになっていることから、手段としての相当性を欠く(なお、当会はこの規制緩和を許した「エコ・コンパクトな都市構造を目指した都市計画の見直し」(以下「見直し」という。)の案)についても、2015年(平成27年)3月26日付意見書で反対を表明している。)。
  規制緩和の対象地のひとつとされる御池通は、2003年(平成15年)までに約49億円を投じて整備した市のシンボルロードであるところ、この通りに面した建物に3mから5mの高さの突出する建築を許容することは、政策の整合性を欠くといわざるを得ない上、東山の眺望という京都の重要な大景観を阻害する。これによる市民の景観利益の侵害は小さくない。
  また、市営地下鉄竹田駅および同太秦天神川駅周辺については、前述の「見直し」により、場所によっては容積率を最大で50%、建ぺい率を33%も増加させた上に、高度地区の種別変更により北側斜線規制の廃止や用途地域の変更を行って、建築物に対する建築規制を緩和しているところ、今回の規制緩和はこれと同様の地区を対象としており、前回の規制緩和の効果やその緩和部分の建築利用の実態(利用し尽くされたか)についての検討もなされたとは認められないことから、今回の規制緩和により子育て世代の都心回帰の効果があるとはいいがたい。他方で、容積率・高さ規制の緩和によって建物の建て詰まりが生ずると、住民の持続可能な居住の権利・利益が侵害される蓋然性が高い。
  そうすると、今回の規制緩和については、立法事実、手段の相当性ともに認められないと言わざるを得ない。他方で、市民・住民の景観利益や居住の権利・利益を侵害するおそれが高い。

4  これに加えて手続の上からも、高さ規制の緩和の手法として、これまで病院など公益性の高い施設に限定されていた「特例許可制度」を市長による認定制度に移行し、手続きを簡素化して景観審査会の審査を省略することとされている。
  ここで、景観審査会の審査を行わせる趣旨は、原則建築の禁止された建物について、当該地域にこれを建築する必要性と当該地域住民の持続可能な居住の権利・利益との調整をはかり、もって当該地域の景観と住環境を維持・保全・改善するところにある。
景観審査会は各分野の専門家で構成され、住民の意見書に対する事業者の応答義務(見解書)などが定められたことにより、専門家や住民によるチェックが行われて、この利害調整が機能していた。
  ところが、今般の方針では、市の定めた一定の要件を満たせば市の認定を受けて原則禁止の建物の建築が可能となることから、新景観政策に移行する眼目であった利害調整の機会の付与という重要な機能をなくしてしまうというのであって、この政策変更が市民・住民の景観利益や居住の権利・利益に与える影響は誠に大きいものであり極めて問題である。

5  以上の理由により、当会は、この度の京都市の「特例許可制度」の変更による一部地域の建物の高さ規制の緩和に反対するものである。

      2018年(平成30年)12月19日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明


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