「沖縄県民の民意を尊重し、強行的な辺野古新基地建設工事の抜本的見直しを求める会長声明」(2019年2月25日)(本イベントは終了しました。)


沖縄県民の民意を尊重し、強行的な辺野古新基地建設工事の抜本的見直しを求める会長声明


1  政府は、2018年(平成30年)12月14日、米軍海兵隊の普天間飛行場の代替施設として建設予定である辺野古新基地の建設に向け、辺野古沿岸部に土砂投入を開始し、現在も埋め立て工事を続行している。
  しかし、過去2回の県知事選挙においては、いずれも辺野古新基地建設の是非が主要な争点となり、2014年(平成26年)11月には翁長雄志氏が、2018年(平成30年)9月には玉城デニー氏が、いずれも新基地建設反対の公約を明確に掲げ、大差で当選した。さらに、昨日(2月24日)実施された基地建設のための埋め立ての賛否を問う県民投票の結果も、反対多数となった。これらの結果は、沖縄県民の辺野古新基地の建設に反対する民意を端的に示している。

2  沖縄県では、太平洋戦争において、史上まれにみる熾烈な地上戦が行われ、すさまじい砲撃により緑豊かな島々は焦土と化した。沖縄に上陸した米軍は、土地の強制接収を行い、次々と新しい基地を建設し、住民は土地を奪われた。
  戦後、沖縄県は、1972年(昭和47年)の本土復帰まで27年間にわたり、米軍の施政権下にあり、また本土復帰後も、本土では基地の整理縮小が進む中、沖縄には多くの米軍基地が日米安全保障条約に基づく提供施設・区域として引き継がれた。現在では国土面積の約0.6%しかない沖縄県に、全国の米軍専用施設面積の約70.6%が集中し、沖縄県民は過重な基地負担を背負い、その負担は重くのしかかっている。世界で最も危険と評される普天間飛行場についても、現状のまま固定されることは、決してあってはならないことである。

3  しかし、普天間飛行場の代替施設として新たに辺野古新基地を建設することは、沖縄県及び沖縄県民にのみ過重な負担を強い続けるという意味において、法の下の平等を定めた日本国憲法14条の精神に反するものである。
  また、辺野古新基地の建設に反対する沖縄県民の意思が繰り返し明確に示されているにもかかわらず、これを無視するかのように辺野古新基地建設のために土砂投入し埋め立てを強行することは、沖縄県民の尊厳を踏みにじるものであり、個人の尊厳を定める日本国憲法13条の精神に反する。
  このような現在の沖縄県及び沖縄県民の置かれた状況は、基本的人権の擁護の観点からすると看過できない深刻な状況であり、人権問題として捉えなければならない。そして、今回の県民投票で明確に示された沖縄県民の民意を尊重しない辺野古新基地建設は、民主主義に違背するものであり、また、憲法の保障する地方自治の本旨に反すると言わなければならない。

4  さらに、この辺野古新基地建設については、行政不服審査法における制度趣旨の観点からも重大な問題がある。
  沖縄県は、2018年(平成30年)8月31日、辺野古新基地建設につき、埋め立て予定地に軟弱地盤が存在していることが明らかになったこと、サンゴなどの環境対策が十分ではないこと、県との話し合いが不十分なまま工事を進めているなどを理由に、仲井真弘多元知事による埋め立て承認を撤回した。これに対し、国(沖縄防衛局)は、同年10月17日、行政不服審査法に基づき、国土交通大臣に対し、審査請求を行うとともに執行停止の申立を行い、同大臣は、同月30日、執行停止の決定を行ったことから、土砂投入による埋め立て工事が再開、続行されている。
  しかし、そもそも行政不服審査法は、「国民の権利利益の救済」を目的としているため(同法1条1項)、「国民」とは異なる立場に立つ「固有の資格」については明示的に適用除外としている(7条2項)。そして、上記承認撤回処分において、国は公有水面埋立法によって与えられた特別な法的地位(固有の資格)にあるから、一般私人と同様の立場で審査請求や執行停止の申立を行うことは許されない。したがって、今般の国の上記対応は、国民のための権利救済制度である行政不服審査制度を濫用するものであり、法治主義にもとると言わざるを得ない。
  しかも、国の機関である沖縄防衛局が、同じく国の機関である国土交通大臣に対して審査請求及び執行停止を求め、国土交通大臣が審査機関となることは、いわばスポーツにおいて一方の選手が審判を兼ねるようなものであり、審査機関としての中立性、公平性を著しく損なうものである。

5  以上のとおり、辺野古新基地建設を強行することについては、看過することのできない、多数の重大な問題がある。
  今般、沖縄弁護士会は、2018年(平成30年)12月10日、「辺野古新基地建設が、沖縄県民にのみ過重な負担を強い、その尊厳を踏みにじるものであることに鑑み、解決に向けた主体的な取り組みを日本国民全体に呼びかけるとともに、政府に対し、沖縄県民の民意を尊重することを求める決議」を発し、全ての日本国民に対し、沖縄の問題を自らの問題、日本の問題として捉え、同じ国民として痛みを分かち合い、苦しみを共有し、主体的に解決策を模索することを呼びかけた。当会はこの決議に応え、辺野古新基地建設問題の解決に向けた取組を広く市民に呼びかけるとともに、政府に対し、県民投票の結果を尊重し、直ちに行政不服審査法を濫用して実施している辺野古沿岸部への土砂投入を中止し、強行的な辺野古新基地建設工事を抜本的に見直すよう求めるものである。

2019年(平成31年)2月25日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明


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