「ヘイトデモに関する会長声明」(2019年3月27日)(本イベントは終了しました。)


ヘイトデモに関する会長声明

1  2019年(平成31年)3月9日(土)午後、京都市東山区の円山公園から四条通、河原町通を経て京都市役所まで、在日コリアンを地域社会から排除することを扇動するヘイトデモ(以下「本件デモ」という。)が実施された。本件デモは、2009年(平成21年)12月4日に発生した京都朝鮮第一初級学校襲撃事件(以下「朝鮮学校襲撃事件」という。)の10周年を「祝う」と称するものであった。本件デモの徒歩参加者は朝鮮学校襲撃事件の実行グループだった者1名で、同参加者は、観光客や買い物客で賑わう週末の繁華街で、拡声器を用いて、「半チョッパリ(韓国で在日コリアンを侮蔑する呼称)は、地上の楽園北朝鮮に帰れ。」、「ゴミはゴミ箱に、朝鮮人は朝鮮半島に。」、「公園泥棒民族、子ども達に謝れ。」などと連呼した。
    そして、本件デモに抗議する大勢の市民がこれを阻止しようとしたが、京都府警察本部(以下「京都府警」という。)が大規模動員した警察官がデモ参加者を取り囲む中で、本件デモは遂行された。

2  本件デモにおけるこれらの発言は、在日コリアンを著しく侮蔑し、地域社会から排除することを扇動するものである。
これらの発言は、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(以下「ヘイトスピーチ解消法」という。)第2条の「不当な差別的言動」(以下「ヘイトスピーチ」という。)に当たり、在日コリアンの人権を侵害するものであって、到底許されるものではない。

3  朝鮮学校襲撃事件でなされたヘイトスピーチが不法行為に該当するとの裁判所の判断は2014年(平成26年)12月9日に確定し、2016年(平成28年)6月3日にヘイトスピーチ解消法が公布・施行されたことを受け、この間、関係機関においてヘイトスピーチの解消に向けた取り組みが続けられてきた。
すなわち、警察庁は、ヘイトスピーチ解消法の施行日、各都道府県警察に対し、同法の趣旨を踏まえ、警察職員に対する教養を推進するとともに、法を所管する法務省から各種広報啓発活動等への協力依頼があった場合には これに積極的に対応するほか、いわゆるヘイトスピーチといわれる言動やこれに伴う活動について違法行為を認知した際には厳正に対処するなどにより、不当な差別的言動の解消に向けた取組に寄与することを要請する旨の通達を発していた。
また、当会においても、2017年(平成29年)3月23日、京都府及び京都市に対して「ヘイトスピーチへの対処に関する条例の制定を求める意見書」を発出した。
そして、京都府においては同年7月に当会と連携し、ヘイトスピーチにも対応した「差別などの人権侵害に関する特設法律相談」の窓口を開設した。さらに京都府や京都市において、2018年(平成30年)に同法第4条第2項による地方公共団体の責務として、公的施設をヘイトスピーチに利用させないためのガイドラインを策定している。
一方で、国連の人種差別撤廃委員会は、2018年(平成30年)8月30日、人種差別撤廃条約の実施状況に関する第10回・第11回日本政府報告に対し、同年8月16日及び17日に行われた審査を踏まえ、総括所見を発表した。その中で同委員会は、ヘイトスピーチ解消法の施行を歓迎する一方で、同法の適用範囲が極めて狭く、施行後もヘイトスピーチ及び暴力の扇動、インターネットとメディアにおけるヘイトスピーチ並びに公人によるヘイトスピーチ及び差別的発言が続いていることなどに懸念を表明した上で、表現の自由を十分に考慮しつつ集会中に行われるヘイトスピーチの使用を禁止し加害者に制裁を課すことや人種差別禁止に関する包括的な法律を採択することなどの勧告を行った。

4  このようにヘイトスピーチの解消に向けた取り組みがなされる一方で、ヘイトスピーチ解消法の限界が指摘されていた中、上述の態様で本件デモは行われ、ヘイトスピーチが拡散されてしまった。朝鮮学校襲撃事件が発生したこの京都において、国連の人種差別撤廃委員会の上記懸念が現実化したことは、誠に遺憾である。
そこで、当会は、国、京都府、京都市及び京都府警その他の関係各機関に対し、この事実を真摯に受け止め、今後より一層、ヘイトスピーチをなくし、誰もが尊厳をもって暮らすことのできる自由で平和な社会を実現するため、今回のような事態が再び生じることがないように取り組みを進めることを求める。
当会も、国籍や民族の異なる人々が共生する社会の実現に向けて、いっそう積極的に取り組む決意である。

2019年(平成31年)3月27日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明


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