死刑執行に対する会長声明(2019年3月27日)(本イベントは終了しました。)


1  日本国憲法は、刑罰について法の適正な手続を保障するところ、人の生命を国家が強制的に奪う刑罰である死刑制度については、手続のあらゆる段階において、適正手続の保障がとりわけ強く要請される。

2  2018年12月27日、大阪拘置所において、2名の死刑判決が確定した人に対する死刑が執行された。法務省は、個別の再審請求の有無については明らかにしないが、再審請求中の人を含む執行であった。同年において死刑が執行された人は、計15名となり、法務省が執行の事実や人数の公表を始めた1998年11月以降では、2008年と並んで最多となった。
当会は、2018年10月18日「死刑執行に関して適正手続の保障及び情報公開の実現と、これらが実現するまで死刑執行の停止を求める会長声明」を発出した。にもかかわらず、今回の死刑が執行されたことは、極めて遺憾であり、当会は今回の死刑執行に対し、強く抗議する。

3  国際人権(自由権)規約委員会は、2014年7月24日に発表した同規約の実施状況に関する第6回日本政府報告書に対する総括所見(パラグラフ13)において、「(d)死刑事例における再審あるいは恩赦の請求に執行停止効果を持たせつつ、義務的かつ実効的な再審査制度を創設すること」等を勧告していた。
また、今回の執行の10日前である2018年12月17日には、国連総会において、死刑廃止を視野に入れた死刑執行の停止を求める決議が、7度目となる同旨の決議として最多の121か国の賛成により可決されていた。

4  再審請求中の死刑確定者に対する死刑執行は、1999年12月の執行以降、17年半もの間、運用上回避され続けてきたが、政府は、2017年7月13日、同年12月19日にいずれも再審請求中であった人の死刑を執行した。さらに2018年7月6日及び同月26日には連続して合計13名に対する大量の死刑執行を行ったが、この中にも多数の再審請求中の人が含まれていた。2017年以来、毎回再審請求中の人を含む死刑執行が続けられていることは、死刑制度に関する上記のような国際的な動向・世論にかかわらず、日本政府は再審請求中であることをもって死刑執行回避の理由とはしないとの姿勢を世界に示す結果となっている。現に、法務大臣によって、再審請求中であったとしても、当然、棄却されることを予想せざるを得ないような場合などは、死刑の執行を命ずることもやむを得ない等の発言が繰り返されている。

5  しかし、まず、人が行う刑事裁判において誤判は不可避である。いかなる刑事司法制度を構築したとしても、完全に誤判をなくすことはできない。再審という制度が存在しているからこそ、刑事司法手続の正当性が担保されている。しかし、死刑執行は、死刑が確定した本人から再審の機会を絶対的に奪ってしまうこととなる。再審制度と矛盾する死刑制度の存在についても疑問があるが、とりわけまさに再審請求中の死刑執行を許容することは刑事司法制度の正当性を失わせるものであり、適正手続保障の観点から重大な問題がある。
そして、再審請求手続が適法に裁判所に係属している以上、再審事由の有無は司法手続きによって確定されるべき事項である。それにもかかわらず、行政機関である法務省がその結果を「予想」して事案を選別し、死刑執行という実力の行使により、裁判所の判断を待たず司法手続を強制的に終了させることができるとの発想は、適正手続保障のみならず三権分立の観点からも重大な疑問がある。

6  今回の執行に際しても、法務大臣は「慎重の上にも慎重な検討を加えた上で執行を命じた」等と述べるが、従前同様、執行対象者及び時期の選定などの検討内容、命令に至る手続、執行の実態など重要な情報は一切明らかにされていない。主権者である国民が、死刑制度について主体的に議論し判断をするために必要な情報を入手することが妨げられている状況に、進展がないままである。国家主権の発動により人の生命を奪う制度が、主権者である国民に対する透明性を保障せず、法務省内部の秘密裡の判断により運用され続けている点にも、重大な疑問がある。

7  2018年12月5日には、死刑制度についての議論が不十分であったことを踏まえ、超党派の国会議員により「日本の死刑制度の今後を考える議員の会」が立ち上げられた。まさにこれから国会での議論が始まろうとするこの時期に執行したことは、民主主義の観点からも問題である。

8  よって、当会は、政府に対し、再審請求に死刑の執行停止の効果を持たせることによって死刑事件に関する適正手続の保障を十全なものとすること及び、死刑に関する情報を広く公開し、死刑制度の廃止も視野に入れた議論を活発化させた上で、国際社会からの勧告に対して責任をもって答えることを改めて求める。
そして、こうした制度改革等を何ら検討することもないままなされた今回の2人の死刑執行に対して抗議するとともに、それらが実現するまでの間、死刑の執行を停止することを求める。

2019年(平成31年)3月27日

京  都  弁  護  士  会

会長  浅  野  則  明


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