意見書

実効性ある消費者団体訴訟制度に関する意見書(2005年4月5日)


  

2005年(平成17年)4月5日


国民生活審議会消費者政策部会  部会長  落合誠一  殿
同部会消費者団体訴訟制度検討委員会  委員長  山本  豊  殿
内閣府国民生活局  局長  田口義明  殿


京都弁護士会            

会長  田  中  彰  寿




実効性ある消費者団体訴訟制度に関する意見書



第1  はじめに
      国民生活審議会のもとに設置されている消費者団体訴訟制度検討委員会は2004年12月「消費者団体訴訟制度の骨格について」(以下,「骨格」という。)をとりまとめた。「骨格」は同制度を構築するための主な論点についての検討の概要を報告したものであるが,同委員会では2005年2月1日及び同月21日,より具体的なな検討がなされ,同制度の内容は具体的になりつつある(本年2月1日の検討委員会で提出された事務局資料を「2月1日委員会資料」,2月21日の検討委員会で提出された事務局資料を「2月21日委員会資料」という)。
本意見書においては,上記「骨格」に示されている消費者団体訴訟制度の内容の内容,及びその後の検討委員会の審議において議論になった点について,当会の意見を述べ,2006年通常国会においてそれが反映された法案が成立し,消費者被害の発生・拡大防止のための実効性ある消費者団体訴訟制度が実現されることを求めるものである。

第2  差止めの対象
  1  差止めの対象とすべき事業者の行為
    ?  不当契約条項の使用の差止めが認められるべきである。
      「骨格」では,「本制度の対象となる実体法については,消費者契約法を基本とする」(6頁)としている。差止めの対象となる不当契約条項としては,消費者契約法8条ないし10条により無効となる条項を挙げるのは賛成であるが,より悪質と考えられる民法90条により無効となる条項も含めるべきである。
       また,将来的には,借地借家法,特定商取引法,各種業法等に定める強行規定に反する条項も対象とすることが検討されるべきである。
    ?  不当契約条項の推奨行為も差止対象とすべきである。
不当契約条項の推奨行為を差止対象とするかどうかに関して議論があるが,事業者団体により契約書ひな形が推奨されている例,別の事業者が契約書を作成して提供する例はよく見かけられ,これによる被害が拡大しており,これも差止めの対象とすべきである。推奨者に対する差止請求は93年EU指令,ドイツ「差止訴訟法」,フランス「消費者法典」など諸外国でも取り入れられている。
    ?  不当勧誘行為の差止めが認められるべきである。
        不当勧誘行為に関する消費者被害が非常に多いことから,不当条項の使用だけではなく,不当勧誘行為を差止めの対象とする必要がある。なお,表示や広告は,多数の消費者に対し無差別になされる勧誘方法のひとつであり,その被害も多数の消費者に及ぶ可能性が高いことから,差止めの対象とする必要性は非常に高い。また、それ以外の形態の不当勧誘行為についても,差止めの対象から除外する理由はない。「骨格」では,「本制度の対象となる実体法については,消費者契約法を基本とする」(6頁)としているが,不当勧誘行為についても,消費者契約法の定める取消事由に限る必要はなく,より悪質な民法96条1項に該当する行為も含めるべきである。
        また,将来的には,特定商取引法,独占禁止法および景品表示法によって禁止されている行為,各種業法等に定める禁止規定に反する行為,消費者を威迫する言動,消費者の私生活又は業務の平穏を害する言動,並びに消費者の知識や判断力が不足している状況を利用することなども対象とすべきである。これらの他,不当な勧誘行為を個別に規定することによって,その対象から外れるものが出ないよう,「信義誠実の原則に反する不当な勧誘行為」という一般条項を設けそれに該当する行為ついても,差止めその他適当な措置をとることを請求できるとすべきである。
  2  その他の要件について
(1)「消費者全体に対して影響を及ぼす可能性があること」を要件とすべきではない。
      2月1日委員会資料において,「いかなる行為について差止めを認めるべきかを検討するにあたっては消費者全体に対して影響を及ぼす可能性があることを考慮する必要があるのではないか」と述べられている。しかし,このような要件を付加する必要はない。却って,この要件を付加するとこれが充足されていないとして事業者が請求を不当に免れる弊害が生じるおそれがある。下記のとおり,不当行為が将来行われるおそれがあれば、差止めの要件としては十分である。
  (2)不当契約条項が使用されるおそれがある場合,また不当勧誘行為が行われるおそれがある場合でも差止めを認める必要がある。
本制度が消費者被害の予防・拡大防止を目的にしていることに照らし,不当契約条項が現に使用された場合だけではなく,使用されるおそれがある場合も差止めの対象とすべきである。不当勧誘行為についても,例えば現時点では一旦中止しているが,再びこれを行うおそれがある場合にも差止めの必要性が高いので,不当勧誘行為を行うおそれがある場合にも差止めを認めるべきである。
  (3)不当勧誘行為であることに関し,過重な立証責任を消費者団体に求めるべきでは      ない。
      2月1日委員会資料では,不当な勧誘行為がなされた事実があっても,組織的に行われたと認められないような場合は,差止めを認める必要がないとする。しかし,問題は組織的に行っているかどうかではなく,反復してなされるおそれがあるかどうかである。同様な勧誘が複数の消費者に対して行われている場合には,反復してなされるおそれがあるといえ,差止めが認められるべきである。
      この点に関し,事業者が組織的に不当勧誘行為を行っていることの証拠として、社内マニュアル等を消費者団体が入手できることは通常ありえないので,差止のためにはマニュアルの存在を必要とするなどの加重な立証責任を消費者団体に負担させるべきではない。
  (4)不当勧誘行為に関する差止請求の相手方としては,代理人,受託者も含めるべきである。
2月1日委員会資料では,不当勧誘行為の差止請求の場合,契約主体の事業者だけでなく,実際の勧誘行為を行う代理人や受託者等についても,差止めの相手方とすべきではないか,との提案がなされているが,実際に勧誘を行う者に対しても差止請求を行う意義は大きく,これには賛成である。
  (5)認可約款も差止めの対象とすべきである。
      2月1日委員会資料では,いわゆる認可約款を差止めの対象とすべきか否かについて,積極,消極両説が併記されているが,認可約款であってもその有効性につき司法判断に服するのは当然のことであるから,差止めの対象とすべきである。

第3  適格消費者団体の要件の在り方
1 適格要件に関する基本的な考え方には賛成する。
      「骨格」では,適格消費者団体の要件を定めるにあたって,?消費者全体の利益を代表して消費者のために差止請求権を行使できるか(消費者利益代表性),?差止請求権を行使し得る基盤を有しているか否か(訴権行使基盤),?不当な目的で訴えを提起するおそれがないか(弊害排除),の3つの観点を基本とすべきである,としているが,この点は妥当な考え方であり賛成である。
  2  活動実績については,おおむね1年程度の実績があれば足り,また構成団体の実績を考慮して判断すべきである。
「骨格」では,適格性の要件として,団体が消費者利益の擁護を目的とする活動を,相当期間継続的に行っている必要がある,としている。ここでいう「相当期間」として長い年数が要件とされれば,新たな消費者団体を本制度から不当に排除する結果になるおそれがあり,おおむね1年程度の期間の活動実績を検討すれば十分である。
   次に,2月21日委員会資料によれば,活動実績の有無の判断は,当該団体自身の事業内容に基づいて行うのが適切ではないか,との意見が述べられている。しかし、実際に消費者団体が団体訴権を担うにあたっては,既存の団体が協力しあう場合も多いと考えられ,そのために既存の団体が結合したり,あるいは構成員になって,新たな消費者団体を結成することが考えられる。その場合,活動実績は既存の消費者団体の実績を考慮して判断しないと新団体がすぐに訴権を行使できず不都合である。
  3  団体の規模については,人数要件を設けない考え方もありうるが,人数要件を設けるとすれば,100名以上の構成員を有することを要件とすべきである。
団体の規模について,2月21日委員会資料によれば,人数要件を設けるのではなく,訴権行使基盤という観点からは,体制面の整備がなされていること,消費者利益代表性という観点からは,活動が消費者全体の利益のために積極的に展開されていることが必要で,活動実績等で活動の受益範囲・規模が十分であることをもって判断すべきであるとしている。
      こうした考え方は,形式的な人数要件よりもその実質を重視するものであり,考え方としては十分ありうると考えられる。
      ただ,人数要件を設けることで適格団体の要件が明確になる面もあるので,これを設けることも妥当である。そして、人数要件を設けるとすれば,本制度が積極的に訴権を行使しようとする消費者団体に訴権を認めることによって公正な消費者取引の実現を図ることを目的としていること,そのためには,団体の規模の要件をあまり高く設定することは妥当ではないこと,濫訴の弊害(もっとも差止請求訴訟は消費者全体の利益のために提起されるものであり,経済的見返りを伴うものではないので濫訴のおそれは少ない)を防止することなども考慮して,当会では100名以上の構成員を有していることを要件とすべきであると考える。その根拠は、団体訴訟制度が効率的に利用されているドイツでは、人数要件として構成員が75名以上とされているが,濫訴の弊害は現れていないこと,わが国の統計上全国の約半数の消費者団体が構成員100名以上を有することなどである。
  4  事業者等からの独立性に関して個人及び非営利事業者からの影響排除措置は必要ない。
適格団体の判断要件として,「骨格」は事業者等からの独立性を要件とすることが必要である,としている。
      当会も営利団体からの独立性を要件とすることには賛成である。
    この点に関して2月21日委員会資料では,影響を排除すべき事業者等について,営利を目的とする事業者等(会社等)の他に非営利の事業者等(NPO法人,公益法人,弁護士,医師など)からの影響も排除されるべきか否か,を検討課題としている。確かに各種団体は消費者契約法上はすべて事業者とされているが,これは消費者取引における消費者の利益擁護の観点から規定されたものであり,本制度においてそのまま妥当するものではない。この議論を混同すれば,そもそも適格団体になろうとする団体そのものが事業者であるという論理矛盾を来してしまう。しかも,消費者契約法上の事業者であっても,自然人は一面消費者であって,これを排除することは消費者問題に取り組みたいという自然人のマンパワーの結集をことさら害する結果となる。さらに,消費者契約法上の事業者であっても、当該事業者が扱う事業とは別の事業分野について不当な影響を及ぼすことは考えにくい。
    以上からすれば,影響を排除すべき事業者等は営利団体のみとすべきである。
    実質的にも,本制度の実効性を確保するには,消費者団体や事業者となりうる弁護士や司法書士などの専門家が構成員,役員となる必要がある。
    弊害は例外的と思われるが,弊害排除のために,もっぱら競争事業者に対する打撃を与えるために訴訟を提起したと認められる場合には,権利の濫用として請求を棄却し,構成員が利害関係のある案件については、組織内の意思決定において議決権を停止すれば足りる。
  5  人的基盤,財政基盤,組織運営体制についての要件の厳格化は実効性を失わせる。
「骨格」では,適格団体の要件として,団体訴訟を的確に行うための人的・財政的な基盤,適切な組織運営体制の具備が必要とする。この考え方は妥当なものと考えるが,「組織運営体制」や「人的基盤」として厳しい要件を設定することは,多くの消費者団体の実情を考えると妥当ではない。「骨格」では適格団体に法人格を求めており,適格団体になるためには少なくともNPO法人である必要がある。本制度が実効性があるものとなり,活発に利用されるためには,人的基盤・組織運営体制に関してはNPO法人の要件を満たす程度のものであれば足りるとすべきである。
6  適格要件への適合性判断の在り方,事後的担保措置
「骨格」では,行政により予め適格団体であることを公正かつ透明な手続きの下に審査すべきである,としている。事前の審査を行う制度が導入される場合でも,審査が迅速に行われるべきであり,消費者団体の自由な活動を制約することがない制度とされなくてはならない(この点は適格性の事後的担保措置に関しても同様である)。
  
第4 訴訟手続の在り方
1  適格消費者団体相互の関係に関する考え方には賛成である。
「骨格」では,?既判力の範囲に関して当該当事者限りとし,他の適格団体には及ばない,?同時複数提訴の可否については,特段制限されるものではない,?請求の放棄,和解等の可否に関してはあえて特段の措置を講じない,との考え方が示されているが,民事訴訟法の基本原則に整合的する考え方であり,賛成する。
  2  判決の援用制度を導入すべきである。
     「骨格」では,援用制度は,判決の効力に関して民事訴訟法の一般原則に対する例外を定めるものと考えられるため,慎重に検討する必要がある,としている。しかし,消費者団体訴訟制度を設ける趣旨は,個々の消費者と事業者との訴訟遂行能力に格段の差があることも大きな理由であり,「当該不当行為が違法である」との裁判所の判断につき,個々の消費者がこれを自己の訴訟上で援用すれば,その訴訟においても効果が及ぶとすることは,本制度をより実効性あらしめるものである。因みに判決の援用は、ドイツにおいて既に制度化されているものでもある。
  3  事業者との事前交渉を義務とすべきでない。
「骨格」では,訴訟提起前に消費者団体が事業者に交渉を行う義務を定めることについて,適切ではないとしているが,妥当なものと考える。
  4  土地管轄として,事業者の普通裁判籍のほか行為地および行為がなされるおそれがある地も含めるべきである。
    この点に関しては限定された地域での活動を中心とする消費者団体が多いこと,及び財政的に豊かでない団体が多いこと,また証拠などは不当な行為がなされた地に存する場合が多いこと等から,土地管轄としては不当行為の行為地あるいは行為がなされるおそれのある地も含ませるべきである。
  5  訴額の算定は,非財産上の訴えとみなすとしているのは妥当である。
「骨格」では,適格消費者団体の請求は消費者全体のためになされるものであり,同団体が財産的な利益を受けるわけではないことから,非財産上の訴えとみなして取り扱うことが適当であるとしているが,妥当である。

第5  制度の実効性を高めるための方策
「骨格」では,制度の実効性を高めるための具体的な方策がほとんど示されていない。消費者団体訴訟制度をいかに精緻に構築したとしても,その制度が利用者である消費者団体に活発に利用されるのでなければ意味がない。したがって本制度の実効性を高める仕組みをいかに確保するか,そのための具体的な施策の検討こそが重要な課題である。なお,当会では,昨年2月の意見書において、以下の具体的施策の提言をしているので検討されたい。
    ?  民事法律扶助・消費者保護条例の訴訟援助の対象とすること。
    ?  消費者団体訴訟を行う消費者団体に補助金を支給すること。
    ?  継続的に消費者団体訴訟遂行に必要な理論面での検討を行い,その成果を消費者団体に提供するシステムを創設すること。
    ?  各地の消費生活センターの相談業務を拡充し,登録消費者団体が国民生活センターに対して相談,苦情事例の照会ができるようにすること。現状では国民生活センターにもっとも多く全国の消費者被害情報が集約されているので,提訴案件検討のためにきわめて必要性が高く,制度化が是非望まれる。
    ?  消費者団体訴訟の訴えの提起,認諾,和解,判決に関する情報の照会,広報制度を確立すること。

第6  おわりに
本制度の早期実現の観点から,消費者契約法を基本とした事業者の不当な行為の差止請求だけに対象を絞った検討委員会の方針はやむなしとせざるを得ない面がある。しかし,今回十分な検討がなされなかった多数少額消費者被害の救済,あるいは事業者の不当に得た利益の剥奪という観点からの損害賠償(あるいは金銭)請求制度については,今後検討する必要がある。
      検討委員会では,平成16年4月から半年以上の期間議論がなされてきたが,とりまとめられた「骨格」は概して抽象的な内容に止まるとの印象を受けざるを得ない。検討委員会では現在なお検討が継続されており本年6月を目途に最終的なとりまとめがなされ,来年の通常国会への法案提出を予定しているとのことである。消費者被害が激増している昨今の状況に鑑み,当会としては上記意見を踏まえ,実効性ある消費者団体訴訟制度を内容とする法案が来年の通常国会で成立するよう,消費者団体訴訟制度検討委員会,国民生活審議会消費者政策部会,内閣府国民生活局,政府,各政党において,精力的な取り組みがなされるよう強く求めるものである。

以  上

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