「発達障害を背景とする事件の判決を受けて、発達障害がある人に対する社会的な理解と支援を求める会長声明」(2012年8月9日)


  大阪地方裁判所は、2012年(平成24年)7月30日、殺人罪で起訴された被告人に対して、求刑(懲役16年)を上回る懲役20年の判決を言い渡した。同判決は、犯行に至る経緯や動機において発達障害の一種であるアスペルガー症候群という被告人の精神障害が影響したことを認めつつ、これを重視すべきではないとし、他方、社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし、その見込みもないという現状の下では再犯のおそれが強く心配される、被告人に対しては許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり、そうすることが社会秩序の維持にも資する、と判断した。
  人が発達障害を有することは、その人個人の責任ではない。誰かが障害のために生き難さを抱えるとき、その支援・解消につとめることは社会全体の責務である。2005年(平成17年)には発達障害者支援法が施行され、京都府内においても発達障害者支援センターの設置等の施策が進められている。
  そして、発達障害を抱えた人が重大な事件を犯してしまったときにも、その支援は社会全体の責務として極めて重要な問題である。もちろん、発達障害と犯罪は、直接的に結びつくものではない。それにもかかわらず、社会内に受け皿がないことを理由として被告人の再犯のおそれを強く認めるのであれば、発達障害を持つ人に対する偏見を助長するものと言わなければならない。さらに、社会秩序の維持の観点から被告人を長期収容すべきものとの結論を導き出すことは、発達障害者を社会から隔離する発想であって許されるものではない。
  上記判決は、発達障害という特性を正しく理解せず偏見を助長するものであるとともに、発達障害者の支援を社会全体での問題としてとらえていないことなど、看過しがたい重大な問題点を含んでいる。
  当会は、本判決が発達障害者支援法の趣旨に反するとともに、発達障害者に対する偏見を助長し、発達障害者に対するあるべき支援を阻害しかねないものであることに重大な懸念を表明し、広く社会に対して発達障害者に対する正しい理解と支援の必要性を訴えるものである。

2012年(平成24年)8月9日


京  都  弁  護  士  会

会長  吉  川  哲  朗


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