「京都刑務所長あて警告書」(2014年2月5日)


2014年(平成26年)2月5日

京都刑務所長  毛  利  龍  夫  殿


京都弁護士会          会  長  藤  井  正  大
    
同人権擁護委員会  委員長  小  林      務
    

警  告  書


警 告 の 趣 旨


貴所が、2010年(平成22年)11月16日及び同年12月20日、貴所において、弁護士であるA氏が、受刑中であったB氏と、再審請求のために面会し、打合せを行うに際し、刑事施設職員を立ち会わせたことは、受刑者及び再審請求手続において弁護人となろうとする弁護士に対する接見・秘密交通権の侵害にあたる。よって、今後、同様の事案について刑事施設職員を立ち会わせることのないよう警告する。

警 告 の 理 由


第1  申立の概要
B氏(以下「受刑者」という。)は、覚せい剤取締法違反被告事件について、平成22年7月14日宣告の上告棄却判決により、京都刑務所において懲役刑を受刑した。京都刑務所は、受刑者が弁護士A(以下「弁護士」という。)と、再審請求のための打ち合わせ等を行うに際し、面会時に係官を立ち会わせ、受刑者の迅速かつ適切な再審裁判を行う権利(憲法32条)を侵害した。

第2  調査の経緯
  1  調査の内容
      京都刑務所に対し、以下のとおり質問状を送付し、回答を得た。
            質問状送付  2012年(平成24年)  9月18日
            回答書受領  2012年(平成24年)10月23日
  2  京都刑務所の回答内容(概要)
  (1)平成22年11月16日及び同年12月20日、弁護士と受刑者は再審請求のための打合せのため面会した。
  (2)立会人を付すか否かについては、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第112条ただし書きにより、受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第3条第1項に規定する職務を行う弁護士か否かで判断した。

第3  調査の結果認定した事実
  1  弁護士は、平成22年11月16日及び同年12月20日、京都刑務所において、受刑者と再審請求のための打ち合わせのため面会した。
  2  京都刑務所は、1に際して、係官を立ち会わせた。
      その理由としては、「立会人を付すか否かについては、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第112条ただし書きにより、受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第3条第1項に規定する職務を行う弁護士か否かで判断した。」というものである。

第4  受刑者及び再審請求手続において弁護人となろうとする弁護士に対する接見・秘密交通権についての問題点
  1  憲法
      接見交通権は、憲法34条、37条3項の弁護人依頼権を実質化し、被疑者被告人の防御を全うするための弁護活動の中核をなす行為である。判例上も、接見交通権が憲法の弁護人依頼権の保障に由来するということは、杉山事件(最判昭和53年7月10日)、浅井事件(最判平成3年5月10日)、若松事件(最判平成3年5月31日)、安藤・斎藤事件、上田事件(最判平成12年2月24日)等の一連の最高裁判決でも確立した流れであり、もはや疑いようがない。
      また、接見・秘密交通権は弁護人の固有の権利でもある。鹿児島地裁平成20年3月24日でも、弁護人の固有の秘密交通権を正面から認めた判決がなされた。この事案は、被疑者・被告人が自発的に接見内容を話して調書化された、というものである。自発的に接見内容を話しても、捜査機関がこれを聴取することは、弁護人の固有の秘密交通権を侵害するとした。
  2  国際準則
      1988年12月9日国際連合第43回総会採択の「あらゆる形態の抑留又は拘禁の下にあるすべての者の保護のための諸原則」(被拘禁者保護原則)は、あらゆる形の拘禁又は受刑のための収容状態にあるすべての人の保護のために適用されるとされる。その第18条第4項は、「被抑留者又は被拘禁者の弁護人との面会は、法執行官の見える範囲内で行われてもよいが、聴取できる場所で行われてはならない」としている。
      また、1990年9月に犯罪予防及び犯罪者処遇に関する国際連合第8回会議において採択された「弁護士の役割に関する基本原則」(弁護士基本原則)は、その第8において、「逮捕、拘留または拘禁されたすべての者は、遅滞、妨害または検閲なく、完全な秘密を保障されて、弁護士の訪問を受け、弁護士と通信及び相談するための十分な機会、時間及び施設を与えられなければならない。この相談は、法執行官の見ることができる範囲内で行われてもよいが、聴取し得る範囲内であってはならない。」と規定している。
      これらの国際準則は、国内法として自動執行力があるわけではないが、自動執行力を有する自由権規約などを解釈するに際しての指針ないし参考となしうるものと考えられ、その限度ではあるが法源性を有するということができる。
  3  石口・武井国家賠償請求訴訟
      広島県で、刑事処遇施設が死刑確定者と再審請求手続の弁護人との自由な秘密接見を認めなかったケースで、2件の国家賠償請求訴訟(石口・武井国賠、藤井・久保国賠)が提訴された。このうち、石口・武井国賠については、3回の立会なし面会の要望が拒否された事案であり、平成23年3月23日に、3回のうち2回を違法とした原告一部勝訴判決が下された。これについては双方控訴の上、控訴審では3回全てを違法とした勝訴判決が下された(広島高裁平成24年1月27日)。さらに、平成25年12月10日、最高裁が国の上告を棄却した。
      事案と判旨は次のとおりである。
  (1)事案
        拘置所に拘置されている死刑確定者と、再審請求手続の弁護人として選任されていた弁護士が、再審請求についての打ち合わせを行うべく接見しようとした際、拘置所側に対して接見に際し立会人を付さないよう要請したにもかかわらず、3回にわたってこれを拒否された。
        なお、再審請求弁護人か再審請求手続において弁護人となろうとする弁護士かという点と、死刑確定者かそれ以外かという点以外は、本件とほぼ同様の事案である。
  (2)原判決(高裁判決)の判旨
      ア  憲法第34条
          再審の請求をしようとする死刑確定者には、再審の請求手続は当事者主義の構造が取られておらず、刑訴法第39条第1項を当然には適用できないが、弁護人からの援助を受ける機会を確保する必要があるから、弁護人と立会人なくして接見する法的利益がある。
          ただし、立会人なくして接見できなかったことをもって直ちに国賠法上の適用上違法になると解することはできない。
      イ  裁量権の有無及び範囲
      (ア)「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下、「刑事収容施設法」という。)」第121条は、死刑確定者について、「刑事施設の長は、その指名する職員に、死刑確定者の面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させるものとする。ただし、死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録画をさせないことを適当とする事情がある場合において、相当と認めるときは、この限りでない。」とし、原則立会いとしている。
            この「面会の立ち会いなどを行わせるか否かの刑事施設の長の判断は、死刑確定者の正当な利益を保護する必要性、死刑確定者を死刑の執行に至るまで社会から厳重に隔離してその身柄を確保するとの拘禁の目的・性格や当該刑事施設内の規律及び秩序を阻害するような死刑確定者の心身状況・言動が見られるか等を総合考慮して判断すべきであるから、その具体的場合における判断は、刑事収容施設内の実情に通じた刑事施設の長の裁量にゆだねられている」として、裁量権を認めた。
      (イ)裁量権の範囲について、第1から第3の面会ごとに①「立ち会いさせないことを適当とする事情があるか」、②「立ち会いのない面会が相当と認められるか」を判断した。
            そして、第1面会の①については、再審請求手続に関する打合せであることに疑問を抱くのが相当であったとは認められない、②については、死刑確定者であっても、再審請求手続の打合せにおいて、弁護人と秘密交通する利益は、これを制限する他の法益があると認められるなどの事情のない限り、これを正当な利益であると認めることができる」、「他に特段の事情がない限り、立ち会いのない面会(すなわち秘密交通)が相当であった」とし、結論として裁量権の濫用を認定した。
      (ウ)第2面会、第3面会も、上記(イ)と同様の判断で、裁量権の濫用を認定した。
  (3)最高裁判決の判旨
      ア  死刑確定者の秘密面会の利益
          最高裁は、「刑訴法440条1項は、検察官以外の者が再審請求をする場合には、弁護人を選任することができる旨規定しているところ、死刑確定者が再審請求をするためには、再審請求弁護人から援助を受ける機会を実質的に保障する必要があるから、死刑確定者は、再審請求前の打合せの段階にあっても、刑事収容施設法121条ただし書にいう「正当な利益」として、再審請求弁護人と秘密面会をする利益を有する」として、再審請求希望者の秘密面会の利益を認めた。
      イ  再審請求弁護人の秘密面会の利益
          また、最高裁は、「秘密面会の利益が保護されることは、面会の相手方である再審請求弁護人にとってもその十分な活動を保障するために不可欠なものであって、死刑確定者の弁護人による弁護権の行使においても重要なものである。のみならず、刑訴法39条1項によって被告人又は被疑者に保障される秘密交通権が、弁護人にとってはその固有権の重要なものの一つであるとされていることに鑑みれば(最高裁昭和49年(オ)第1088号同53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁)、秘密面会の利益も、上記のような刑訴法440条1項の趣旨に照らし、再審請求弁護人からいえばその固有の利益であると解するのが相当である」として、再審請求弁護人の秘密面会についても、固有の利益であることを認めた。
      ウ  刑事施設の長の裁量権の行使について
          さらに、最高裁は、「刑事施設の長は、死刑確定者の面会に関する許否の権限を行使するに当たり、その規律及び秩序の維持等の観点からその権限を適切に行使するとともに、死刑確定者と再審請求弁護人との秘密面会の利益をも十分に尊重しなければならないというべきである」として、裁量権を認めつつ、秘密面会の利益により制限されることを明らかにした。
          そして、「したがって、死刑確定者又は再審請求弁護人が再審請求に向けた打合せをするために秘密面会の申出をした場合に、これを許さない刑事施設の長の措置は、秘密面会により刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認められ、又は死刑確定者の面会についての意向を踏まえその心情の安定を把握する必要性が高いと認められるなど特段の事情がない限り、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用して死刑確定者の秘密面会をする利益を侵害するだけではなく、再審請求弁護人の固有の秘密面会をする利益も侵害するものとして、国家賠償法1条1項の適用上違法となると解するのが相当である」として、秘密面会の利益により裁量権が極めて制限されることを明らかにした。

第5  受刑者及び再審請求手続において弁護人となろうとする弁護士の接見・秘密交通権
  (1)憲法第34条
            憲法第34条  何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
            刑訴法第440条第1項  検察官以外の者は、再審の請求をする場合には、弁護人を選任することができる。
      刑訴法第440条第1項(再審請求人の弁護権)は、憲法第34条に由来するので、その本質として、自由な秘密接見の保障がなされなければならない。
  (2)刑訴法第39条第1項の趣旨
            刑訴法第39条第1項  身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第31条第2項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
      接見交通権とは、身体の拘束を受けている被疑者または被告人が、外部の者と面会し、また書類や物品の授受をすることができる権利である。特に、被疑者・被告人と弁護人との接見交通は、刑事裁判において一方当事者となる被疑者・被告人にとって、外部との連絡をとって訴訟における防御活動を行うための重要な意義を有する。そのため、弁護人との接見交通権は、憲法に由来する権利であるとされ、被疑者または被告人のみならず、弁護人固有の権利として、特に保障されている。
      再審開始決定前の再審請求手続自体は職権主義的構造であるが、再審開始決定後の再審手続は当事者主義的構造がとられており、また、証拠の総合判断に基づき合理的疑いが生じるかどうかを判断するものであることから、公判手続と共通する。このことからすれば、再審請求手続においても刑訴法第39条第1項の趣旨が及ばなければならない。
      そして、再審請求手続にあたっては、再審請求人と弁護人との打合せは必要不可欠である。しかも、現在の再審制度においては、再審開始決定前の再審請求手続が決定的に重要であり、再審請求手続において弁護人になろうとする弁護士についても、再審請求手続における弁護人及び再審開始決定後の弁護人と異ならない活動が求められることとなる。
      したがって、再審請求手続及びその準備段階、つまり、再審請求手続における弁護人と、再審請求手続において弁護人になろうとする弁護士とで、その保証の必要性に何ら違いはなく、刑事施設職員の立会いのない秘密接見が認められなければ、再審請求に向けた適正な手続が保障されているとはいえない。
      この点最高裁判決も、「再審請求に向けた打合せ」を同列に扱って、「死刑確定者の秘密面会をする利益を侵害するだけではなく、再審請求弁護人の固有の秘密面会をする利益も侵害する」と認定している。
  3  国際人権規約
            国際人権規約  第14条
第1項  すべての者は、裁判所の前に平等とする。すべての者は、その刑事上の罪の決定又は民事上の権利及び義務の争いについての決定のため、法律で設置された、権限のある、独立の、かつ、公平な裁判所による公正な公開審理を受ける権利を有する。報道機関及び公衆に対しては、民主的社会における道徳、公の秩序若しくは国の安全を理由として、当事者の私生活の利益のため必要な場合において又はその公開が司法の利益を害することとなる特別な状況において裁判所が真に必要があると認める限度で、裁判の全部又は一部を公開しないことができる。もっとも、刑事訴訟又は他の訴訟において言い渡される判決は、少年の利益のために必要がある場合又は当該手続が夫婦間の争い若しくは児童の後見に関するものである場合を除くほか、公開する。
            第3項  すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。
            (b)防御の準備のために十分な時間及び便益を与えられ並びに自ら選任する弁護人と連絡すること。
      上記のように規定されており、再審請求手続についても、自由権規約第14条第3項「刑事上の罪の決定」そのものではないとしても、弁護権の保障は及ぼされるべきである。
      また、自由権規約第14条第1項「公正な裁判を受ける権利」(たとえば、これを引用している高松高判平成9年11月25日は、民事訴訟の打ち合わせの接見時間を制限、立ち会いをさせた措置を違法とした。ただし最判により破棄されている。)、裁判へのアクセス権という観点からも重要である。
  4  小括
      以上から、再審請求をしようとする者の弁護人になろうとする弁護士との接見・秘密交通権は保障され、その際の刑事施設職員の立会いについて施設長の裁量は一定認められるものの、極めて限定的な裁量権があるに過ぎない。

第6  本件についての人権侵害性の検討
  1  本件では、再審請求希望者の接見交通権が問題となっているが、上述のとおり、接見交通権の保障について再審請求前後で区別すべき理由はなく、再審請求希望者にも接見交通権が保障されなければならない。実質的にも、再審請求準備段階であっても、相手方となる国の施設での接見なのであるから、相手方関係者である係員の立ち会いなしでの接見には、正当な利益があるというべきである。
  2  次に、上記第4の3で述べた事案は死刑確定者の事案であるが、本件は通常の受刑者が問題となっている。そこで、再審請求者に接見交通権が認められるとして、上記判決と保障の程度にどう違いが出るのか検討する。
上記判決は、原則として面会に立会いを付するとしている刑事収容施設法第121条を根拠として、死刑確定者と弁護人との立会いなしの面会の拒否が裁量権の逸脱ないし濫用として違法となり得る場合があることを認めた。
ここで、条文上は、死刑確定者以外の受刑者の場合は、上記の刑事収容施設法第121条ではなく、同法第112条が適用となる。
            第112条
              「刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施その他の理由により必要があると認める場合には、その指名する職員に、受刑者の面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させることができる。ただし、受刑者が次に掲げる者と面会する場合には、刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情がある場合を除き、この限りでない。
            第121条
              「刑事施設の長は、その指名する職員に、死刑確定者の面会に立ち会わせ、又はその面会の状況を録音させ、若しくは録画させるものとする。ただし、死刑確定者の訴訟の準備その他の正当な利益の保護のためその立会い又は録音若しくは録画をさせないことを適当とする事情がある場合において、相当と認めるときは、この限りでない。
すなわち、死刑確定者の同法第121条は、立会いを原則としているのに対し、それ以外の同法第112条は、再審請求人と再審請求弁護人との間の面会について、「刑事施設の規律及び秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施その他の理由により必要がある」場合に限って、「立ち会わせ・・・ることができる」としているのであり、立会わせるためには、「必要性」を要求し、立会いを制限している(なお、但書は再審請求弁護人には直接適用されない)。
その趣旨は、死刑確定者以外の者の場合と同様に、不適切な行為や発言を制止しなければならないことがある上、その処遇を適切に実施する上で参考とするために面会の際の発言などを把握する必要もあるが、死刑確定者は特に、来るべき自己の死を待つという特殊な状況にあり、容易に、極めて大きい精神的苦悩や動揺に陥ることがあると考えられ、死刑確定者が心情の安定が得られるように留意して処遇を実施する上で、その心情やこれに影響を与える事情を把握する必要性が、受刑者や未決拘禁者と比較して、格段に大きいからである(逐条解説「刑事収容施設法改訂版」622ページ)。
とすれば、死刑確定者以外の再審請求希望者の再審請求弁護人との面会の場合でも、立会についての施設の長の裁量権の範囲は、心情の安定に配慮する必要がない以上、死刑確定者の場合に比してより狭くなるというべきである。そのため、条文上も、原則・例外を逆転させているのである。
また、実質的にも、一般に、再審請求希望者と弁護人との立会なしの面会が、「刑事施設の規律及び秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施その他」を妨げるような場面はおよそ想定し得ない。とりわけ、上記3の判決で比較考量対象とされた受刑者の「心情の安定」などは、考慮する必要が全くなくなる。
とすれば、再審請求希望者の弁護人との面会の、立会についての施設の長の裁量権の範囲は、少なくとも、死刑確定者の場合に比して狭くなることはあっても、より広くなるということはないというべきである。
つまり、死刑確定者たる再審請求者との立会についての裁量逸脱濫用を認めるべき場合であれば、死刑確定者以外の受刑者で再審請求希望者との立会についても裁量逸脱濫用を認めるべき、ということになり、接見交通権は上記3の判決と比してより一層の保障がなされるといえる。
  3  本件についての当会の判断
      上記を前提とすれば、同法第112条は再審請求希望者たる受刑者には直接には適用されないことにはなり、弁護士の面会の際に立会人を付すかどうかは施設の長の裁量権に服することにはなろう。しかし、憲法、国際準則等を勘案し、弁護人の接見交通権の重要性に鑑みれば、その裁量権の範囲は、極めて限定的な場合に限られると解するべきである。
      この点、法制審議会の部会の審議でも、真摯に再審請求をしている受刑者と弁護人との面会については、特別の配慮を要するという趣旨で、「刑事施設の規律秩序の維持に支障を生ずるおそれがない場合には、刑事施設の職員の立会いを行わせないよう運用上配慮すること」という決議がなされている(逐条解説「刑事収容施設法改訂版」572ページ)。一般に、本件のような場合でも、極めて例外的な事情により、立会人が付されるべき場合は考えられなくはないが、それが認められる裁量の範囲は極めて限定的なものであるというべきである。
      そこで、少なくとも第112条の「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情」が、諸事情の検討の結果、具体的に認められなければ、立会いは認められず、再審請求希望者たる受刑者に対する人権侵害となるというべきである。
      本件では、京都刑務所は、「立会人を付すか否かについては、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第112条ただし書きにより、受刑者が自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受けた処遇に関し弁護士法第3条第1項に規定する職務を行う弁護士か否かで判断した。」とのことであるが、「刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生ずるおそれがあると認めるべき特別の事情」を検討しておらず、同事情が具体的に認められない。むしろ、逆に特別の事情を検討していないということは、京都刑務所が上記おそれはないと判断した、ということを伺わせるのである。よって、京都刑務所がその裁量権を逸脱濫用して立会いを付したことは明らかである。
      したがって、京都刑務所が本件で立会人を付したことは、受刑者及び弁護士に対する接見・秘密交通権の侵害であると認められる。

第7  結論
      以上より、貴所が本件において刑事施設職員を立ち会わせたことは、接見・秘密交通権を侵害するものであり、人権侵害にあたる。
      当会は、1998年(平成10年)11月13日、本件類似の事案で、貴所宛てに警告を発している。それにもかかわらず、本件が発生しており、改善がなされなかったことから、警告の趣旨のとおり警告する。

以  上



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