「独立行政法人国民生活センターの在り方の検討についての意見書」(2010年3月1日)

2011年(平成23年)3月1日


内閣総理大臣 菅 直 人 殿

京 都 弁 護 士 会

会長 安 保 嘉 博


独立行政法人国民生活センターの在り方の検討についての意見書


第1 意見の趣旨
 1.独立行政法人国民生活センター(以下「国民生活センター」という。)の在り方を検討するに当たっては
  ①まず,国及び地方の消費者行政強化に向けた具体的な構想・方針(以下「具体的構想・方針」という。)が明確に示されるべきである。
  ②次に,具体的構想・方針に基づき,国民生活センターが担っている機能の強化が図られるべきである。
  ③そのうえで,具体的構想・方針に基づき,強化された国民生活センターの機能を担う行政主体あるいは組織形態が探求されるべきである。
 2.上記の各項目については,消費者庁関連3法の検討・成立過程と同様に,消費者団体,地方公共団体等の消費者問題に携わる関係者の意見を幅広く聴取したうえで国会での議論に結びつけて慎重に検討すべきである。

第2 意見の理由
 1.はじめに
消費者庁は,平成22年12月7日閣議決定の「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(以下「基本方針」という。)を受け,「国民生活センターの在り方の見直しに係るタスクフォース」(以下「タスクフォース」という。)を設置し検討を行っている。
現在,国民生活センターの各事業は,有機的一体性をもって機能することにより直接消費者被害の防止・回復を図っているのみならず国及び地方の消費者行政に直結している。仕分け的な発想に基づく事業の分断がなされると,消費者行政全体が弱体化し,国民の生命,身体,財産に取り返しのつかない被害を与えるおそれがある。
 そのため,当会としては,国民生活センターの在り方を検討すること自体に反対するものではないが,国民が安心・安全に暮らせるために真に実効的な国及び地方の消費者行政を実現する観点から,国民生活センターの在り方の検討方法について,以下のとおり意見を述べる。
2.国民生活センターの事業と機能
   消費者被害は,特定の地域,業態に固有のものではなく,全国規模で,種々の業界において同種あるいは類似の問題が発生している。現代社会においては,誰しもが消費者の立場に立つのであり消費者被害は特定の個人の問題ではなくすべての国民に生じる問題である。
   しかしながら,安全分野においても取引分野においてもひとたび被害が発生すると,消費者・事業者間の情報力及び交渉力の格差が著しく,そもそも被害に気付くことも困難であって,被害救済は容易ではない。そのことは高齢者や若年層の被害ではより顕著である。更に,被害金額が比較的僅少で費用対効果の観点から現在の司法救済手続の利用を躊躇することが多い。
   国民生活センターは,開設以来,①相談事業,②相談情報の収集・分析・提供事業,③商品テスト事業,④広報・普及啓発事業,⑤研修事業を行い,平成21年からは⑥裁判外紛争解決手続事業も開始し,消費者被害の回復と防止に取り組んできた。
   ①相談事業は,消費者被害の実態を消費者目線で把握することにより地方公共団体が行う相談業務を適切に支援し,また,国の消費者行政政策を適切に推進する機能を担っている。②相談情報の収集・分析・提供事業及び④広報・啓発事業は,国民に対して早期の注意喚起や手口公表等を行うだけでなく相談業務における解決指針を提供することによる地方公共団体への支援機能を担っている。③商品テスト事業は,同じく商品テストを行っている「製品評価技術基盤機構(NITE)」や「農林水産消費安全技術センター(FAMIC)」と異なり,消費者目線での使用態様を考慮した商品テストを行っているという特徴を有している。⑤研修事業は,全国で実際に相談業務を行う相談員の研修を行い,地方公共団体の相談業務を支援している。⑥裁判外紛争解決事業は,紛争処理結果の概要を原則的に公表するという特徴を有している。
国民生活センターの各事業は,個々の事業ごとの機能を有するのみならず有機的一体性をもって機能することにより,地方公共団体の消費者行政の支援を効果的に実施している。国民生活センターは独自に,また,地方消費者行政の支援により,国民の生命,身体,財産を保護してきたのである。
他方で,国民の安心・安全の確保のためには,情報公開の範囲,拠点が関東のみである等,国民生活センターが期待されている役割を十分に果たしきっていないという課題もある。
3.具体的構想・方針を示しての検討の必要性
   消費者の権利擁護は,明治以来の産業育成目的での縦割り行政の仕組みのもと,間接的,派生的に行われていたにすぎなかったが,従来の行政のパラダイムを転換し,消費者行政における司令塔として平成21年9月に消費者庁が創設されるとともに,消費者の意見を届かせるとともに消費者庁を含む関係省庁の消費者行政全般をチェックする機能を有する機関として消費者委員会が創設された。
   消費者庁及び消費者委員会が創設されたことにより,消費者庁等が今後果たすべき役割との関係で,国民生活センターの在り方を見直す時期にきていることは確かである。
   しかし,タスクフォースでの議論においては,消費者行政の強化が謳われるものの,具体的構想・方針が明確に示されていない。
   タスクフォースにおける検討は次のとおりとされている。まず,「基本方針」で示された考え方を踏まえて,国民生活センターの機能ごとに地方自治体や民間における実施状況を整理しつつ論点整理を行い,①消費者庁へ「一元化」可能な機能,②民間へ移行可能な機能,③それ以外の機能の在り方及び担い手,等について機能ごとに有識者等と意見交換を実施しつつ検討を行う。次に,平成23年春ころ「中間整理」をまとめ,これについて「公開ヒアリング」実施し,その後,行政刷新会議での独立行政法人制度改革の検討状況を踏まえ,上記③の担い手及び法人の在り方について最終的な検討を行う。そして,平成23年夏ころを目途にタスクフォースの検討結果の最終取りまとめを行い,消費者庁長官,次長及び国民生活センター理事長陪席の下,政務ニ役会議において決定する。
このように「基本方針」がいわゆる仕分けの発想に基づくものであることから,タスクフォースも仕分けの発想を出発点とするものとなっているとともに,検討時間も非常に短期間となっている。
   また,消費者庁関連3法の検討時には地方消費者行政の充実・強化策も重要視された。そのため当会は,京都府と連携する消費者あんしんチームや京都市と連携する消費者サポートチーム等京都府下の地方公共団体と種々の連携を強化・工夫し,地域の消費者被害の防止と救済に積極的に取り組んでいるところであるが,こうした地域の取組みを実効あるものとしていくために国及び国民生活センターの支援がより強化される必要性を実感している。
   そのため,国民生活センターの在り方を検討するにあたっては,まず,①消費者被害の現状,②同センターが現状において果たしている役割・機能,③同センターの各機能が有機的一体性をもって果たしてきた役割・機能,④地方消費者行政の現状を踏まえ,真に国民が安心・安全に暮らせる社会を実現する観点から今後の具体的構想・方針を示すことが必要である。
国民生活センターの各事業が有機的一体となって,地方消費者行政支援や国民の権利擁護の役割を果たしてきたものであり,具体的構想・方針に基づかないまま国民生活センターの在り方を見直すことは,地方消費者行政支援や国民の権利擁護に間隙を生じさせることが懸念され,国民の生命・身体・財産に取り返しのつかない損害を与えるおそれがある。
 4.具体的構想・方針に基づく国民生活センターの機能強化の必要性
   明治以来の行政のパラダイムを転換し消費者行政を強化するためには,具体的構想・方針に基づき国民生活センターが現在担っている機能を更に強化することが必要である。
   国及び地方の消費者行政を強化するためには,①相談事業が担う地方公共団体の相談業務支援機能及び国の消費者行政政策推進機能を強化する必要がある。②相談情報の収集・分析・提供事業が担う,相談業務における解決指針をより早期に提供し地方公共団体の支援機能を強化する必要がある。③商品テスト事業については,地方公共団体の商品テスト設備が減少傾向にあるため,国民生活センターの行っている商品テスト事業は,地方公共団体の支援機能を高めている。⑤研修事業については,消費者被害・トラブルの内容が複雑高度化する中で,相談員の資質の向上は重要性を増すばかりである。⑥裁判外紛争解決事業については,地方公共団体の相談業務において,よりいっそう情報を活用できるように,公表対象を拡大して相談業務支援機能を強化する必要がある。
 5.国民生活センターの機能を担う行政主体あるいは組織形態を探求する必要性
   国民生活センターの事業は,有機的一体性をもって機能してきたがゆえに,独自に,また,地方消費者行政の支援と相俟って国民の生命,身体,財産を保護してきた。そのため,国民生活センターの在り方を見直すに当たっては,同センターの機能を分割して各機能ごとの新たな担い手を検討するのではなく,各機能及び有機的一体的機能を担える行政主体あるいは組織形態を探求することこそが必要である。
 6.幅広く関係者の意見を聴取する等慎重な検討の必要性
   消費者庁関連3法は,消費者問題に携わる関係者の意見を幅広く聴取したうえで両院において長時間の審議の末に政府原案が大幅に修正されて,衆議院で23項目,参議院で34項目の附帯決議を付して全会一致で成立し,明治以来の産業育成目的での縦割り行政から消費者が主役となる社会へとパラダイム転換が図られた。
   国会審議においては,地方消費者行政及び国民生活センターの重要性が繰り返し慎重に審議された。また,消費者庁及び消費者委員会設置法附則には「国民生活センターの業務及び組織その他の消費者行政に係る体制の更なる整備を図る観点から検討を加え,必要な措置を講ずるものとする」(第3項),「地方公共団体の消費者政策の実施に対し国が行う支援の在り方について所要の法改正を含む全般的な検討を加え,必要な措置を講ずるものとする」(第4項)と規定されている。更に,附帯決議においても「各地の消費生活センターの相談員の聴取能力及び法律知識の水準向上を図るため,国民生活センターを中心とする教育・研修の充実を図ること」(衆議院15項),「聴取能力及び法律知識のみならず,あっせんや行政との連携能力等各地の消費生活センターの相談員にとって必要な能力の水準向上を図るため,教育・研修の機会の拡充等を始め,国民生活センターによる支援を強化すること」(参議院19項)等が要請されている。特に国民生活センターの在り方に関しては「附則各項に規定された見直しに関する検討に際しては,消費者委員会の意見を十分に尊重し,所要の措置を講ずるものとすること」(衆議院23項),「附則各項に規定された見直しに関する検討に際しては,消費者委員会による実質的な審議結果を踏まえた意見を十分に尊重し,所要の措置を講ずるものとすること」(参議院33項)が要請されている。
現在行われている国民生活センターの在り方の検討もこのパラダイム転換の一環として国及び地方の消費者行政の強化の観点から行われなければならない。消費者委員会・消費者庁において国及び地方の消費者行政強化のための具体的な構想等を示すことなく仕分け的発想に基づき有機的一体性をもった国民生活センターの事業の担い手を不明確にしたまま検討がなされるならば,国及び地方の消費者行政の弱体化は必至であり,消費者庁及び消費者委員会創設の理念,創設時の国会の要請とは完全に逆行するものである。
したがって,具体的構想・方針の内容,国民生活センターが現在担っている機能の強化,同センターの機能及び有機的一体的機能を担う行政主体あるいは組織形態の探求については,消費者庁関連3法の検討・成立過程と同様に消費者団体,地方公共団体等の消費者問題に携わる関係者の意見を幅広く聴取したうえで国会での議論に結びつけて慎重に検討されることが必要である。
以上


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