池上哲朗会長インタビュー

インタビュアー:本日はお忙しい中、ありがとうございます。2025年1月に会長に当選されてから数ヶ月が経ちましたが、現在の心境をお聞かせください。
池上会長:副会長時(2009年度)の経験からある程度の忙しさを覚悟していましたが、会長職は想像以上に多岐にわたる業務があり、その責任の重さを日々感じています。特に、年間スケジュールの調整、各種イベントの企画運営、そして弁護士会全体の方向性を決めるなど、多角的な視点が求められる仕事だと実感しています。
具体的に、どのような点で副会長時代との違いを感じていますか?
副会長時代は、特定の委員会やプロジェクトに集中して取り組むことが多かったのですが、会長になると、弁護士会全体の運営に関わるため、視野を広く持つ必要があります。例えば、「憲法と人権の集い」のような大規模なイベントの企画では、企画のコンセプト決めから、具体的な内容、広報戦略、そして参加者の安全確保まで、全てに責任を持つ必要があります。また、日弁連との連携も密になり、全国的な視点での課題にも目を向ける必要が出てきました。
常に全体を見渡して全ての責任を担う、という仕事ですね。会長という重責を担う中で、特に力を入れていきたいことは何ですか?
大きく二つの柱があります。一つは、弁護士会として社会的な責任を果たすことです。具体的には、再審法の改正と選択的夫婦別姓の実現という二つの課題に最優先で取り組んでいきたいと考えています。もう一つは、弁護士会の組織基盤を強化することです。会員数の減少という課題に対応し、財政基盤を安定させ、持続可能な弁護士会を目指します。
再審法の改正と選択的夫婦別姓の実現について、それぞれどのような思いをお持ちですか?
再審法に関しては、私自身が冤罪事件を担当した経験から、現行制度の課題を痛感しています。手続きの不備や証拠開示の不十分さにより、真実が明らかにならないケースがあります。裁判所・検察庁も過去の誤りを認め、迅速に救済できる制度の確立が不可欠です。選択的夫婦別姓に関しては、多様な家族のあり方を尊重し、個人の選択の自由を保障するために、早期の法改正を強く望んでいます。
弁護士会の財政基盤強化については、会員数の減少という課題があるとのことですが、現状をどのように分析されていますか?
京都弁護士会は幸いにも会員数は微増していますが、将来的には減少に転じる可能性もあります。特に、若い世代の弁護士が東京や大阪などの都市部に集中する傾向があり、地方の弁護士会は厳しい状況に置かれています。原因としては、都市部での経済活動の活発さ、大手法律事務所の存在、そして若い世代のキャリア志向などが考えられます。
若い世代の弁護士に、京都で働く魅力をどのように伝えていきたいですか?
京都には、専門性の高い魅力的な弁護士が多く、委員会活動も活発です。若い世代には、ぜひ京都で経験を積み、弁護士としての幅を広げてほしいと願っています。また、京都は歴史と文化が豊かなだけでなく、住環境も良く、ワークライフバランスも取りやすいという魅力もあります。京都は大学がとても多い街ですので、各大学や各法科大学院との連携を強化し、学生の皆さんに京都弁護士会の活動を知ってもらう機会を増やしていきたいと考えています。
池上会長ご自身のリーダーシップについてもお伺いしたいのですが、どのような会長でありたいと考えていますか?
私は、弁護士及び弁護士会は、会員や市民の皆様から信頼され、頼りにされる存在でありたいと考えています。そのためには、常に誠実であることを心がけ、透明性の高い情報公開に努めます。また、副会長には積極的に活動してもらい、私は最後の責任を取るという覚悟で臨んでいます。多様な意見に耳を傾け、弁護士会全体の合意形成を重視する、民主的なリーダーシップを発揮したいと考えています。
誠実と透明性、多様な意見を尊重する。まさに池上会長らしいあり方だなと思います。プライベートな時間では、どのように過ごされていますか?
読書や家族のために料理をすることが息抜きになっています。最近は、三浦しおんさん、川上未映子さん、町田そのこさん等女性作家の作品が好きで読んでいます。
料理については、冷蔵庫にあるもので献立を考え、家族に喜んでもらえる料理を作るのが好きです。よしながふみさんの「きのう何食べた?」という漫画を読んで、主人公のシロさん(料理好きの弁護士)に共感しています。また、時間がある時には、低山の山歩きをしたり、散歩をしたりして、心身のリフレッシュを図っています。
好きな言葉は、「悠々として急げ」です。
作家の故・開高健さんがよく言われていた言葉ですね。たしかに池上会長は常に悠々としていて、慌てたり動じたりする姿を見たことがありませんが、心の中では、やるべき課題を順序立てて、緊張感を以て準備・実行されているイメージがあります。最後に、市民の皆様にメッセージをお願いします。
弁護士会は、市民の皆様にとって身近で頼りになる存在でありたいと願っています。気軽に相談できる場所として、弁護士会を活用していただければ幸いです。また、弁護士会が主催する各種イベントにも、ぜひご参加ください。

本日は貴重なお話、ありがとうございました。(2025年4月1日)