最低賃金額の大幅な引上げ等を求める会長声明(2019年6月27日)(本イベントは終了しました。)


  中央最低賃金審議会は、毎年7月下旬頃、厚生労働大臣に対し地域別最低賃金額改定の目安を答申しているところ、昨年、同審議会は全国加重平均26円の引上げ(引上げ後の全国加重平均874円)を答申し、これに基づき各地の地域別最低労働賃金が決定された。
  しかし、時給874円では、フルタイム(週40時間、年52週)で働いても、月収約15万1500円、年収約181万8000円にしかならず、労働者が経済的に心配なく暮らせる水準には程遠い。最低賃金周辺で働く非正規雇用者は、全雇用労働者の4割にまで増加し、しかも、主に自らの収入で家計を維持する必要のある非正規労働者が大きく増加した。我が国の2015年貧困率は15.6%であり、その3年前の16.1%と比べやや改善したものの、依然として高い水準である。女性や若者など全世代で深刻化している貧困問題を解決するためにも、最低賃金の大幅な底上げが図られなければならない。
  政府は、2015年11月、最低賃金を毎年3.0%程度引上げ、全国加重平均が1000円程度となることを目指すとの方針を示したが、方針どおり毎年3.0%ずつ引上げたとしても1000円に達するのは2023年となる。他方、政府は、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、2020年までに「全国平均1000円」にするという目標を明記している。2020年までに1000円にするという目標を達成するために、中央最低賃金審議会は、2019年度以降、63円以上の最低賃金の引上げを答申すべきである。  
  最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも問題である。昨年度の最低賃金時間額は、最も低い鹿児島県では761円、最も高い東京都では985円であって、224円もの地域間格差がある。地域経済の活性化のためにも、地域間格差の縮小は喫緊の課題である。よって、全国一律最低賃金の導入を含む格差解消政策が検討されるべきであり、地方最低賃金審議会としても、最低賃金額の大幅な引上げを主体的に図るべきである。
  さらに、京都府においては、2018年8月、京都地方最低賃金審議会は中央最低賃金審議会の答申をそのまま受け入れ26円引上げ882円にすることが適当であるとの答申を行った(2018年10月1日発効)。しかし、時給882円では、年間所得約183万5000円にすぎない。中澤秀一静岡県立大学准教授監修による調査結果によれば、京都市北区在住の25歳・単身者をモデルとした月間の最低生活費は男性24万5785円、女性24万2735円であり、生活に必要な賃金は時給換算各1639円、1618円となる。この調査結果をみても、京都府においてさらなる最低賃金の引上げが必要であることがわかる。
  したがって、当会は、最低賃金額の大幅な引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活を確保し、地域経済の健全な発展を促すべく、中央最低賃金審議会には2019年度最低賃金改定の目安についての答申において少なくとも63円以上の最低賃金の引上げを答申すること、また、地方最低賃金審議会には、主体的に最低賃金額の大幅な引上げを図ることを求める。
  最低賃金額の大幅な引上げのためには、中小企業・小規模事業者の生産性向上に関する政府による支援はもとより、法人税・社会保険料などの恒久的な減税、下請取引の条件を改善するための規制の強化など、全般的な経営環境の改善に向けた施策が行われることが不可欠の条件となる。この点、使用者側団体・労働者側団体双方からも同趣旨の要望書が出されているところであるが、政府の対応は未だ不十分である。
  よって、当会は、政府に対して、賃金の引上げに取り組む中小企業・小規模事業者に対する支援策や取引条件の改善等について、地方の実情を十分に踏まえ、かつ即効性や実効性を重視した施策に積極的に取り組むことを求める。

2019年(令和元年)6月27日

京  都  弁  護  士  会

会長  三  野  岳  彦
  

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