裁判員制度施行10年を迎え、より良い裁判員制度の実現を目指す会長声明(2019年9月27日)




  2009年5月21日に裁判員制度が施行され、10年が経過しました。この間、延べ11,
800件あまりの事件が審理され、89,400人余りの市民が裁判員・補充裁判員に選任され
ています(2019年1月末時点)。
  裁判員対象事件についてはマスコミ報道が多くなされることもあり、裁判員制度そのものは、
市民の皆さんの間で定着してきていると言えます。また、市民の常識が正しく反映されたからこそ
といえる無罪判決も出されています。供述調書に依存した書面中心の裁判から、「法廷で見て、
聞いて、わかる」直接主義・口頭主義の裁判への移行、保釈率の上昇など、裁判員制度の導入を
契機に、絶望的とまで言われた刑事裁判に、望ましい変化の兆しも見えています。
  他方で、裁判員制度にはなお多くの課題も残されています。
  2011年に当会が公表した「裁判員制度が司法制度の基盤としての役割を十全に果たすこと
ができるようにするための提言」でも指摘したとおり、公判前整理手続と公判の担当裁判官が同
一であるため、公判に入った段階で裁判官と裁判員の間に情報格差が存在しています。また、事
実関係を争う事件について、公訴事実の審理と量刑の審理との分離が制度的に保障されていない
ため、被告人の前科など、量刑についての証拠が、事実認定の心証に誤った影響を与える危険性
を払拭できていません。
  評議については、守秘義務の制約が大きく、参加した裁判員が評議の在り方につき情報を発信
し、検証する場が設けられていないため、市民参加の積極的な意義を活かした十分な議論がなさ
れているのかどうか、検証が不十分となっています。さらに、市民が議論して出した無罪判決が
裁判官のみの判断によって覆されるなど、裁判員裁判の上訴審の在り方も大きな課題として残っ
ています。これらのことも影響してか、裁判員の辞退率は上昇し、選任手続への出席率は低下の
一途をたどっています。
  裁判員制度は、刑事裁判の審理・評議に市民が参加し、裁判に市民の視点・理解を反映させる
ことが、司法に対する市民の理解の増進とその信頼の向上に資するとして導入された大切な制度
です(裁判員法1条)。しかしそれは、従来の裁判官による裁判の正しさを市民に理解してもら
うという趣旨であってはなりません。刑事司法の目的は、真実発見とともに、基本的人権の保障
にあります。被告人が誤った事実認定や不適正な手続により有罪とされてしまったり、不当に重
く処罰されたりすることのないよう、裁判所や検察官の権力の行使を監視することにこそ、市民
参加の意義があります。
  当会は、こうした裁判員制度の課題について改善を求めるとともに、今後も更なる制度の発展
と充実を目指し、不断の努力を続けていく決意です。

                                                            

2019年(令和元年)9月26日

                                                            
京都弁護士会                    
                                                                会 長  三  野  岳  彦          


                                                            
                                                            
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