令和2年司法試験に関する意見書(2020年2月27日)
2020年(令和2年)2月27日
司法試験委員会委員長 神 田 秀 樹 殿
内閣総理大臣 安 倍 晋 三 殿
法務大臣 森 まさこ 殿
文部科学大臣 萩生田 光 一 殿
京 都 弁 護 士 会
会長 三 野 岳 彦
令和2年司法試験に関する意見書
第1 意見の趣旨
受験者数が大きく減少している現況に鑑み、令和2年司法試験において、1500人という枠にとらわれることなく、質の高い法曹が輩出できるよう、厳正な合否判定を行うようにされたい。
第2 意見の理由
1 令和元年司法試験の合格者は1502名であったが、これは、平成27年6月30日に、政府の法曹養成制度改革推進会議が取りまとめた、法曹人口の在り方についての検討結果に基づくものである。すなわち、司法試験の年間合格者数について、「これまで直近でも1800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。」とされたのである。
その結果、平成26年1810人、平成27年1850人であった合格者数は、平成28年1583人、平成29年1543人、平成30年1525人、そして令和元年1502人と、最近4年間の最終合格者数は、この目標数値をいずれも満たすものとなっている。
2 しかしながら、司法試験受験者数は、平成26年8015人、平成27年8016人であったのに対し、平成28年6899人、平成29年5967人、平成30年5238人、令和元年4466人と、僅か6年間で半数近くに減少している。
その結果、合格率は、平成26年22.6%、平成27年23.1%、平成28年22.9%、平成29年25.9%、平成30年29.1%であったが、令和元年は33.6%と急上昇している。
さらに、法務省から公表された令和2年司法試験の出願者数は、4226人に止まっている。例年、実際の受験者数は出願者数の90%前後に止まることから、令和2年司法試験の受験者数は3800人程度となるものと推測されるところ、仮に合格者数について1500人という枠にとらわれると、合格率は39.5%になってしまうことになる。
一般経験則上、母集団の減少はその中の有意人材の減少を不可避的に伴うとされる。そうだとすると、受験者数が急減する中で従前の合格者数が維持されれば、合格者の質の確保には自ずと不安が生じうる。現に、令和元年司法試験の合格最低点は、受験者平均点を僅かながら下回ってしまっている。この結果は、合格者の質の確保という観点からみた場合、受験者全体の大幅なレベルアップという状況の変化がなければ容認し難い。しかし、残念ながら、上記経験則を覆すに足るだけの状況の変化は、容易には見出し難いように思われる。
そもそも司法試験は、裁判官、検察官又は弁護士となろうとする者に必要な学識及びその応用能力を有するかどうかを判定することを目的としている(司法試験法1条1項)。にもかかわらず、現状は、単に司法試験合格者の目標数値の維持だけが優先され、「質の高い法曹の輩出」という観点が等閑視されているおそれがある。
3 日本弁護士連合会による弁護士人口将来予測(2020年に司法試験合格者を1500人にした後1500人を維持した場合)によれば、
弁護士数 国民人口
2021年 4万3055人 1億2483万人
2026年 4万7888人 1億2190万人
2031年 5万2793人 1億1838万人
2041年 6万1581人 1億1002万人
2051年 6万2621人 1億0102万人
とされており、今後国民人口が減少していくにもかかわらず、少なくとも20年後には、弁護士だけが2万人も増加していることになる。
他方、司法統計年報によると民事第一審通常訴訟事件の新受件数(地方裁判所)は、
2008年(平成20年) 19万9522件
2009年(平成21年) 23万5508件
2010年(平成22年) 22万2594件
2015年(平成27年) 14万3816件
2016年(平成28年) 14万8306件
2017年(平成29年) 14万6680件
2018年(平成30年) 13万8443件
と減少傾向に歯止めがかかっていない。
これらの数値は、弁護士をさらに増員する必要性につき疑問を生じさせるものである。当会は、2015年(平成27年)5月28日に、当面の司法試験合格者について1500名程度を上回る規模とすることは、現実的な基盤を欠いているとして、司法試験合格者数のさらなる大幅な削減がなされるべきとする決議をしたが、上記の数値に加えて、司法試験受験者が大きく減少してしまっているという実情に鑑みれば、質の確保を考慮することなく、1500人の合格者確保を優先させるべきであるとするような社会的要請などないことは明らかである。
4 法曹の質の低下は、その職務の性質上、法的サービスを受けようとしている人々の不利益に直結するおそれがある。上記した司法試験の目的や、司法試験受験者数の大幅減少という現況に鑑みると、「質の高い法曹の輩出」という観点が看過されるべきではない。政府の上記取りまとめについては、司法試験合格者数の目標数値自体の見直しが必要であり、令和2年司法試験の合格者数についても、1500人という枠にとらわれることなく、質の高い法曹が輩出できるよう、厳正な合否判定が行われなければならない。
以 上
意見書のダウンロードはこちらから→[ダウンロード](.pdf 形式)