「地方公共団体の後援判断に際し表現の自由の尊重を求める会長声明」(2020年5月20日)(本イベントは終了しました。)


1  2020年(令和2年)4月25日に京都府長岡京市内で予定されていた精神科医・立教大学教授の香山リカ氏の講演会「診察室から見えるリアルなニッポン-貧困、差別、ハラスメントとうつ病」について、主催する乙訓社会保障推進協議会が、長岡京市に後援を申請したところ、同市は、行政の運営に支障が生じるおそれがあるとして不承認とした。報道によれば、その理由は、2018年(平成30年)11月、香山氏が出演予定だった南丹市主催の講演会について、講演の進行を妨げようとする内容の電話があり別の講師に差し替えられたという事例をもとに検討し、「市民に影響を及ぼす可能性があり、安全を第一に考えた」からとされている。
2  憲法21条が保障する集会、言論等の表現の自由は、民主主義の根幹をなすものとして極めて重要な基本的人権である。
  地方公共団体には、市民の安全を守る責務があると共に、民主主義を維持・発展させる責務があるのであり、表現の自由が不当に侵害されようとする事態が生じた場合には、これに屈することなく、警察や弁護士会等の関係機関と連携し、毅然とした対応をとることが求められる。また、地方公共団体が、具体的かつ現実的な危険性も見受けられないのに、抽象的な「危険の可能性」を根拠に、表現の自由の行使を支持しないという態度を取ることも、健全な民主主義社会の維持発展のために不適切なものであると言わざるを得ないところである。
  今回の講演会は、平穏に行われようとしており、市民の安全について明らかな差し迫った危険の発生が具体的かつ現実的に予見される事態が生じていたわけではなかった。それにもかかわらず、市が、他の地域で講演の進行を妨げようとする内容の電話があり別の講師に差し替えられたという1年以上も前の事例だけを根拠に、なんら具体的かつ現実的な危険性の兆候すらなかったのに、後援を不承認としたとすれば、表現の自由に対する委縮効果につながりかねず、誠に遺憾である。
3  当会は、2018年(平成30年)12月に、表現の自由に対する不当な威嚇行為を強く非難する旨の会長声明を発しているところであるが、今回、改めて、京都府下の地方公共団体が、講演会等の後援を判断するに際し、不当な圧力に屈することなく、また抽象的な危険の可能性に過度に反応することなく、憲法が保障する表現の自由を最大限尊重した対応をとることを呼びかけるものである。

2020年(令和2年)5月20日

京  都  弁  護  士  会

会長  日下部  和  弘



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