「パーム油発電を再生可能エネルギー電気固定価格買取制度の認定対象から除外することを求める意見書」(2020年7月21日)


2020年(令和2年)7月21日

経済産業大臣  梶  山  弘  志  殿

京都弁護士会

会長  日 下 部  和  弘



パーム油発電を再生可能エネルギー電気固定価格買取制度の

認定対象から除外することを求める意見書



意見の趣旨
パーム油発電は、ライフサイクル全体での温室効果ガス排出量が化石燃料による発電より少ないとはいえず、食料との競合など持続可能性に重大な懸念を有するものであり、再生可能エネルギー電気固定価格買取制度におけるバイオマス発電の対象からパーム油発電を除外すべきである。

意見の理由
第1  はじめに
再生可能エネルギー電気の固定価格買取制度(以下「FIT制度」という。)のもとでバイオマス発電の一つとしてパーム油発電も認定対象とされ、2018年(平成30年)に入札制度が導入されるまで設備認定量が急増した。
京都府下においては、福知山市内で2017年(平成29年)6月に出力1260kWの発電施設が稼働し、舞鶴市喜多地区でも出力約6万6000kWの発電施設が計画されてきた(以下「本件計画」という)。本件計画は、2020年(令和元年)7月に事業実施主体が清算手続きに入り、実施されない見通しとなったが、パーム油発電についてはライフサイクル全体における温室効果ガス(GHG)排出量の削減及び持続可能性の観点から懸念が指摘されてきたものであり、FIT制度に適合しないものであるので、本意見を提出するものである。

第2  パーム油発電とFIT制度適用の問題点
1  FIT制度とバイオマス発電
FIT制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が一定期間、固定価格で買い取る制度で、1990年代から欧州等で風力や太陽光などの再生可能エネルギーの普及拡大策として導入されてきた。
我が国でも、東京電力福島原子力発電所事故を受けて、地球温暖化対策のために再生可能エネルギーの導入拡大が急がれていることから、2011年(平成23年)8月に、「環境負荷の低減」「日本の国際競争力の強化」「産業の振興」「地域の活性化」を目的とする電気事業者の再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法(以下「再エネ特措法」という。)が制定され、2012年(平成24年)7月から導入された。
再エネ特措法では、電力事業者がその買取費用を電力消費者から賦課金として徴収して同制度を支える仕組みであり、同制度の適用にあたっては、対象となる発電源にGHGの削減効果及び持続可能性が求められる。バイオマス発電はその燃料や発電方法がさまざまであり、パーム油発電は再エネ特措法施行規則第3条第28号にいう「農産物の収穫によって生じるバイオマスのうち液体であるものを電気に変換する設備」に該当するとされてきたが、農産物由来の液体燃料は土地利用変化を含むGHGの排出量、食料との競合 及び燃料供給の安定性など持続可能性の観点からの検討の必要性が指摘されてきた。
2  バイオマス燃料についての検討の経緯
(1)2016年度(平成28年度)から2017年度(平成29年度)にかけてFIT制度によるバイオマス発電認定量が急増し、2019年(平成31年)3月末時点でFIT制度開始前の導入量とFIT認定量を合計すると1130万kWにも及んでいることが明らかになった。その9割が輸入バイオマスであり、うちパーム油が2割、パーム油ヤシ殻が6割を占めていた。
このようにパーム油発電のFIT認定の急増をもたらした背景には、バイオマス発電の買取価格が一律に24円/kWhという諸外国に比べ高すぎる価格が設定され、環境負荷の低減の観点から重視されるべきライフサイクル全体でのGHG削減効果が考慮されていなかったことがあげられる。
(2)また、輸入木質バイオマスについては、FSC 等の森林認証についてCoC認証 というサプライチェーンにわたる分別管理を行うことが要件とされていたが、パーム油など農産物の収穫によって生じるバイオマス燃料については2018年(平成30年)4月まで同様の要件が定められておらず、原料であるナツメヤシ栽培のための熱帯林の乱開発や泥炭地の農地転用による森林火災やメタンガスの排出、さらに食料との競合等、持続可能性にかかる問題が指摘されてきた。
2018年(平成30年)4月の新規認定から燃料調達における持続可能性の評価として、RSPO認証 などの第三者認証による持続可能性の確認を行うこと及び認証燃料が非認証燃料と分離されたかたちで輸送されることを証明するサプライチェーン認証(アイデンティティ・プリザーブド(IP)方式 又はセグリゲーション(SG)方式 の認証を取得していること)が求められることになったが、これらは熱帯林や泥炭地由来の農園からのパーム油を除外するものではない。

第3  パーム油発電におけるライフサイクル全体でのGHG排出量
1  経済産業省バイオマスワーキンググループにおける検討
(1)そこで、経済産業省は、2018年度(平成30年度)の調達価格等算定委員会において、FIT制度で農産物の収穫に伴って生じるバイオマス燃料に求める持続可能性についての評価項目及び食料との競合の観点を含めた検討を求め、総合資源エネルギー調査会の下にバイオマス持続可能性ワーキンググループを設置し、農産物の収穫に伴って生じるバイオマス燃料の持続可能性について検討し、2019年(令和元年)10月に中間整理が出された (以下「中間整理」という)。
(2)中間整理では、バイオマス発電における栽培、加工、輸送及び燃焼時のライフサイクル全体でのGHG排出量と化石燃料のライフサイクルGHG排出量との比較(発電効率30%)が示されている(下記図1)。液体燃料であるパーム油については、加工プロセスにおけるメタンガスの排出処理がなされていない場合には、ライフサイクル全体でLNG火力よりも多くのGHGを排出する可能性が高い。
  
【図1:化石燃料のライフサイクルGHG排出量との比較(発電効率30%)】


さらに、栽培農地が熱帯林や泥炭地由来のパーム油の場合は、土地利用変化によるGHG排出量が極めて大きいことがわかる(図2。土地利用変化がある場合は、ない場合に比べ最大139倍である)。
しかしながら、中間整理では、パーム油にかかるメタンガスの回収について第三者認証を通じた確認が現時点では不確実であることなどを指摘し、事業者にGHG排出削減計画の策定・実施を求めるに留まった。

【図2】土地利用変化によるライフサイクルGHG排出量


(3)なお、中間整理では食料との競合について、運転開始済のパーム油発電所の設備容量が9万kWであり、パーム油の年間使用等は最大18万tであるが、すでにFIT認定を受けた設備容量(180万kW)における年間使用量は360万tと試算されている。パーム油を燃料として大量に活用する場合、燃料用と食用とが競合することで、食料の国際価格の高騰をもたらし途上国における飢餓に繋がる等の懸念があり、発電所にとっても燃料の安定調達に懸念が生じるリスクを指摘し、これらの問題は個々の発電所がどのような燃料を調達するかというミクロ的確認だけで防止することは困難であるとしている。
2  本件計画におけるGHG排出量の検証
(1)本件計画の概要
  舞鶴市の喜多地区パーム油発電所立地計画説明資料 (以下「説明資料」という。)によれば、本件計画は、2020年(令和2年)4月の段階で、本件のプロジェクトファイナンスを目的とする舞鶴グリーンイニシアティブズ合同会社(以下「MGI」という。)が事業主体となり、建設・運営・保守を日立造船による、出力6万6000kWの国内最大級のパーム油発電計画である。年間燃料使用量は約12万トンとされていた。
本件計画は2017年(平成29年)7月20日に日立造船株式会社(以下「日立造船」という。)がFIT認定を受けており、2018年(平成30年)9月に、MGIにFIT認定が譲渡された。なお、MGIは2020年(令和2年)6月29日にFIT認定IDの廃止届を提出し、同年7月1日に解散手続きに入ったとの報告を受けている。
(2)事業者によるGHG排出量の試算
MGIの説明資料 及び舞鶴市の説明資料 には、舞鶴ケースのパーム油発電について、RSPO認証を取得することで、「違法な森林伐採や土地利用変化のないことを確認し、GHG排出量削減に貢献する」とし、本件計画における発電設備の発電効率は45%であり、「グリーンバリューチェーンプログラム」による計算では「サプライチェーン全体におけるGHG排出量は56g-CO2eq/ MJ- electricity 」と記載されている(図3)。

【図3  説明資料に記載された日立造船による試算】
    

(3)日立造船によると、本件計画では加工時にガス処理がなされていないパーム油による発電である。また、中間整理における図1は発電効率30%の場合であるが、発電効率は45%であるので、本件計画には妥当しないとするものである。しかし、発電効率を45%としても、パーム油加工時にガス処理がなされていない場合のライフサイクル全体でのGHG排出量は、土地利用変化のない農園の場合であっても、約120~130 g-CO2eq/ MJ-Electricityとなり、LNGコンバインドサイクルのライフサイクルGHG排出量とほぼ同じ水準となる(図4)。
また、RSPO認証は泥炭地由来農園による栽培を認めていることは争いがなく、土地利用変化によるGHGガス排出量が試算されるべきである。
その場合、泥炭地由来の農園での栽培によるパーム油がわずか1%混入した場合であっても、ライフサイクル全体でのGHG排出量はLNGコンバインドサイクルをやや超えるレベルとなる。2%混入した場合には約300 g-CO2eq/ MJ -Electricityにもなり、石炭火発のGHG排出量をはるかに超えることになる(図4)。

【図4:発電量あたりGHG排出量(発電効率45%)】

上記に照らせば、パーム油発電をカーボンニュートラルな再生可能エネルギー発電、あるいは対化石燃料比において排出量削減効果があると説明することは適切でないというべきである。

第4  結論
FIT制度は、GHGの排出削減に貢献する持続可能な再生可能エネルギーの推進を目的とするものであり、当該再生可能エネルギーの気候変動緩和効果が化石燃料に比して十分に大きいことは必須である。
RSPO認証やIP・SG認証の導入によっても、土地利用変化の影響や加工工程におけるガス処理工程を含むライフサイクル全体でのパーム油発電のGHG排出量は高効率のLNGコンバインドサイクル発電よりも小さいとは到底いえない。また、発電燃料としてのパーム油の大量消費は食料との競合をもたらす懸念も大きいといわざるをえない。パーム油は全量輸入するもので、安定供給性にも問題がある。
よって、意見の趣旨に記載したとおり、パーム油発電をFIT制度の認定対象として、電気利用者である国民の負担によって維持すべきではなく、再エネ特措法施行規則第3条第28号における「農産物の収穫によって生じるバイオマスのうち液体であるものを電気に変換する設備」からパーム油発電設備を除外すべきである。
以 上


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