意見書

「欺瞞的なお試し価格商法について、特定商取引に関する法律に基づく抜本的な対応を求める意見書」(2020年8月20日)


2020年(令和2年)8月20日


内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  衛  藤  晟  一  殿
消費者庁長官    伊  藤  明  子  殿
特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会委員長    河  上  正  二  殿

京  都  弁  護  士  会

会長  日下部  和  弘


欺瞞的なお試し価格商法について、

特定商取引に関する法律に基づく抜本的な対応を求める意見書




第1  意見の趣旨
1  特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)上、欺瞞的なお試し価格表示 を、独立した禁止行為として規定することにより、規制の実効性を強化すべきである。仮に、独立した禁止規定を設けない場合であっても、このような表示は、申込画面等に2回目分以降の購入が必要となる旨の記載があるか否かにかかわらず、虚偽誇大広告(特商法12条)又は顧客の意に反して申込みをさせようとする行為(同法14条1項2号)に該当するものであるから、このような表示を行う事業者に対しては、厳正に行政処分を執行すべきである。

2  欺瞞的なお試し価格表示により消費者が締結した契約について、解約・解除を不当に妨害するような行為を禁止するとともに、特商法上、解約権等の民事ルールを創設すべきである。

3  仮に、欺瞞的なお試し価格表示について、独立した禁止規定を設けない場合であっても、欺瞞的なお試し価格表示は、それ自体が許されないものであることをガイドライン等において明らかとすべきである。また、申込画面等に2回目分以降の購入が必要となる旨の記載があることをもって、適法となるかのような誤解を与えるガイドライン は、改めるべきである。

4  欺瞞的なお試し価格・定期購入商法に対して適格消費者団体が適切に差止め請求権を行使できるようにするため、通信販売に係る差止請求権(特商法58条の19)の対象に、以下の行為を含めるべきである。
①広告をするに際し、販売価格、支払時期等、省令11条4項が規定する特商法11条1号から3号までに掲げる事項について、著しく事実に相違する表示をし、または実際のものより著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示をする行為。
②顧客の意に反して申込みをさせようとする行為(特商法14条1項2号・特商法施行規則16条1項1号及び2号)。

第2  意見の理由
1  はじめに
(1)特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(以下「検討委員会」という。)開催に至る経緯
      近年、インターネット上の通信販売において、実際には一定回数以上の商品を購入する定期購入契約であるにもかかわらず、インターネット広告画面上において、「初回〇〇円」、「お試し〇〇円」といった表示がなされ、これを見た消費者が、初回分のみの購入契約であると誤認して定期購入契約を締結してしまうというトラブルが急増している。このようなケースでは、消費者は、2回目の商品が送付されてはじめて定期購入契約であったことに気づき、2回目以降の代金の支払いを余儀なくされている 。2019年(令和元年)度(11月30日時点)にPIO-NETに寄せられた相談は29,177件であるところ、既に2018年(平成30年)度の23,002件を上回っており、前年度同期比約230%と激増している。定期購入に関する類似の相談が約5万件にのぼったとの報道もある 。
こうした状況を受けて、消費者庁に2020年(令和2年)2月より、特商法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会(以下「検討委員会」という。)が設置され、悪質なお試し商法等に係る規制の在り方について、議論が開始されるに至った。
(2)検討委員会での議論状況
この検討委員会では、欺瞞的なお試し価格表示について、各委員から、誤解を招く不当な表示を具体的に禁止する規定を設けるべきであるという意見や、不実告知取消し等の民事規定の整備を求める意見が述べられた。
これを受け、検討委員会事務局から、「詐欺的な定期購入方法に該当する定期購入契約を念頭に、特定商取引法における顧客の意に反して通信販売に係る契約の申込みをさせようとする行為等の規制を強化。具体的には、独立した禁止行為とした上で、規制の実効性を向上させる」、「解約・解除を不当に妨害するような行為を禁止するとともに、解約権等民事ルールの創設等も検討。」、「特定商取引法に基づくガイドラインである「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをさせようとする行為』に係るガイドライン」の見直しを早期に実施するとともに、法執行を強化。」(特商法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会報告書骨子(案) 。以下「報告書骨子(案)」という。)との報告がなされた。

2  意見の趣旨1について
欺瞞的なお試し価格商法では、典型的には、下図のような表示がされる。

上記のような表示がされている場合、消費者からすれば、「初回1個を送料だけを払って試してみて、良い商品だと思えば、2回目以降の購入も検討する。」と認識するのが通常である。
しかし、実際には、初回無料の購入のために、さらに商品の購入(定期購入等)をすることが契約条件であるため、初回1個分だけ試してみるということがそもそも不可能である。上記の例では、初回分を契約した消費者は、結局は4万円分を購入することを免れない。
このように、初回1個分を送料負担のみで購入可能であるかのような表示は、実際のものよりも著しく有利であると人を誤認させる虚偽誇大広告である。また、このような表示によって、消費者は4ヶ月分(合計4万円)の商品についての購入契約の申込みとなることを容易に認識できないまま申込みをさせられることとなるから、このような表示は顧客の意に反して申込みをさせようとする行為にも該当する。
このことは、申込確認画面等に2回目分以降の購入が必要となる旨の記載がある場合であっても、異なるものではない。なぜなら、「初回無料」「初回〇〇円」等の欺瞞的なお試し価格表示によって、既に消費者は初回のみの契約と誤信していることが多く、申込確認画面等で2回目分以降の購入が必要となる旨の記載が注意的にあったとしても、誤信を容易に払拭できるものではないからである。問題は、初回の1回分を送料負担のみで購入可能であるかのような表示であり、当該表示についての規制が被害防止に必須である。
具体的な規制の内容としては、特商法上、このような欺瞞的なお試し価格表示を、独立した禁止行為として規定すべきである。仮に、独立した禁止規定を設けない場合であっても、このような表示は、虚偽誇大広告(特商法12条)又は顧客の意に反して申込みをさせようとする行為(同法14条1項2号)に該当することは明らかであるから、このような表示を行う事業者に対しては厳正に行政処分を執行すべきである。

3  意見の趣旨2について
    消費者が、欺瞞的なお試し価格表示によって、初回分のみの購入契約であると誤認して定期購入契約を締結してしまうというトラブルが急増していることは、既に述べたとおりである。
ところが、現行の特商法上は、欺瞞的なお試し価格表示により消費者が締結した契約について、解約権等の民事ルールを設けていない。また、上記表示は、消費者契約法等によって取消し得るものであるが、要件の解釈をめぐって事業者との間で無用な争いが生じている。
こうした民事ルールを設けることは、被害に遭った消費者を直接救済することを可能にするとともに、欺瞞的なお試し価格表示を行う事業者にその表示により得た利益を吐き出させることによって、このような商法を根絶することに繋がるものである。そこで、解約・解除を不当に妨害するような行為を禁止するとともに、解約権等の民事ルールを創設すべきである。

4  意見の趣旨3について
    消費者庁は「インターネット通販における『意に反して契約の申込みをしようとする行為』に係るガイドライン」を示している。しかし、このガイドラインでは、「初回無料」「初回〇〇円」等の欺瞞的なお試し価格表示の問題性について示されず、定期購入契約の主な内容の表示方法のみが問題とされているため、あたかも、申込確認画面において、定期購入契約の主な内容の表示があれば許されるかのような記述となっている。
そのため、欺瞞的なお試し価格表示を行う事業者は、このようなガイドラインを逆手にとり、「お試し〇〇円」という表現や「初回〇〇円」等、あたかも低額な金額で契約できるかのような表示を強調しつつ、他方で、2回目以降の購入条件の注意書き表示をこれらの強調表示と異なる場所に、または小さな活字で記載するなどして、ガイドラインに即した記載を行っている等と主張し、消費者からの解約申入れに応じようとしない。そのため、消費生活センターが事業者とあっせん交渉を行っても、解決困難な状態が続いている。
前述のように、「初回無料」「初回〇〇円」等の欺瞞的なお試し価格表示によって、既に消費者は初回のみの契約と誤信していることが多く、申込確認画面等で2回目分以降の購入が必要となる旨の記載が注意的にあったとしても、誤信を容易に払拭できるものではない。
上記ガイドラインが逆手にとられ、解決が困難になっている現状を改善するためには、申込確認画面等に2回目分以降の購入が必要となる旨の記載があるか否かにかかわらず、「初回〇〇円」、「お試し〇〇円」といった欺瞞的なお試し価格表示自体が許されない不公正な表示であることを、ガイドライン上で明確にすべきである。

5  意見の趣旨4について
    現在の特定商取引法では、適格消費者団体による通信販売に係る差止請求権の対象に、同法12条によって禁止される誇大広告等のうち「主務省令で定める事項」についてのもの、すなわち、販売価格や支払いの時期等の同法第11条各号に掲げる事項についてのものが、文言上含まれていない(特商法58条の19)。また、顧客の意に反して申込みをさせようとする行為(同法14条1項2号)も同様である。そのため、欺瞞的なお試し価格商法によって消費者に被害が生じるおそれがあっても、特商法上は、適格消費者団体が差止請求することができない状況である。
しかし、欺瞞的なお試し価格商法を根絶するためには、特定商取引法において、行政による厳正な処分の執行とともに、適格消費者団体による差止請求の対象にも含め、被害を広く予防する必要がある。
よって、適格消費者団体の差止請求(特商法58条の19)の対象に、上記の各行為を含めるべきである。

以  上


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