意見書

いわゆる「送り付け商法(ネガティブオプション)」に対する規制強化を求める意見書(2020年12月24日)


2020年(令和2年)12月24日

衆議院議長      大  島  理  森  殿
参議院議長      山  東  昭  子  殿
経済産業大臣    梶  山  弘  志  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  井  上  信  治  殿
消費者庁長官    伊  藤  明  子  殿

京都弁護士会

会長  日 下 部  和  弘
  


いわゆる「送り付け商法(ネガティブオプション)」に対する

規制強化を求める意見書



第1  意見の趣旨
事業者が、注文を受けていない物品を消費者に送付して、いきなり代金を請求し、あるいは、消費者が一定期間内に購入しない旨の通知をしなかった場合に購入意思があるものとみなして代金を請求する商法(以下「送り付け商法(ネガティブオプション)」という。)について、国は、特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)第59条第1項を、以下のように改正すべきである。
1  送り付け商法(ネガティブオプション)を禁止し、これに違反した場合に行政処分や刑罰、消費者団体の差止請求の対象とすること。
2  販売業者が消費者の承諾なく商品を送付する行為(ただし、販売業者が誤配送した場合を除く。)は、贈与の申込みとみなすこと。
3  承諾なく送り付けられた商品について、商品の受領者は、商品の保管・返還義務を負わず、所持していても不当利得返還義務も負わないこと、及び、直ちに消費、使用、処分をしても、代金の支払義務及び損害賠償義務を負わないことを規定すること。

第2  意見の理由
1  被害の現状
    送り付け商法(ネガティブオプション)は、特商法の制定当時(当時は「訪問販売等に関する法律」)から存在するが、いまだになくなることはなく、年間3000件前後で推移している 。2013年前後には、健康食品の送り付け商法(ネガティブオプション)が多発し 、2020年には、カニなどの魚介類の送り付け商法(ネガティブオプション)も問題となった 。さらには、コロナ禍に便乗したマスクの送り付け商法(ネガティブオプション)も頻発し、消費者庁から注意喚起がなされるに至っている 。
    送り付け商法(ネガティブオプション)でも、他の悪質商法と同様、高齢者が狙われることが多く 、商品の送り付けに前後して行われる電話において、販売業者から暴言を吐かれたり、脅迫を交えて支払いを求められたり、しつこく勧誘されたりすることもある 。
    また、代金引換サービスを利用した送り付け商法(ネガティブオプション)もあり、代金を支払ってしまったために返金を求めることが困難となるといったトラブルも発生している 。
2  現行特商法の問題点
⑴  現行特商法の規定
送り付け商法(ネガティブオプション)は、一定期間(以下「回復期間」という。)の経過により、販売業者の商品に対する返還請求権が否定されるにとどまり、それ自体は禁止されておらず、行政処分その他のサンクションは設けられていない。
その結果、第2、1で述べたような被害やトラブルの発生を防止できていない。
⑵  消費や使用により売買契約が成立したものと扱われるおそれ
    消費者庁は、一方的に商品を送り付ける行為を、売買契約の申込み行為と解している 。かかる解釈のもとでは、回復期間経過前に、商品を消費、使用、処分した場合には、承諾の意思表示と認めるべき事実に当たるとして、売買契約が成立したものとみなされる(民法527条)おそれがある。
⑶  保管義務の発生
    現行特商法は、商品の受領者の保管義務の存否について、明文の規定を置いていない。
    立法担当者は、受領者に保管義務があることを前提とした説明を行っており 、消費者庁もそれを前提に、受領者に保管義務があると解している 。
    このような見解の下では、商品の受領者は、回復期間中、商品を保管しなければならず、勝手に処分をすることができない。受領者にとっては保管義務それ自体が負担であるうえ、商品が魚介類などの生鮮食品のような場合には、腐敗といった問題も発生しうるため、保管義務を認めることには問題がある。
⑷  毀損による損害賠償請求や不当利得返還請求のおそれ
    現行特商法は、商品の所有権の帰趨について、明文の規定を置いていない。
    もっとも、消費者庁は、回復期間の経過前は、「他人の所有物」とし 、回復期間の経過後も、「所有権を有する者が明確であるにもかかわらず、所有権が移転することとするのは、民法の所有権原則に照らしてあまりにも唐突に過ぎ、法制度上の問題があるため」、販売業者の返還請求権が否定されてもなお、販売業者に所有権は残り、商品の受領者は所有権を取得しないとしている 。
    回復期間の経過後については、受領者が商品を消費・使用した場合や毀損した場合でも、販売業者の不当利得返還請求権や損害賠償請求権が否定されることに解釈上争いがない。しかし、回復期間の経過前については、販売業者に商品の所有権がある以上、商品を受領者が毀損すれば、販売業者から損害賠償請求を受けるおそれがあるし、受領者が商品を所持しているだけでも、販売業者から使用利益の不当利得返還請求を受けるおそれも否定できない。
3  問題点に対する対応
⑴  送り付け商法(ネガティブオプション)の禁止
    現行特商法の規定は、第2、2で述べたように、被害やトラブルの発生を防止するのに十分なものではなく、規制を強化する必要性が高い。他方で、送り付け商法(ネガティブオプション)は、消費者の知識不足や誤認、困惑に乗じる販売方法であって、何ら正当性を見出すことができないものであり、送り付け商法(ネガティブオプション)の規制についても検討を加えた「特定商取引法及び預託法の制度の在り方に関する検討委員会」の報告書 においても、「何ら正常な事業活動とみなされないものである」と結論付けられている。
  EU、イギリス、アメリカ(連邦及び一部の州)、カナダ(一部の州)、ブラジル、アルゼンチン、韓国、オーストラリア、ニュージーランドなどの多くの国で、送り付け商法(ネガティブオプション)は禁止又は違法とされ、行政処分、差止請求、刑事罰等のサンクションが設けられているところである 。
    以上のことから、送り付け商法(ネガティブオプション)は明文をもって禁止し、実効性の確保のため、行政処分や刑罰、消費者団体による差止請求の対象とすることが相当である。
⑵  一方的に商品を送り付ける行為を贈与の申込みとみなすべきこと
    イギリスやアメリカの立法例を参考に 、消費者の承諾のない一方的な商品の送り付け行為は、贈与の申込みとみなすべきである。
これにより、商品の受領者が商品を誤って消費、使用、処分した場合でも、民法527条により売買契約が成立することはなく、代金の支払義務を負うこともない。
    また、商品の受領者が販売業者に対して承諾の意思表示をした場合は、贈与契約が成立する。他方、商品の受領者が贈与契約の成立を望まない場合は、承諾の意思表示をせず、販売業者に対して商品を送り返せばよい。
⑶  受領者の商品の保管・返還義務、代金支払義務、不当利得返還義務、損害賠償義務を否定すべきこと
    一方的な商品の送り付け行為に対して商品の受領者が、販売業者に承諾の意思表示をすれば、受領者に商品の所有権が移転する。これにより、受領者は、商品の保管・返還義務を負わない。また、受領者は、商品を所持していても不当利得返還義務を負わず、直ちに商品を消費、使用、処分しても損害賠償義務も負わない。
    商品の受領者が承諾の意思表示をしない場合は、当然には贈与契約は成立しない 。
かかる場合でも、一方的に商品を送り付けられただけの商品の受領者に商品の保管・返還義務を課すことは不当である。他方で、送り付け商法が禁止されているにもかかわらず、承諾のない送り付け行為を行った販売業者を保護する必要はない。よって、贈与契約の成否及び回復期間の経過を問わず、販売業者の商品の返還請求権及び受領者の商品の保管義務は明文をもって否定すべきである。また、商品の受領者が、商品を所持していた場合でも不当利得返還義務を負わないこと並びに商品を消費・使用・処分した場合でも代金の支払い義務及び損害賠償義務を負わないことを規定すべきである。
なお、販売業者が不当な勧誘等により消費者に新たな売買の申込の意思表示をさせた場合、民事上は、公序良俗違反による無効、民法の詐欺や消費者契約法による取消により消費者は救済されることになる。この点については、送り付け行為を起点とした不当な勧誘等の行為からの消費者の救済の実効性をより一層高めるためにも、消費者契約法において、つけこみ事案に対する包括的な手当が求められる。
⑷  送り付け商法(ネガティブオプション)から誤送付の場合を除くべきこと
販売業者が商品を誤って別の名宛人に送付する場合もありうるので、この場合を贈与の申込みとみなす行為の対象から除く必要がある。
以 上


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