声明

「少年法適用年齢問題にかかる法制審議会第188回会議において採択された法務大臣あての答申に対する会長声明」(2021年1月20日)


1  はじめに
法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「部会」という。)では、少年法の適用年齢引き下げ等について議論されてきたところ、2020年(令和2年)9月9日に開かれた第29回会議において取りまとめを採択し、法制審議会では、同年10月29日に開かれた第188回会議において法務大臣あての答申(以下「本件答申」という。)を採択した。

2  本件答申の問題点
本件答申においては、18歳及び19歳は「刑事司法制度において18歳未満の者とも20歳以上の者とも異なる取扱いをすべき」とされ、①家庭裁判所は「死刑又は無期若しくは短期1年以上」の刑に当たる罪の事件については原則的に検察官送致決定をする、②家庭裁判所での処分は、犯情の軽重を考慮して相当な限度を超えない範囲内において行わなければならないものとする、③18歳及び19歳のぐ犯少年を対象からはずすこととする、④検察官送致後に刑事裁判となった場合、不定期刑は適用しない、⑤18歳及び19歳のときに罪を犯した者が検察官送致後、起訴された場合は、推知報道制限の対象外とする等の法整備をなすものとされた。
しかしながら、これらの制度改正は、以下に述べるとおり、少年法の意義を大きく後退させ、18歳及び19歳の少年の更生を困難にするものである。

3  立法事実が無いこと
そもそも、18歳及び19歳の少年によるものも含め、近年、少年事件は減少の一途をたどっており、現行少年法が有効に機能していることは明らかである。また、国連子どもの権利委員会の子どもの権利条約の一般的意見24号は、「32  委員会は、一般的規則としてまたは例外としてのいずれであるにかかわらず、18歳以上の者に対する子ども司法制度の適用を認めている締結国を称賛する。このアプローチは、脳の発達は20代前半まで続くことを示す発達学上および神経科学上のエビデンスにのっとったものである。」と表明しており、18歳及び19歳の少年を現行少年法の適用から除外することは国際的な潮流に逆行するものである。このような実情からして、18歳及び19歳の少年の事件について、あえて、刑罰の対象とする範囲を拡大する法改正を行うことを基礎づける立法事実は存しない。

4  前記①について
前記①は、原則として検察官送致とされる範囲を、現行少年法の「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件」という定めから「死刑又は無期若しくは短期1年以上の刑」の犯罪に拡大するという改正提案である。この拡大がなされれば、強盗罪が含まれるようになるが、特に強盗罪のような財産犯は、犯情の幅が広い犯罪類型であるにもかかわらず、これを一律「原則逆送」とする結論は、少年の更生のため、きめ細やかな個別処遇を重視する従前の少年法の考え方とは相容れない。また、「原則」が文字通りに実行されることになれば、家庭裁判所での審理や調査が形骸化するおそれすらあり、要保護性の高い18歳及び19歳の者が、少年法に基づく保護処分に付されることもなく、起訴され、執行猶予判決により、適切な指導、処遇もされないまま社会に戻るという事態も生じうる。

5  前記②について
現行少年法は第1条の「健全育成」を目的として、事件結果の軽重のみに捉われず、少年が抱える要保護性を丁寧に調査、検討したうえで、その健全育成に必要な処遇を少年ごとに個別に選択することで、有効な機能を発揮してきた。これに対し、前記②は、18歳及び19歳に対する家庭裁判所での処分につき、犯情の軽重に照らしてその上限を設けようとするものであり、被害の結果が小さい場合、対象者の要保護性がいかに大きくその必要性が高い場合であっても施設収容処分を選択できないという事態が生じかねず、適切な処遇選択が制約されることにより、かえって対象者の更生を困難にするおそれがある。家庭裁判所の処分はあくまでも要保護性を十分に考慮してなされるべきであって、犯情の軽重のみを重視して処分内容を決定することは、年長少年に対する矯正処遇の実情及び特殊性を無視するものである。

6  前記③について
本件答申も認めるとおり、18歳及び19歳の者は、類型的に未だ十分に成熟しておらず、成長発達途上にあって可塑性を有する存在である。であればこそ、これらの18歳及び19歳の、罪を犯すおそれのある者に対するセーフティネットとして、ぐ犯は存置すべき制度である。

7  前記④について
    不定期刑の制度は、少年の人格が発展途上で可塑性に富み教育による改善更生が期待されることから処遇に弾力性を持たせる趣旨であるところ、その趣旨は18歳及び19歳の者にも十分妥当するものであるから、これを適用できなくすることは不当である。

8  前記⑤について
起訴後に推知報道が解禁されると、本人の実名等が広く知られることになる。特に今日においては、SNS等を通じて情報が容易に拡散され、かつ、インターネット上に半永久的に残り続けることになる。推知報道の解禁は、成長発達途上にあって可塑性を有する少年の立ち直りに致命的な悪影響を及ぼすおそれがあり、到底容認できない。

9  結語
以上のとおりであるから、当会は、本件答申の上記内容に対し、強く反対する。




2021年(令和3年)1月20日

京  都  弁  護  士  会

会長  日下部  和  弘



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