声明

「改正感染症法・改正特措法について、基本的人権を擁護する観点から慎重な運用を求める会長声明」(2021年2月17日)


  2021年(令和3年)2月3日、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」という。)及び「新型インフルエンザ等対策特別措置法」(以下「特措法」という。)の改正案が成立した。新型コロナウイルスの感染拡大を早期に効果的に収束させる対策が求められるが、一方で、基本的人権を尊重する姿勢で慎重に運用することが極めて重要である。

1  感染症法について
  感染症法では、我が国において、「過去にハンセン病、後天性免疫不全症候群等の感染症の患者等に対するいわれのない差別や偏見が存在したという事実を重く受け止め」、「感染症の患者等の人権を尊重しつつ、これらの者に対する良質かつ適切な医療の提供を確保し、感染症に迅速かつ適確に対応する」という視点に立って「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する総合的な施策の推進を図る」と謳われており(前文)、国及び地方公共団体が講ずる施策は、「感染症の患者等が置かれている状況を深く認識し、これらの者の人権を尊重しつつ、総合的かつ計画的に推進されることを基本理念とする」(第2条)と定められている。
  感染症法の改正により、正当な理由なく入院措置に応じない者、入院先から逃げた者及び積極的疫学調査を正当な理由なく拒否若しくは虚偽答弁をした者に対し過料が科されることとなった。
  しかし、新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見及び入院措置・疫学調査の内容等は、今のところ十分に確立されているとは言い難く、また、我が国の医療体制には地域差も存在する。
  したがって、今後の知見や調査の蓄積により入院措置の対象が変化していく可能性があり、また、各地域の置かれている状況によって過料の制裁が科されたり科されなかったりするという不均衡が生じる可能性がある。
  また、当会の2020年(令和2年)7月21日付け「新型コロナウイルスに関連する差別や誹謗中傷を許さず、差別のない社会を実現するために全力を尽くすことを決意する会長声明」で述べたように、新型コロナウイルス感染者等に対する差別や風評被害が生じているところ、罰則の導入により、感染することへの不安が強まり、その不安から感染者への差別や風評被害が助長されることも危惧される。
  したがって、改正感染症法の運用については、基本的人権の不当な侵害にならないよう慎重な姿勢が求められるのであり、特に、過料の制裁については、個別の事情について十分に検討された上で抑制的に運用されるべきである。

2  特措法について
  特措法には、「国民の自由と権利が尊重されるべきことに鑑み」、対策を実施する場合において、「国民の自由と権利に制限が加えられるときであっても、その制限は当該新型インフルエンザ等対策を実施するため必要最小限のものでなければならない」(第5条)と定められている。
  特措法の改正により、「まん延防止等重点措置」が創設され、都道府県知事は、緊急事態宣言が発出されていなくても、新型コロナウイルスの発生状況等を考慮して、知事が定める期間及び区域において、事業者に対し、営業時間の変更等の措置を要請・命令し、要請・命令したことを公表することができ、命令に違反した者に対し過料が科されることとなった。
  しかし、「まん延防止等重点措置」の発動要件は、法律で一律に定められているわけではなく、対象となる事業者の選定や営業時間変更の期間等については、知事の裁量に委ねられている。
  「まん延防止等重点措置」は、日本国憲法が保障する営業の自由について重大な制約を加えるものであるから、新型コロナウイルスの感染拡大防止という目的のために「必要最小限」の措置にとどめるべきである。また、経営状況の悪化から休業することができない等、知事の要請・命令に直ちに従うことが困難な事業者側の事情は最大限考慮されるべきであり、過料の制裁については真にやむを得ない場合のみ抑制的に運用されるべきである。

  全国知事会新型コロナウイルス緊急対策本部本部長及び本部長代行が、「改正法の運用にあたっては」「罰則の適用も含め「国民の権利への制限は必要最小限のもの」として参りたい」とのコメントを発しているところであるが、当会としても、改正感染症法・改正特措法について、基本的人権を擁護する観点から慎重な運用を求めるものである。

      2021年(令和3年)2月17日

京都弁護士会

会長  日 下 部  和  弘



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