意見書

デジタルプラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会の報告書に関する意見書(2021年3月4日)


2021年(令和3年)3月4日


内閣総理大臣  菅      義  偉  殿
総務大臣      武  田  良  太  殿
経済産業大臣  梶  山  弘  志  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  井  上  信  治  殿
公正取引委員会委員長  古  谷  一  之  殿
消費者庁長官  伊  藤  明  子  殿
デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会
座長  依  田  高  典  殿  
消費者契約に関する検討会座長  山  本  敬  三  殿

京都弁護士会                

会長  日 下 部  和  弘
  


デジタルプラットフォーム企業が介在する消費者取引における
環境整備等に関する検討会の報告書に関する意見書




第1  意見の趣旨
2021年(令和3年)1月25日付けの「デジタルプラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会の報告書」(以下「報告書」という。)について、以下のとおり意見を述べる。

1  報告書10頁の「2.取引デジタルプラットフォーム提供者の努力義務」について
  (1) 努力義務で定められている措置と矛盾するようなデジタルプラットフォーム (以下「DPF」という。)業者(以下「DPF提供者」という。)が定める約款規定については、修正ないし削除されることを、新法に、法的義務として明記するか、内閣総理大臣が定める指針に明記する等して、適切な対応が講じられるべきである。
(2) DPF提供者が講じた努力義務の内容になっている措置の開示は法的義務とし、かつ、当該開示により消費者庁にて消費者被害の実態等が把握できるような制度にすべきである。
2  報告書11頁の「3.商品の販売停止等」について
危険・違法な商品が出品された場合には、内閣総理大臣がDPF提供者に対し、出品の削除を要請することができるに留める点に反対する。出品の削除を勧告・命令できることとし、違反には罰則を設けるべきである。
3  報告書12頁の「4.売主の身元に関する情報の開示の請求」について
(1) DPF提供者に対し、その通信販売取引の相手方である販売業者等に対する債権の行使のために必要な情報として販売業者等の名称、住所等の開示を請求(以下「身元情報開示請求」という。)できるものとする立法を行うことに賛成する。
(2) 身元情報開示請求の立法に当たり、売主が消費者である場合につき一律に対象外とすることについては、反対する。

第2  意見の理由
  1  「2.取引デジタルプラットフォーム提供者の努力義務」について
    (1) 努力義務の措置と約款規定が整合されるべきであること
        報告書10頁の記載によれば、DPF提供者は、「その提供する「場」において行われる通信販売取引の適正の確保及び円滑な紛争の解決の促進のため、以下の措置を講じるよう努める」とされており、計3つの措置が記載されている。
        これら3つの措置については、いずれも消費者が紛争に巻き込まれた場合にDPF提供者が講じるべき必要不可欠な措置であるから、その必要性については首肯できる。ただ、当たり前ではあるが、問題は果たして法的拘束力のない努力義務の規定で、上記3つの措置がDPF提供者によって適切に講じられていくのかという点である。
        その前提として、3つの措置と相反するような約款規定は明確に修正ないし削除させるべきである。即ち、現在の多くのDPF提供者が定める約款 等では、「紛争には関与しない」「当事者間で解決するものとする」といった定めになっているところ、このような約款の規定は上記3つの措置に明らかに反するものである。
        DPF提供者も既に自主的な取組を行っていると主張しているのであるから、上記のような約款規定はむしろ3つの措置と相反するものとして不要となるはずである。
にもかかわらず、上記のような約款を修正ないし削除しないというDPF提供者がいるのであれば、そのようなDPF提供者は上記3つの措置を講じないと宣言しているに等しく、DPF提供者としての自主的な取組を評価するに値しない。
付言すると、そのような約款が存在していると、消費者被害の現場では、何ら法的拘束力の及ばない努力義務の規定ではなく、当事者間の合意内容としての約款の存在が優先され、消費者が解決の土台にすら上がれなくなってしまうのである。
よって、3つの措置と矛盾するような約款規定が修正ないし削除されるべきことについては、新法に、法的義務として明記するか、内閣総理大臣が定める指針に明記する等して、適切な対応が講じられるべきである。
  (2) 消費者被害の実態の把握
    ア  報告書10頁の記載では、DPF提供者は「努力義務として講じる上記の措置の概要等について開示するものとすること」とされている。
イ  まず、この規定ぶりからすれば、講じた措置の開示については法的義務のように読み取れるが、一方でその下に記載されている(考え方)では「講じた措置についての開示の努力義務を設けること…」と、開示についても努力義務とされるかのような記載になっている。
しかし、開示については努力義務ではなく法的義務とされるべきである。なぜなら、現時点で開示の対象となる措置の具体的内容が不明確ではあるものの、「消費者からの苦情に基づき調査その他の必要と認める措置」「努力義務として講じる上記の措置の概要等」といった点に具体的な消費者被害の概要やその件数が含まれる場合、それらの情報はDPF提供者からすれば自社の負の情報であり、積極的に開示しようとするインセンティブがないからである。実質的にも、消費者被害の回復の為に講じる措置についてはDPF提供者の重要な企業秘密が含まれるとは考え難いし、消費者被害の減少に資するような措置についてはむしろ積極的に開示され共有されていくべきであるから、DPF提供者に対して法的義務を課しても大きな不利益、負担にはならないはずである。
ウ  さらに、報告書の他の項目とも関わるが、報告書ではCtoCの場合の売主の情報開示請求権は明示されず、DPFにおける紛争解決に関する規定の多くは本項のような努力義務に委ねられる形となってしまっている。その為、今後は官民協議会や努力義務の規定によりBtoCの消費者被害は勿論、CtoCの消費者被害の救済も適切に図られていくのか詳細に検証されていく必要があるが、その検証の前提としては消費者被害の実態を消費者庁にて適切に把握できるような制度及び環境が必要である。
    この点に関しては、2020年(令和2年)10月22日付で当会が公表した「デジタルプラットフォーム取引における消費者被害の抜本的な法整備を求める意見書」第2の3項にて、DPFの消費者被害の特性上、国民生活センター等の行政機関に消費者被害の情報が集約されず、むしろDPF提供者の下に多くの当該被害情報が集約されてしまうこと等を述べたところである。
そのため、DPF提供者が講じる措置後の消費者被害の実態、例えばDPF提供者に寄せられた消費者被害件数及びその内訳、寄せられた被害に対して講じた措置、その結果消費者被害が回復されたもの、回復されなかったものとその原因等といった点についてまで消費者庁にてDPF提供者から開示を受け把握できるようにしないと、努力義務の措置により適切に消費者被害が救済されているのかが検証できないままになってしまう。
実際、特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律(以下「透明化法」という。)9条においても、特定デジタルプラットフォーム提供者に対して、毎年度情報開示の状況や自主的な手続・体制の整備状況、紛争等の処理状況等を開示するよう求められているのであるから、DPFの新法がなされる場合に透明化法の当該規定と平仄が合わせられても何ら不合理ではない。
エ 以上より、DPF提供者が講じる措置の開示については法的義務とされるべきであり、かつ、当該開示により消費者庁にて消費者被害の実態等が把握できるような制度にすべきである。
  (3) 小括
      DPFにおける消費者被害救済のために最も適切なのは、法的義務としてDPF提供者に措置を講じるよう求めるべきであることは論を俟たない。しかし、仮にその措置自体が努力義務になるとしても、努力義務の措置が適切に講じられ、かつ、その結果を適切に把握できるようにするためにも、上記記載の対応が講じられるべきである。

2  「3.商品の販売停止等」について
違法・危険商品の流通過程からの排除を通じて消費者の生命・身体への危害や財産権の侵害を防止し、もって安全・安心な取引環境を実現していくことは、消費者政策における最重要課題の一つである。
しかしながら、悪質な事業者を含む様々な売主がDPF上の取引に参加することが容易になる中で、消費者側から見ると、DPF提供者を信頼して、当該売主と取引をするという意識やその信頼性を確認する意識が希薄なままに消費者取引に入っている者も一定数存在している。したがって、違法・危険商品の流通については、DPF提供者に一定の法的義務を課すことで、その阻止を図るべきである。
その意味で、報告書が、違法・危険商品等の流通を防止すべくDPF提供者に出品の削除をさせる方向でのとりまとめを行ったことは一定評価できる。
  しかしながら、報告書は、内閣総理大臣がDPF提供者に対して違法・危険商品等の削除について、これを要請することができるというものにとどめ、違反した場合の罰則も見送っている。即ち、この点についても内閣総理大臣の要請後はDPF提供者の自主的な対応に委ねる内容となっているが、違法・危険商品の市場への流通は強制力を持って排除すべき性質の事柄であり、報告書の内容では不十分である。

3  「4.売主の身元に関する情報の開示の請求」について
(1)身元情報開示請求の必要性について
    BtoCのフリマサービスの取引において、買主からの相談内容は、半数以上(54%)が債務不履行の被害である(商品が届かない、模倣品が送られてきた、商品が壊れている、使用できない、品質に問題があるなど) 。なかには、充電中に発火・発煙した充電器やバッテリー、異物混入の食品、発煙したDVDドライブ、液漏れの電池、規格値を超える歯磨き粉、ガス噴出するキャンプ用ランタン等事故のおそれがある商品の流通も含まれている。こうした被害に遭った場合、買主は売主の名称、住所等の連絡先情報を入手することが不可欠であるところ、唯一、当該情報を保有するDPF提供者に対しては、現行法上、特別な情報開示請求の制度は存在しない。
    前記「消費者トラブルの分析(事務局資料)」中の調査によれば、債務不履行の被害に遭った買主のうち、売り主にキャンセルの申し入れをすることができた者は約28%しかおらず、72%はキャンセルを申し入れることすらできなかった又は申し入れなかったと報告されている。このように、DPFにおける消費者被害では、そもそも売主と連絡が取れない、または売主の連絡先が分からないといった、紛争解決の土台にすら上がれなかった消費者が数多くいることが明らかになっていることからすると、身元情報開示請求の新規立法を行うことは喫緊の課題である。また、現在、消費者庁から提案されている身元情報開示請求の考え方は、仮にDPF提供者が販売業者の身元情報を開示したとしても民事上の責任を免れるという制度設計であるから、DPF提供者にとっても不利益はない。
以上より、DPF提供者に関して、身元情報開示請求を新規立法することについて賛成する。
(2)売主が消費者である場合につき一律に対象外とすることについて
    CtoCのフリマサービスの取引は、2012年(平成24年)から、2018年度(平成30年)に至り約25倍に(173件→4491件)増加している。相談の約8割は買主からのものであり、うち81%の相談が債務不履行の被害(商品が届かない、模倣品が送られてきた、商品が壊れている、使用できない、品質に問題があるなど)である。さらに、CtoCのインターネットオークション取引でも同様の傾向があるとされている。また、CtoC取引においても、違法・危険な商品の販売が売主側の消費者によって行われ、身体被害等を受けるケースも存在することから、そうしたケースで買主側の被害回復の機会を確保することが強く要請される。このような現状からすると、CtoCの取引類型を一律に身元情報開示請求の対象外とすることについては、直ちに賛成することができない。
この点、報告書16頁では、DPF提供者は、売主が消費者である場合の売主の身元情報に関して、弁護士法23条の2に基づく弁護士会照会があった場合等に、匿名性の維持による売主側の消費者の保護と買主側の消費者の保護を比較考量した上で、開示の是非を判断していることが紹介されている。そのような対応の前提として、DPF提供者は、売主が消費者を装った事業者(いわゆる「隠れB」)であるか否かにつき、一定の判断の下で区別を行っていると考えられる。すなわち、現状においても、DPF提供者は、少なくとも消費者を装った隠れBであるかの判断を行い、一定の場合には身元情報を開示していることからすれば、消費者を装った隠れBの場合には開示請求を認めるという制度設計もあり得るものと考えられる。
この点、ヨーロッパ法協会のELIモデル準則(以下「モデル準則」という。)は、売主が自己を非事業者として申告したものの、その供給者が行う取引や、その供給者に関するレビューが大量であることから申告とは異なる結論が得られる場合には、DPF提供者は、供給者の属性について顧客に誤認が生じない適切な措置を講じなければならないものとされている(モデル準則14条のコメント参照)。こうした客観的な事情を手掛かりとして、DPF提供者が隠れBを判別することは可能であること、売主が事業者であるか否かにつき正確な情報把握が求められていることからすると、我が国においても隠れBに対して開示請求を認める制度設計とすべきである。
また、売主が純粋な消費者である場合であっても、違法・危険な商品の販売が売主側の消費者によって行われ、身体被害等を受けるケースにおいては、単なる債務不履行のケースとは異なり、買主の被害回復の必要性が強いと考えられることから、一定の要件のもとで身元情報開示請求を認めるべきと考える。
以 上



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