意見書

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律に対する意見書(2021年7月21日)


2021年(令和3年)7月21日

内閣総理大臣  菅      義  偉  殿
総務大臣      武  田  良  太  殿
経済産業大臣  梶  山  弘  志  殿
公正取引委員会委員長  古  谷  一  之  殿
内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  井  上  信  治  殿
消費者庁長官  伊  藤  明  子  殿
デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会
座長  依  田  高  典  殿
消費者契約に関する検討会座長  山  本  敬  三  殿

京都弁護士会                   

会長  大  脇  美  保  



取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律に

対する意見書



第1  意見の趣旨
取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(令和3年法律第32号)(以下「新法」という。)について、以下のとおり意見を述べる。

1  取引デジタルプラットフォーム提供者が行う取引デジタルプラットフォームにおける消費者被害の防止及び救済のため、少なくとも以下の事項を含む法整備等を行うことを求める。
(1) 新法5条1項の開示請求権について、将来的に、取引デジタルプラットフォーム提供者に対する制裁規定を設ける等、同条項の開示請求権の実効性が担保されるような制度を設けること。
(2) 取引デジタルプラットフォーム提供者は、当該取引デジタルプラットフォームを利用する消費者に対して、以下の①及び②の義務を負うとする規定を設けること。
①  取引デジタルプラットフォーム提供者が事前に販売業者等の所在に関する情報その他の本人特定事項を確認及び調査する義務。
②  取引デジタルプラットフォーム提供者が、上記①の義務を履行しなかったこと、又は消費者に提供した情報が事実と異なることによって、取引デジタルプラットフォーム上での取引により生じた当該消費者の生命、身体又は財産に対する被害の回復が困難となった場合には、当該消費者に対して販売業者等と連帯して損害を賠償する義務。
2  売主が消費者(非事業者である個人)であるCtoC取引の場を提供するデジタルプラットフォーム(以下「DPF」という。)の提供者を「取引デジタルプラットフォーム提供者」とし、新法の規制対象とすべきである。
3  新法5条1項の消費者による販売業者等情報の開示請求権の行使の実効性確保のため、下記の各措置を講ずること。
(1) 新法3条1項3号が定める取引デジタルプラットフォーム提供者の販売業者等への情報提供要求義務について、消費者庁が各取引デジタルプラットフォーム提供者の実施状況を恒常的にモニタリングして公表すること。
(2) 新法5条1項の開示請求の対象となる契約金額として内閣府令で定める額を、消費者被害の実態に照らし、必要十分な消費者が開示請求制度を利用できるよう、適切な額とすること。
(3) 新法5条3項の開示に関する販売業者等への意見聴取について、販売業者等が開示を拒絶した場合であっても、開示請求の要件を満たす以上、取引デジタルプラットフォーム提供者は開示に応じなければならないことをガイドライン等で明確化すること。

第2  意見の理由
1  意見の趣旨第1項について
(1) 新法5条1項の開示請求権について、将来的に、取引デジタルプラットフォーム提供者に対する制裁規定を設ける等、同条項の開示請求権の実効性が担保されるような制度を設けることについて(意見の趣旨1(1))
ア  「デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会(以下「DPF検討会」という。)」第2回資料、「消費者トラブルの分析(事務局資料)」によれば、CtoC取引において、債務不履行の被害を相談した買主のうち、72%が売り主にキャンセルを申し入れることすらできなかった又は申し入れなかったと報告されている。これは、現在のDPF上ではCたる消費者は基本的に匿名で取引を行うため、販売業者等が特商法11条の「販売業者」「役務提供事業者」に該当しない場合は販売業者等の氏名、住所等の個人情報が分からないことに加えて、相手方との連絡もDPF上でしか取り得ないため、販売業者等がDPFを離脱してしまうと連絡を取ることすらままならなくなってしまうからである。このような紛争解決の土台にすら上がれない消費者の救済は必要不可欠である。
イ  この点、新法5条1項にて、取引デジタルプラットフォーム提供者の販売業者等情報開示義務が定められたことは、上記のような紛争解決の土台にすら上がれなかった消費者の救済に資するものであり、消費者保護を前進させるものとして評価する。もっとも、将来的には、義務として定めるにとどまらず、取引デジタルプラットフォーム提供者が開示に応じない場合に制裁を科す等の開示請求権の実効性が確保される制度整備が不可欠である。
ウ  もっとも、取引デジタルプラットフォーム提供者からは、個人情報保護の観点から、新法5条1項の開示請求に対し、制裁規定を設ける等の制度設計をすることには否定的な意見が出ることも予想される。
この点、新法で開示請求ができるとされているのは、あくまで「消費者が当該取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売に係る販売業者等との間の売買契約又は役務提供契約に係る自己の債権を行使するために、販売業者等情報の確認が必要とする場合」(新法5条1項)に限られ、かつ、開示請求をする消費者は、開示を受けた販売業者等情報を不正の目的のために利用しないことを誓約する旨を記載した書面又は電磁的記録を提出し、又は提供する旨も規定されており(新法5条2項3号)、むやみな個人情報の流出等の危険は抑止されている。
むしろ、新法5条1項の開示義務を果たさなくとも何の制裁も科されないとすれば、多くの取引デジタルプラットフォーム提供者が「紛争には関与しない」「当事者間で解決するものとする」といった約款を定めている現状では、個人情報保護等を口実に開示に消極的になるおそれがある。そして、このような現状で、開示がなされなければ、消費者が相手方に対して責任追及する途はなく、被害を被った消費者は泣き寝入りするしかない。これは、自力救済を禁止し民事訴訟という法制度により被害救済されることを予定している日本の法制度の否定に他ならない。
(2) 取引デジタルプラットフォーム提供者が事前に販売業者等の本人特定事項を確認及び調査する義務について(意見の趣旨1(2)①)
ア  仮に紛争が顕在化した場合に相手方の情報が開示されたとしても、その情報が正しくなければ、まさに情報開示の制度は「絵に描いた餅」となる。
実際、モバイルバッテリーを取引デジタルプラットフォームにて購入したところ、当該モバイルバッテリーが出火し購入者の自宅が全焼してしまったという例があるが、この事例でも、表示されている情報が不正確ないし不十分であったために被害救済が困難になっている。また、直近では2020年(令和2年)4月に消費者庁が大手取引デジタルプラットフォームにおいて偽ブランド品を繰り返し販売していた13社の通信販売事業者に対して行政処分を行おうとしたところ、取引デジタルプラットフォームに記載されていた連絡先が虚偽で連絡がつかず、やむを得ず公示送達せざるを得なかった例もある。
このように、情報開示が認められてその情報を入手できたとしても、その情報が正しくなければ意味がない。
新法3条では、取引デジタルプラットフォーム提供者は、販売業者等に対し、必要に応じて、その所在に関する情報その他の販売業者等の特定に資する情報の提供を求める(3号)ように努めることとされているが、紛争が顕在化した時点での情報提供の求めに対しては、販売業者等が正しい情報を提供することはおよそ期待できない。したがって、取引デジタルプラットフォーム提供者に事前の調査を義務づけることが不可欠である。
イ  この点、取引デジタルプラットフォーム提供者が上記のような厳格な本人確認手続を要求すれば、当該取引デジタルプラットフォームへの参加自体が萎縮されてしまうとの意見もある。
しかし、そもそも、このような本人確認自体をためらうような参加者であれば、取引デジタルプラットフォームへの参加自体を許容するべきではない。
また、このような規制を取引デジタルプラットフォーム提供者の自主ルールで行うべきとの意見もあるかもしれないが、このような規制は、入口の審査を厳しくすればする程、同業他社を利することになるため、ルールの徹底が望めない。むしろ、立法によって等しく同様の規制を及ぼせば、同業他社が有利になることはないし、むしろ健全な取引デジタルプラットフォームの市場が構築され、消費者の信頼も獲得でき、安全、安心な取引を求める消費者の参加を促すことに繋がるのである。
(3) 取引デジタルプラットフォーム提供者が、上記①の義務を履行しなかったこと、又は消費者に提供した情報が事実と異なることによって、取引デジタルプラットフォーム上での取引により生じた当該消費者の生命、身体又は財産に対する被害の回復が困難となった場合には、当該消費者に対して販売業者等と連帯して損害を賠償する義務について(意見の趣旨1(2)②)
ア  上記意見の趣旨1(2)①及び②を適切に実施させるためには、取引デジタルプラットフォーム提供者にインセンティブを与える仕組みが必要である。
この点、取引デジタルプラットフォーム提供者が販売業者等と連帯責任を負うとすれば消費者保護に資するし、仮に取引デジタルプラットフォーム提供者が責任を負ったとしても、人的物的資源のある取引デジタルプラットフォーム提供者側にて消費者被害を起こした相手方を探知し求償していくことが可能である。なお、そのような負担まで取引デジタルプラットフォーム提供者に課すべきでないとの意見もあるかもしれないが、それであればなおさら消費者にそのような相手方への責任追及の負担を課すべきではないし、適切な調査等を行わなかった取引デジタルプラットフォーム提供者がその負担を被るべきであろう。
また、実体法的な考えからもこのような規制を取引デジタルプラットフォーム提供者に課す根拠がある。民事ルールには「ある危険を創出した者はその危険を負担するべき」という危険責任の考え方や「ある活動によって利益を得ている者は、それに伴って生ずる損害についても一定の責任を負うべき」という報償責任の考え方が存在する。取引デジタルプラットフォーム提供者は、まさに取引デジタルプラットフォームという一定の「危険」を伴う「場」を提供して「収益」を上げているのであるから、その「場」で生じた一定の危険はその危険をコントロールし得る取引デジタルプラットフォーム提供者が負担すべきである。
また、裁判例では、契約当事者以外の「場」の提供者というべき者に対して、法的責任を負う旨を示したものがある。例えば、カラオケ装置により、直接的に著作権侵害行為を自らが行っていない場合でも、事業者が管理主体であり(本事例では、スナック店)、直接の利益を得ている場合は著作権侵害に問われる場合があることを示したものがある(最判昭和63年3月15日最高裁判所民事判例集42巻3号199頁)。
同じくカラオケ装置の事例において、装置のリース業者は、カラオケ装置のリース契約を締結した場合において、当該装置が専ら音楽著作物を上映し又は演奏して公衆に直接見せ又は聞かせるために使用されるものであるときは、リース契約の相手方に対し、当該音楽著作物の著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結すべきことを告知するだけでなく、上記相手方が当該著作権者との間で著作物使用許諾契約を締結し又は申込みをしたことを確認した上でカラオケ装置を引き渡すべき条理上の注意義務を負うとしたものもある(最判平成13年3月2日最高裁判所民事判例集55巻2号185頁)。
さらに、著作権侵害の差止請求の事例で、放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて、サービスを提供する者が、その管理、支配下において、テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器に入力していて、当該機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合、その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても、当該サービスを提供する者はその複製の主体と解すべきであると示したものがある(最判平成23年1月20日最高裁判所民事判例集65巻1号399頁)。
インターネット・オークションサイトで商品代金の名目で金員を詐取された被害者が、サイト運営者であるⅮPF事業者に対し、システムの構築義務に反する瑕疵があるとして、債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償請求をした事例において、「インターネット・オークションサイト運営事業者の義務につき、「本件利用契約は本件サービスのシステム利用を当然の前提としていることから、本件利用契約における信義則上、被告は原告らを含む利用者に対して、欠陥のないシステムを構築して本件サービスを提供すべき義務を負っているというべきである」というシステム構築責任を論じ、一般論としてではあるが、契約当事者以外の場の提供者である事業者の責任を肯定したものがある(名古屋高判平成20年11月11日裁判所ウェブサイト)。
加えて、モール上の店舗が商標権侵害の商品を販売した際のモール提供事業者の不法行為責任が問題となった事例で、インターネットショッピングモール運営者に対し、商標権者(利用者ではない)が店舗による商標権侵害の責任を追及した事例において、「ウェブページの運営者は、商標権者等から商標法違反の指摘を受けたときは、…その侵害の有無を速やかに調査すべきであり、これを履行している限りは、…責任を負うことはないが、これを怠ったときは、…出店者と同様、これらの責任を負うものと解される」と判示し、一定の場合に、管理するサイト上の不法行為について、プラットフォーム提供者が責任を負う場合があることを認めている(東京地判平成22年8月31日判時2127号87頁、知財高判平成24年2月14日判時2161号86頁)。これらの裁判例も参考とすべきである。
さらに、海外での立法の状況も比較法的に参照する必要があるところ、韓国では電子商取引等における消費者保護に関する法律の20条の2第2項で通信販売仲介者は「情報又は情報を閲覧できる方法を提供せず、又は提供した情報が事実と異なることによって消費者に財産上の損害が発生した場合は、自ら消費者に被害が生じないよう相当の注意を払ったことを立証しない限り、『通信販売仲介依頼者』と連帯して賠償する責任を負う」とされているところである。
イ  この点、取引デジタルプラットフォーム提供者からはDPF検討会等において、度々自主規制で行うべきであるとの意見が出され、2020年(令和2年)8月24日には計4社の取引デジタルプラットフォーム提供者が「オンラインマーケットプレイス協議会」なる団体を設立して消費者にとってより安全・安心な取引環境を構築すると謳っている。
しかし、同協議会については、2020年(令和2年)8月24日に設立されてから現在に至るまで、必ずしも消費者被害の救済に十分な施策等を発表していない。
また、そもそも自主規制では全くもって十分でないことは、これまでの歴史が示している。例えば、現在導入されている金融ADRも、もとはといえば業界団体等による任意の取組みでは利用者の信頼感や納得感が得られず、実効性も不十分であったことを一因として導入されている。これは、「外部からの履行圧力を受けない真の『自主』規制はその実例がほとんどなく、国家や市場からの履行圧力の中で機能しているものがほとんど」と論評されていることを如実に示している事例であろう。
何より、自主規制では同業他社との比較での検討になってしまうため、消費者保護よりも利益を上げることを優先する取引デジタルプラットフォーム提供者が多く存在すれば、厳格な身元確認や情報提供等の消費者保護のための規制を行うインセンティブが、取引デジタルプラットフォーム提供者に働かないおそれがある。
実際、現在の自主規制の象徴となる約款をみても、「責任を一切負わない」「紛争には関与しない」「当事者間で解決するものとする」といった内容が散見され、このような姿勢で消費者被害を救済することなど不可能である。「自主規制で十分である」との声を上げるのであれば、まずはそのような約款の規定を変更してからであろう。
ウ  なお、取引デジタルプラットフォーム提供者の中には、実際の消費者被害には約款にとらわれず柔軟に対応しているとの声もある。しかし、問題なのは、約款自体が大量・複雑な規定で、かつ取引デジタルプラットフォーム提供者の責任を否定し、紛争に関与しないとの内容になっていること、そしてそのような約款の存在から被害回復を諦める消費者もいる点である。
実際にも、「さまざまな障壁により『何もしない』という選択をする消費者が一定の割合で存在する」と報告され、また日本においても内閣府消費者委員会が2018年(平成30年)に実施した「インターネットを利用した取引に関するアンケート調査」(オンラインプラットフォームにおける取引の在り方に関する専門調査会報告書、参考資料7頁)ではトラブルを経験した回答者のうち、「だれにも相談せずに放置した(あきらめた)」と回答した割合は15~26%にも及んでいる。よって、仮に約款どおりの対応ではないと言われたところで、実際には取引デジタルプラットフォーム提供者に声を上げることなく泣き寝入りしている消費者が存在している以上、対外的に公にならない自助努力の対応では不十分であり、目に見える形での立法が必要なのである。

2  意見の趣旨第2項について
新法は、その規制対象を画する「取引デジタルプラットフォーム」の定義に関し、消費者の取引相手を「販売業者等」に限定することで、CtoCのフリマサービスやインターネットオークション取引の場を提供するDPFを規制の対象から外している。新法に対する衆議院の附帯決議第1項では、「売主が消費者(非事業者である個人)であるCtoC取引の「場」となるDPFの提供者の役割について検討を行い、消費者の利益の保護の観点から、必要があると認めるときは、法改正を含め所要の措置を講ずる」と定められたが、以下の理由から、CtoCの取引の場を提供するDPFを新法の規制対象とすることは喫緊の課題である。
(1) 消費者被害の実態と救済手段確保の必要性
当会は、2020年(令和2年)10月22日、「デジタルプラットフォーム取引における消費者被害の抜本的な法整備を求める意見書」を提出し、同意見書の中で、DPFにおける消費者被害の実態を明らかにした。すなわち、DPFにおける消費者被害は、生命・身体・財産に係る被害という重大な結果に及んでいる一方で、CtoC型のDPFにおける取引は基本的に匿名で行われていることから、買主である消費者が売主である消費者を特定することさえできず、紛争解決の土台にすら上がれず、泣き寝入りを強いられているという現実がある。
例えば、CtoCのフリマサービスの場を提供する事業者の利用規約では、「本サービスに関連してユーザー間又はユーザーと第三者間で発生したトラブル(本サービスを将来利用するという前提の下で起こったトラブルを含みます。)に関して、ユーザーは各自の費用及び責任で解決するものとします。トラブルが生じた際には、当事者間で解決するものとし、当該トラブルにより弊社が損害を被った場合は、当事者は連帯して当該損害を賠償するものとします」、という趣旨のものがあり、当該事業者自身は何らの責任を負わない旨規定している。かかる規定は消費者契約法の観点から、その有効性に問題があると考えられるが、消費者自身は、利用規約の存在を突き付けられ、取引相手をそもそも特定できないという状況から、法的措置を講ずることさえできず、泣き寝入りせざるを得ない。DPF側は、このような規定を設けることで、自身が消費者間のトラブルに関与することをできる限り回避しようとしている意図すら窺われる。
このようなCtoC型のDPFにおける消費者被害の実態の改善を図るためには、CtoC型のDPFをも新法の規制の対象に加え、商品等提供者の本人特定事項の提供等の義務を負わせることが必要不可欠である。
(2) 「B」と「C」の区別が曖昧であること
新法では、「販売業者等」が取引の相手になるか否かによって、取引デジタルプラットフォーム提供者の範囲が画される。「販売業者等」は、「販売業者又は役務の提供の事業を営む者」と定義されているが、メルカリを例に挙げれば、メルカリは一般にCtoC型のDPFと考えられ、新法の規制対象ではないとされてはいるものの、メルカリを利用する出品者の中には、極めて多数の出品を行っている者もおり、外観上は消費者個人を装ってはいるものの、実際には、中古品の販売を業とする出品者が存在することは否定できない。言い換えれば、新法がBtoCかCtoCかという判断基準を用いているがゆえに、本来、新法の規制対象となるべきDPFが規制対象から漏れ、その結果として、多くの消費者被害につながる危険を孕んでいるのである。
したがって、BtoCかCtoCかという判断基準は用いられるべきではなく、そもそもCtoCの取引を取り込んだ法規制が必要である。
(3) 個人情報保護の観点
CtoC型のDPFにおいては匿名取引が基本となっており、その背景に両当事者の個人情報保護という視点があることから、売主の情報開示には否定的な意見もある。
しかし、「消費者が商品等提供者に対して損害賠償請求をする必要がある等、商品等提供者の本人特定事項の開示を求める正当な理由があると判断された場合」など、開示のための条件を定めれば、むやみな個人情報の流出等が起きるおそれは少ない。いわゆるプロバイダ責任制限法では、「自己の権利が侵害されたとする者」に限り、発信者情報の開示が可能とされており、被害者保護と被開示者の個人情報保護の調整が図られた上での開示請求権が認められていることも踏まえれば、DPFについても、同様の仕組みを設けることは十分可能である。したがって、個人情報保護はCtoC型のDPFを規制対象から外すことの理由にはならない。
(4) EUの状況
欧州委員会は、2020年(令和2年)12月15日に、SNS、オンラインマーケットプレイス及びデジタルサービスを対象とした新たな包括的なルールとして、デジタルサービス法案(以下「DSA」という。)及びデジタル市場法案(以下「DMA」という。)を公表した。DSA及びDMAにおける新たなルールは、オンライン上での消費者保護、プラットフォームビジネスにおける透明性の確保、プラットフォーム事業者の説明責任の確立等を通じて、公正かつ開かれたデジタル市場を目指すものである。これらの法案について、欧州委員会のベステアー委員は、オフラインで違法なものはオンラインでも違法であるとし、消費者が、安全な方法により取引できるようにすべきである旨のコメントを残している。このコメントから窺われるように、消費者は、オンラインでもオフライン同様の保護が受けられない理由はなく、同等の保護を保障するのが世界の潮流である。
卑近な例を挙げれば、消費者が、他の個人から中古品を購入すれば、通常、売主の情報も入手しており、問題が生じた場合には当該売主の責任追及が可能である。しかし、CtoC型のDPFを介した途端、それができなくなるのである。DPFを介したがゆえに、権利の侵害を受けた消費者がその権利の回復のための法的措置を講ずることができない事態は異常である。新法は、このような異常な事態を容認するものであり、国際的な潮流から遅れを取るものである。CtoC型のDPFのポジティブな面を発展させ、我が国の経済成長につなげるのであれば、DPFの規制を成功させることで、他国を先導すべきである。
(5) その他
2021年(令和3年)4月13日に開催された第204回国会消費者問題に関する特別委員会では、CtoC型のDPFが規制対象から除外された理由について、新法が「取引デジタルプラットフォーム提供者に対し、自らが提供する場で行われる通信販売取引において売主が適切に消費者保護のための責任を果たすよう、販売業者等と消費者との取引関係を支える者として一定の役割を果たすことを求めるもの」であるとした上で、「売主が非事業者である個人の場合、すなわちCツーC取引の場となる場合には、売主は消費者を保護する責任を課せられていない」ためであるとの答弁があった(坂田政府参考人)。
しかし、売主が非事業主である個人であるとしても(そもそもBとCの区別が曖昧であることは上記のとおりである。)、買主となる個人の権利を侵害等してはならないことは明らかであり、上記答弁は売主が個人であれば、買主に対する責任を負わなくてもよいとの誤解をも招きかねない。個人であるとしても、取引相手の権利の侵害等をしないという最低限のルールはあるのであり、新法が個人(あるいは隠れ事業主)による違法行為を助長するものであってはならない。仮に、個人である売主が消費者を保護する責任を課されていないのであれば、報償責任等の観点から、DPFが積極的に消費者保護のための一定の義務を負うべきであり、むしろCtoC型のDPFを規制対象とすべきであろう。CtoC型のDPFを規制対象とすべき多くの積極的な理由からすれば、上記の除外理由は薄弱といわざるを得ない。

3  意見の趣旨第3項について
新法5条1項で、消費者による取引デジタルプラットフォーム提供者に対する販売業者等情報の開示請求権が認められたことは、取引デジタルプラットフォームに関する紛争の解決に資するものとして評価できる。
しかし、新法5条1項による開示請求権の実効性の確保を図る上では、更に下記の各措置が講じられる必要がある。
(1) 消費者庁による実施状況の把握と公表について
開示請求の受け手となる取引デジタルプラットフォーム提供者は、適切な開示請求がなされればこれに応答しなければならないところ、開示の前提として、取引デジタルプラットフォーム提供者が、販売業者等の所在に関する情報その他の販売業者等の特定に資する情報を入手している必要がある。
ところが、新法3条1項3号は、取引デジタルプラットフォーム提供者による販売業者等に対する、所在に関する情報その他の販売業者の特定に資する情報提供要請を努力義務に留めており、法的義務とはしていない。かかる努力義務が取引デジタルプラットフォーム提供者によって誠実に履行されなければ、消費者が適切な開示請求を行ったにもかかわらず、販売業者の所在に関する情報やその他の特定に資する情報が取引デジタルプラットフォーム提供者の手元に存在しないことを理由に、開示がなされない事態が生ずることが想定され、消費者の開示請求権の実効性が阻害される。
そこで、各取引デジタルプラットフォーム提供者が努力義務をどれだけ履行しているかといった実施状況を消費者庁が恒常的に把握してこれを公表することで、取引デジタルプラットフォーム提供者による自主的な販売業者の所在等に関する情報入手を確実に行わせるべきである。
(2) 開示請求の対象となる契約金額について
新法5条1項は、「内閣府令で定める額」を超える場合に限り、開示請求ができる旨を定める。この金額要件について、2021年(令和3年)4月13日の衆議院消費者問題に関する特別委員会において、政府は、「消費者が開示請求を行った後に訴訟や任意交渉等の具体的な権利行使のための行動を取ることが合理的と思われる金額」を定めるものとし、「開示を受けて行われる販売業者等に対する訴訟や任意交渉等に消費者が要する費用、取引デジタルプラットフォーム提供者による事務処理の負担、取引デジタルプラットフォームを利用した取引における被害実態と取引金額の分布、他の消費者関連法令における金額設定の例」を踏まえ、バランスを考慮して定めるものと説明している(井上国務大臣答弁)。
消費者が、訴訟や任意交渉等の権利行使をとるための合理的な金額であることや、取引デジタルプラットフォーム提供者の事務処理負担を過度に強調すると、僅少な金額の取引において開示請求を認めない結果となるおそれがある。この点について、上記委員会での審議では、「通信販売の取引額は少額で、その少額な被害について、消費生活センターに多くの相談が寄せられている点に配慮すべきだと思うんですね。とても裁判にはできないという方たちの相談なんです。」との指摘もある(畑野委員質問)。
新法5条1項の開示請求権を認めた趣旨は、DPFを利用した取引により被害に遭った消費者が、その被害を回復するために、取引の相手方を確知する点にあると考えられる。DPFにおける取引では、取引額が僅少なものが多く存在するところ、そうした取引こそ被害回復が困難であるから、権利行使のための消費者の負担を減らすために、取引デジタルプラットフォーム提供者に対するよる開示請求が一層必要である。
そこで、上記金額を定めるに当たっては、消費者被害の実態に照らし、必要十分な消費者が開示請求制度を利用できるよう、適切な額とすべきである。
(3) 意見聴取の際のルールの明確化について
新法5条3項は、消費者による取引デジタルプラットフォーム提供者に対する販売業者等情報の開示請求が行われた際に、取引デジタルプラットフォーム提供者に原則的に販売業者に開示に関する意見聴取義務を課している。
特定商取引法で通信販売業者には連絡先等の表示義務が課せられており、上記の意見聴取義務の必要性にはそもそも疑問があるところ、仮に販売業者の開示拒否の意見を考慮して取引デジタルプラットフォーム提供者からの開示がなされないような事態になれば、消費者の開示請求権の実効性が阻害される。
そこで、上記の意見聴取手続が行われ販売業者が開示拒否の意見を述べたとしても、開示請求の要件を充足している以上、取引デジタルプラットフォーム提供者は開示に応じなければならないことを、ガイドラインや逐条解説等によって明記すべきである。

以 上



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