低賃金労働者の生活を支え、コロナ禍の地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと実効的な中小企業支援を求める会長声明(2021年7月21日)


1  政府は、2015年(平成27年)11月、最低賃金を毎年3.0%程度引上げる方針を示し、これに沿って、漸次最低賃金は引き上げられてきた。しかしながら、昨年、新型コロナウイルスの感染拡大により、経営基盤が脆弱な多くの中小企業が倒産、廃業に追い込まれる懸念が広がる中、最低賃金の引上げが企業経営に与える影響を重視して引上げを抑制すべきという議論が多数を占め、中央最低賃金審議会は、2020年度(令和2年度)の地域別最低賃金額の引上げ額について目安額の提示を見送った。これを受けて、京都地方最低賃金審議会は最低賃金額を変更しなかったため、京都府の最低賃金額は2019年(令和元年)10月以降、時間額909円のまま据え置かれている。
しかし、労働者の生活を守り、新型コロナウイルス感染症に向き合いながら経済を活性化させるためにも、最低賃金額の引上げを後退させてはならない。
時給909円では、フルタイム(週40時間、年52週)で働いても、年間所得約189万円、月換算にすれば約15万7000円にすぎない。他方、2019年(令和元年)5月の静岡県立大学中澤秀一准教授監修による調査結果によれば、京都市北区在住の25歳・単身者をモデルとした月間の最低生活費は、男性24万5785円、女性24万2735円であり、生活に必要な賃金は、時給換算で各1639円、1618円となる。この調査結果をみても、京都府下の労働者の生活水準を上げるために、最低賃金の引上げが必要であることがわかる。
国際的に見ても、低賃金層の生活水準の低下を防止するために、フランスでは、2021年(令和3年)1月に10.15ユーロ(約1320円)から10.25ユーロ(約1333円)に引き上げられた。ドイツでは、2021年(令和3年)1月に、9.35ユーロ(約1215円)から9.50ユーロ(約1235円)へ引き上げられ、さらに同年7月から9.60ユーロ(約1248円)へ、2022年(令和4年)1月に9.82ユーロ(約1277円)へ、同年7月に10.45ユーロ(約1359円)へ引上げとなることが決定された。イギリスでも、2021年(令和3年)4月から成人(25歳以上)の最低賃金が8.72ポンド(約1325円)から8.91ポンド(約1354円)に引き上げられた。このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の引上げが実現している。
また、本年7月16日、第61回中央最低賃金審議会は、最低賃金の引上げ額の目安について、すべての都道府県において28円とする答申を行った。しかし、28円では上記の最低生活費にはまだ遠く及ばない。京都府においても、大幅な引上げが必要である。

2  最低賃金の地域間格差が依然として大きく、ますます拡大していることも、見過ごすことのできない重大な問題である。地域間格差の縮小は喫緊の課題である。全国一律最低賃金の導入を含む格差解消政策が検討されるべきであり、京都地方最低賃金審議会としても、最低賃金の地域間格差の問題を念頭に置いた最低賃金額の大幅な引上げを主体的に図るべきである。

3  今般、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、中小企業を中心として大きな負担が生じている。最低賃金の引上げの際には、これと合わせて企業に対する助成がなされなければならない。特に経営基盤が脆弱な中小企業の倒産、廃業を回避する対策が必要である。
最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」 制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、中小企業にとって必ずしも使い勝手の良いものとはなっておらず、利用件数はごく少数である。京都府の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要である。具体的には、諸外国で採用されている社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策が有効であると考えられる。
政府は、いわゆる骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針2021)において賃上げを通じた経済の底上げを図ることを成長のための原動力の一つとして位置付け、生産性向上等に取り組む中小企業への支援強化、下請取引の適正化、金融支援等に一層取り組むとしている。
こうした政府の取組も視野に入れながら、労働者の生活の安定を守るという観点から、京都地方最低賃金審議会には、果断さが求められる。

4  コロナ禍で地域経済が停滞している状況ではあるが、最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。当会は、国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、各地の地方最低賃金審議会において最低賃金額の引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活(憲法第25条)を確保し、地域経済の健全な発展を促すためにも、京都地方最低賃金審議会が、本年度、最低賃金の大幅な引上げを答申することを求めるものである。

2021年(令和3年)7月21日

京都弁護士会

会長  大  脇  美  保


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