デジタル改革関連法の成立に抗議するとともに慎重な運用を求める会長声明(2021年7月21日)(本イベントは終了しました。)


  デジタル改革関連法は、デジタルの活用を推進するための法整備として、2021年(令和3年)5月12日、参議院で可決され成立した6つの法律の総称である。
  デジタル改革関連法には、膨大な数の現行法改定が含まれており、重要な観点からの問題点が指摘され慎重な審議が求められていた。しかし、2021年(令和3年)2月9日に閣議決定され、予算関連法案と並行して審議され、同年5月12日に参議院で可決され成立しており、このような短期間に十分に慎重な審議が尽くされたとは言い難く、また以下の問題が存在する。
1  個人情報の保護・プライバシーの権利の観点からの問題
    プライバシーの権利は、個人を尊重し幸福追求権を保障する上で必要不可欠なものとして憲法13条により保障されており、個人情報が公権力により不当に侵害されないようにすることは憲法上の要請である。
    日本弁護士連合会2017年10月6日決議においても、「人は監視されていると感じると、自らの価値観や信念に基づいて自律的に判断し、自由に行動して情報を収集し、表現することが困難になる。すなわち、プライバシー権及び知る権利は、個人の尊重にとって不可欠な私的領域における人格的自律を実現するとともに、表現の自由の不可欠な前提条件となっており、立憲民主主義の維持・発展にも寄与する極めて重要な人権である。したがって、大量の情報が集積される超監視社会とも呼ぶべき現代にあって、個人が尊重されるためには、公権力により監視対象とされる個人の私的情報は必要最小限度とし、公権力が私的情報を収集、検索、分析、利用するための法的権限と行使方法等を定めた法制度を構築すべきである」と述べられているところである。
    現代社会においては、インターネット、監視カメラ、GPS装置など、大量の情報を集積する技術が飛躍的に進歩し、マイナンバー(共通番号)制度も創設され、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律により、いわゆる共謀罪が創設されて公権力による市民に対する監視が強められているという背景の下、個人情報の保護を図る必要性は高まっているといえる。
    ところが、デジタル改革関連法には、流通するデータの多様化・大容量化の進展に伴うデータの活用を促進する一方で、プライバシー権(自己情報をコントロールする権利)が明記されておらず、情報の主体である個人の権利・利益への配慮が十分になされているとは言い難い。この点について、欧州連合基本権憲章第8条第1項には、「何人も自己に関する個人データ保護に対する権利を有する」と明記され、個人の権利を明確にすることにより、その保護の強化が図られているが、我が国にはこのような明確な定めは今のところ存在しない。
    また、デジタル庁設置法に基づき、内閣総理大臣を長とするデジタル庁が新設され、国の諸機関や地方自治体からの個人情報がデジタル庁に集積されることとなったが、個人の同意なく、公権力や企業に個人情報が提供され、目的外使用されるおそれがある。デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律に基づき、国、地方公共団体、独立行政法人等及び民間事業者の個人情報保護について、個人情報保護委員会が一元的に所管するが(改正個人情報保護法第127条等)、同委員会は、政府から完全に独立した機関ではないため、個人情報の不正利用の歯止めとしては不十分である。
    こうした観点から、衆議院及び参議院において、複数の附帯決議が付され、目的外利用や第三者への個人情報の提供については厳格に要件を定めるべきであること、個人情報の利用状況を確認できる仕組みの検討が必要であること等が要請されている。
2  地方自治の観点からの問題
    個人情報保護の分野においては、地方公共団体が国に先駆けて条例を制定してきた歴史があり、これを尊重して国と地方公共団体の分権的な個人情報保護システムが構築されてきた。
    しかし、デジタル改革関連法の制定により、従来、地方公共団体が個別に管理してきた情報が、原則として一律のルールのもと国により一括管理されることとなり、これまで地域ごとに構築されてきた個人情報保護の在り方が抜本的に変わることとなった。これにより、地方公共団体が、地域の実情を踏まえ、地域住民の民意を受けて、独自の条例を制定することができにくくなることが懸念されている。
    そのため、「地方公共団体が、その地域の特性に照らし必要な事項について、その機関又はその設立に係る地方独立行政法人が保有する個人情報の適正な取扱いに関して条例を制定することができる旨を、地方公共団体に確実に周知するとともに、地方公共団体が条例を制定する場合には、地方自治の本旨に基づき、最大限尊重すること。」(参議院)等の附帯決議が付されているところである。
3  結論
    デジタル改革関連法は、上記問題点が指摘されていたにもかかわらず、十分に慎重な国会審議が尽くされることなく、問題点が解消されることのないまま成立したものであることから、当会は、同法の成立に抗議するとともに、プライバシー権や個人情報の保護、地方自治の本旨に十分配慮した運用がなされることを求めるものである。

    2021年(令和3年)7月21日

京都弁護士会

会長  大  脇  美  保
      


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