最高裁判所大法廷決定を受けて、改めて選択的夫婦別姓(別氏)制度の導入を求める会長声明(2021年7月21日)


最高裁判所大法廷決定を受けて、改めて選択的夫婦別姓(別氏)制度の

導入を求める会長声明



1  2021年(令和3年)6月23日、最高裁判所大法廷は、夫婦同氏制は合憲とした2015年(平成27年)12月16日の最高裁判所大法廷判決(以下「2015年(平成27年)大法廷判決」という。)の判断を変更すべきものとは認められないとして、夫婦同氏を強制する民法第750条、戸籍法第74条第1項は、憲法第24条に違反するものではないと判断した(以下「本件大法廷決定」という。)。
本件は、夫婦別姓記載の婚姻届の受理を命ずることを申し立てた審判事件の特別抗告事件である。抗告人らが問題としたのは、婚姻届に夫婦の称する氏の記載をすることが、婚姻に対する法律上の直接の制約であり、夫婦同氏制がおよそ例外を許さないことが婚姻の自由の制約との関係で正当化できるか否かという合理性を問うものであったが、本件大法廷決定は、2015年(平成27年)大法廷判決と同様、夫婦同氏制は国会で論ぜられ、判断されるべき事柄にほかならないとして、再び合憲の判断をした。
2  四半世紀前である1996年(平成8年)、法制審議会は、選択的夫婦別姓制度を導入することを答申した。2010年(平成22年)には、政府は、選択的夫婦別姓制度を導入する民法改正案を通常国会に提出することを明言した。
1985年(昭和60年)、日本は、女性差別撤廃条約を批准し、国連女性差別撤廃委員会から、2003年(平成15年)、2009年(平成21年)に民法第750条は「差別的規定」であるとして是正勧告を受けた。
このような情勢にもかかわらず、2015年(平成27年)大法廷判決は、民法第750条を合憲と判断したのであった。
3  2015年(平成27年)大法廷判決では、氏が家族としての呼称としての意義を有すること、旧姓使用の拡大を、夫婦同氏制に対する合理性の理由として挙げた。
しかしながら、本件大法廷決定の反対意見は、氏が家族としての呼称であるという考え方は「家」制度を前提にしているが、現行憲法はそもそも「家」制度を前提としていないことを指摘するとともに、家族は多様化し、氏の異なる者たちで生活する形態も多々存在し、氏が家族の呼称としての意義を有するという説明では、氏名に関する人格権を否定することはできないとしている。また、旧姓の通称使用は、婚姻によって氏を変更した当事者が有する不利益を一部解消するものにすぎず、旧制の通称使用が拡大しても公的な証明を必要とする場合は現在も残るとされた。さらに、旧姓の通称使用の結果、社会的には氏を異にする外観を有する夫婦が増えて、外観上は事実婚の夫婦との差異がなくなるため、夫婦同氏によって決定された氏(戸籍上の氏)によって、夫婦、家族であることの公示がなされないとも指摘している。
以上のとおり、2015年(平成27年)大法廷判決が夫婦同氏制の合理性の根拠とした、夫婦や家族であることの公示が氏によって対外的になされるという説明は成り立たない。もはや、夫婦同氏を強制する立法事実は存在しないのである。
なお、職務上の氏名の使用として通称使用が認められている弁護士業務においても、いまだ職務上の氏名で口座を開設できない金融機関があり、弁護士法人登記において社員が職務上の氏名のみでは登記ができず、戸籍上の氏名を公示することになるなどの実質的な問題が生じている。
4  2016年(平成28年)、日本は、国連男女差別撤廃委員会から民法第750条について三度目の是正勧告を受けている。本件大法廷決定自体も、2015年(平成27年)大法廷判決以降、女性の有業率、管理職割合の上昇、選択的夫婦別姓導入に賛成する割合の増加その他の国民の意識の変化等に言及している。このような社会的情勢に鑑みれば、国会が、立法府としての役割を果たし、選択的夫婦別姓制度を導入すべきところ、その役割が一切果たされていない。最高裁判所は、同判決を変更して、違憲の判示をなし、憲法の番人として、人権最後の砦としての役割を果たすべきであった。
5  本件大法廷決定では、4名の裁判官が、婚姻の際に夫婦別姓を選択できないことを、婚姻の自由に対する侵害であるとして、民法第750条が憲法第24条違反と判断した。さらに合憲の判断をした判事の中でさえも、3名が補足意見において、「この種の法制度の合理性に関わる事情の変化いかんによっては、本件各規定が上記立法裁量の範囲を超えて憲法24条に違反すると評価されるに至ることもあり得る」と述べている。
6  当会は民法第750条の違憲性につき、2010年(平成22年)2月16日、2013年(平成25年)10月17日、2015年(平成27年)12月24日、会長声明を発表し、民法第750条の改正を求め、選択的夫婦別姓制度の導入を訴えてきた。
7  本件大法廷決定を受け、当会は、改めて内閣及び国会に対し、選択的夫婦別姓制度導入のために、民法第750条を改正ないし廃止する法案を早期に上程し、速やかに可決成立させることを強く求める。

    2021年(令和3年)7月21日

京都弁護士会                  

会長  大  脇  美  保
      


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