京都府において犯罪被害者等支援を目的とした条例の制定を求める会長声明


1  基本法・基本計画が犯罪被害者等支援を目的とした条例を求めている。
    犯罪被害者等基本法(以下「基本法」という。)は、「犯罪被害者等のための施策は、犯罪被害者等が、被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、必要な支援等を途切れることなく受けることができるよう、講ぜられるものとする」(3条3項)との基本理念を示し、地方公共団体に対し、「犯罪被害者等の支援等に関し、国との適切な役割分担を踏まえ、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」(5条)と規定している。
  基本法8条に基づいて本年3月に閣議決定された「第4次犯罪被害者等基本計画」(以下「基本計画」という。)は、重点課題として、「1 損害回復・経済的支援等への取組」、「2 精神的・身体的被害の回復・防止への取組」、「3 刑事手続きへの関与拡大への取組」、「4 支援等のための体制整備への取組」、「5 国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」を掲げている。
    そして、重点課題4では、①必要な時に必要な場所で情報入手や相談ができ、きめ細やかで専門的な支援を受けられる体制や、②医療・福祉、住宅、雇用等生活全般にわたる支援を被害直後から中長期的に受けられる体制を整備するため、国・地方公共団体を含む様々な関係団体が、被害直後から協働して、重畳的な支援を行える体制の構築を求めている。
    この体制構築に当たり、基本計画では、警察庁に対し、地方公共団体における犯罪被害者等の視点に立った総合的かつ計画的な犯罪被害者等支援に資するよう、犯罪被害者等支援を目的とした条例(以下「被害者特化条例」という。)の制定又は計画・指針の策定状況について、適切に情報提供を行うとともに、地方公共団体における条例の制定等に向けた検討、条例の施行状況の検証及び評価等に資する協力を行うことを求めており、基本計画が、「被害者特化条例」の制定を目指していることは明らかである。
2  全国の「被害者特化条例」の制定状況と京都府の現状は乖離している。
    そこで、各都道府県の「被害者特化条例」の制定状況をみると、2021年(令和3年)5月1日現在、東京都、大阪府を含む32の都道府県が、既に「被害者特化条例」を制定済みである。また、県下の市町村の多くが「被害者特化条例」を持つ滋賀県や岐阜県も、県の「被害者特化条例」を有している。制定する県が、特にここ数年で急速に増え、未だ制定していない県でも、制定作業が進んでいる。
    ところが、京都府は、基本法とほぼ同時期に、「京都府犯罪のない安心・安全なまちづくり条例」を制定し、15条に府が犯罪被害者等に対する支援を行うよう努める旨の努力義務を定めて、全国に先駆けて犯罪被害者支援を開始したものの、未だ、同条例の同条項を一つ置くのみで、「被害者特化条例」を制定していない。
    また、京都府下の全市町村は、全国に先駆けて「被害者特化条例」を制定したが、新たに策定された先進的な条例に比べると、支援内容が不十分な条例も多く、さらに、府下の市町村ごとに支援の規模や内容が区々である。
    犯罪被害者支援施策における都道府県の役割は、支援の最前線に立つ市町村と国をつなぎ、総合的かつ計画的な支援が行えるように調整することであるが、京都府が「被害者特化条例」を持たないため、府下の市町村の間で被害者支援施策に格差が生じているだけでなく、内容的にも他の先進的な「被害者特化条例」を持つ都道府県と同様の支援が受けられない状態にある。
    近年制定された他の都道府県の「被害者特化条例」は、基本法や基本計画が掲げる犯罪被害者支援に必要とされる様々な条項を取り入れている。例えば、犯罪被害者への経済的支援、家事サービスの提供、精神医療費用や法律相談料の助成などである。さらに、神奈川県の「被害者特化条例」は、犯罪被害者サポートステーションを開設してワンストップの支援を行うだけでなく、死傷者多数の重大事案が発生した場合の緊急支援についても規定している。また、岐阜県の「被害者特化条例」は、市町村を超える広域的な支援が必要な事案への対応を規定している。
3  今こそ、京都府が先進的な「被害者特化条例」を制定すべき時である。
    折しも、2019年(令和元年)、京都府下において、世間の耳目を集める被害者多数の放火殺人事件が発生し、全国各地に居住されている被害者やご遺族への、京都府の被害者支援の真価が問われるときである。この事件を通して、京都府民も、重大事件発生時の犯罪被害者への緊急支援や広域的な支援の必要性を広く深く認識するに至っている。したがって、今こそ、京都府が、他の都道府県の先進的な条例を参照して、十分な内容の「被害者特化条例」を策定すべき時である。そして、京都府の「被害者特化条例」の下、京都府が府下市町村を先導して、京都の被害者支援を、再び府民が全国に誇れる最先端のものとしなければならない。
4  当会は京都府に先進的な「被害者特化条例」の早期制定を要望する。
    日本弁護士連合会は、基本法制定前年、「犯罪被害者の権利の確立とその総合的支援を求める決議」を採択し、被害者支援に取り組んできたところであるが、さらに2017年(平成29年)、人権擁護大会において、「犯罪被害者の誰もが等しく充実した支援を受けられる社会の実現を目指す決議」を採択し、「全ての地方公共団体において、地域の状況に応じた犯罪被害者支援施策を実施するための、犯罪被害者支援条例を制定すること」を掲げた。
    よって、当会は、京都府に対し、先進的な「被害者特化条例」を早急に制定し、犯罪被害者等の支援をより充実させ、それによって府民が安心して暮らせる地域社会の実現を図るよう求めるものである。

2021年(令和3年)7月21日

京都弁護士会    
会長 大  脇  美  保
    

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