意見書

「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」の施行についての意見書(2021年8月26日)


2021年(令和3年)8月26日


内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  井上  信治  殿
消費者庁長官                              伊藤  明子  殿
消費者委員会委員長                        山本  隆司  殿
特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会座長                  河上  正二  殿
特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会ワーキングチーム主査  鹿野菜穂子  殿



京都弁護士会              

会長  大  脇  美  保




「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」の施行についての意見書




第1  意見の趣旨
  1  消費者庁は、契約書面等の電磁的方法による提供に係る政省令の制定においては、消費者の承諾の取得方法を紙の書面に限定するなど、契約書面等の電磁的方法による提供を認めることによる消費者被害が拡大しないよう実効的な方法を定めるべきである。
  2  上記方法の検討にあたる専門的な検討会においては、消費者庁の設置目的である消費者保護の見地から、検討を行うべきである。

第2  意見の理由
1  はじめに
  (1)2021年(令和3年)6月9日、衆議院で一部修正された「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が、消費者の承諾のもと契約書面等の電磁的交付を容認する点について、野党及び100を超える消費者団体や弁護士会等の団体から反対を受けながらも、参議院で可決され成立し、公布の日から起算して2年を超えない範囲内において、政令で定める日から施行されることになった。そして、消費者の承諾の取得方法や電子データの提供方法については、今後政省令の中で定めることとされた。
  (2)当会は、現時点でも契約書面等の電磁的交付(以下「書面の電子化」という。)には反対である。これを認めるならば、不招請勧誘の禁止など消費者被害の発生を防止する抜本的な規定を設けることが強く求められる。
もっとも、法律が成立した以上、当会は、書面の電子化を契機とした消費者被害の発生を防止すべく、消費者の承諾の取得方法及び電子データの提供方法について、以下のとおり意見を述べる。

2  意見の趣旨1について
  (1)まず、消費者の承諾の取得方法や電子データの提供方法の検討にあたっては、特商法が規制する取引類型は、悪質商法が跋扈し、「真意に基づく承諾」というものが考えがたいものである、ということを出発点にしなければならない。
そして、書面の電子化が、書面交付の勧誘時の説明や広告と実際の契約条件の齟齬に気付かせる警告機能やクーリング・オフ告知機能といった法的な意義を失わせ、第三者による見守り機能といった事実上の機能を減退し得るものであることを踏まえて、これらの意義・機能が担保される方策がとられなければならない。
  (2)この点、消費者庁は、消費者の承諾の取得方法及び電子データの提供方法について、概要以下のような答弁を行っている 。
・口頭や電話での承諾は認めず、当面、オンラインで完結する取引については電子メールで、それ以外の取引については紙で承諾を取得した上でその控えを交付することが考えられる。また、オンラインで完結する取引についても、消費者被害を発生させる蓋然性の高い取引については、紙で承諾を取得させることが考えられる。
・消費者から明示的に承諾に関して返答や返信を事業者にしなければ、承諾があったとはみなさず、ウェブページ上やタブレットでチェックを入れるだけでは、承諾があったと認めないことが考えられる。
・消費者から承諾を得る際には、電子メールで提供されるものが、契約内容を記した重要なものであることや、電子メールなどで契約書面等を受け取った時点が、クーリング・オフの起算点となることを明示的に示させることが考えられる。
・契約の相手方が高齢者である場合には、家族等第三者にも電子メールを送る等の方法により承諾に関与させることが考えられる。
・紙の書面と同様、一覧性が保持されなければならない。電子メール等でPDFファイルを交付することが考えられる。
・契約の相手方が一定の年齢以上の場合には、販売業者等には、契約の相手方に電子メール等で契約書面等を送付する際に、併せて家族等の契約の相手方以外の第三者のメールアドレスにも、契約書面等の電子データを送付させることが考えられる。第三者にはヘルパーなど、日常的に関わりのある者も含まれる。
  (3)以上のような内容は、検討の方向性としては賛成できるものである。そこで、実際の政省令の制定においてもこの方向性を維持しつつ、更に踏み込んだ規定とすべきである。
  ア  消費者の承諾の取得方法について
  (ア)  事業者から書面の電子化に誘導したり、これを推奨したりしてはならないこと
悪質業者においては、不当な契約内容であることやクーリング・オフの存在を隠すため、電子データはかさばらない、失くさない、いつでもどこでも契約の内容を確認できる、第三者の確認も容易などと甘言を弄して、書面の電子化を推奨したり、これに誘導したりすることが懸念される。
このような誘導や推奨がなされれば、消費者は利害得喪を深く検討せず、安易に書面の電子化に応じてしまうおそれがある。
そこで、事業者による書面の電子化の推奨や誘導を禁止し、事業者はあくまで書面の電子化が可能である旨の情報提供ができるのみとすべきである。
  (イ)  消費者の承諾の取得方法は紙の書面によることを原則とし、承諾の書面の控えを交付すること、紙の書面による承諾を不要とできるのは、特定継続的役務提供取引のうち契約の勧誘・締結から役務・サービスの提供まですべてをオンライン上で行う取引(以下「オンライン完結型取引」という。)に限ること。ただし、この場合、承諾の取得方法は、電子メール等で、消費者の側から積極的に承諾をする方法に限ること
    ①  今後は承諾の有無で争いが増えることが必至であるため、消費者が承諾をしたことを明確に確認できる必要がある。また、書面の電子化は、第三者による見守り機能を低下させる点に問題があるところ、紙の書面で承諾を取得し、その控えが交付されれば、第三者が承諾の存在を認識できるようになり、当該第三者が契約の存在までも了知することができる。
したがって、承諾の取得方法は紙の書面で取得することを原則とし、かつ、承諾を取得した場合には控えを交付することとすべきである。
    ②  オンライン完結型取引の場合、紙の書面を不要とする必要性があることは理解できる。しかし、オンライン完結型取引が想定される取引類型のうち、連鎖販売取引や業務提供誘引販売取引は、もともと多くの消費者被害を発生させてきた取引類型であり、書面の電子化による弊害は大きいと思われる。
したがって、紙の書面での承諾を不要とすることができるのは、オンライン完結型取引であっても、具体的な要望のあった特定継続的役務提供取引に限定すべきであり、連鎖販売取引や業務提供誘引販売取引については、なお紙の書面により承諾を取得すべきこととすべきである。
    ③  紙の書面による承諾を不要とする場合でも、消費者がインターネット上でチェック欄にチェックする方法を認めると、言われるがまま操作をして、明確に認識しないまま書面の電子化に承諾をしてしまうという事態が起こり得る。
    よって、このような事態を避けるため、紙の書面による承諾を不要とする場合の承諾の取得方法は、消費者が電子メールを送信する方法等、消費者が積極的かつ明確に承諾を認識できる態様に限定すべきである。
  (ウ)消費者の承諾を取得する際には、交付される電子データの意義、記載内容、クーリング・オフの起算点等についての事業者の説明義務を定めること。また、承諾に関する書面には、説明を受けたことを明示的に示すこと
  消費者は、交付される電子データの重要性を認識しないまま安易に書面の電子化に承諾をしてしまうおそれがある。そこで、事業者は提供した電子データの意義やその記載内容等について説明するとともに、クーリング・オフの起算点になること等を説明し、実質的な承諾を確保すべきである。
また、消費者にも説明義務について認識させ、事業者が自ら説明をしない場合には、消費者から説明を促せるようにすべく、消費者からの承諾の書面ないし電子メール等には説明を受けたことを示すべきである。
  (エ)書面の電子化について、家族その他の第三者の承諾も必要とすることの意思表示があった場合には、その者からも承諾を取得すること
書面の電子化の問題点の一つに第三者による見守り機能が低下する点があげられ、この点に消費生活相談員等から多くの懸念が寄せられている。
そこで、家族その他の第三者から予めその者の承諾も必要とする意思表示があった場合には、当該第三者からも承諾を得なければならないこととすべきである。
  (オ)以上に違反した場合には、有効な承諾がなかったものと扱うことを明記すること
民事上の効果も併せて明記することで、事業者に規定を遵守させることが必要である。
  イ  電子データの提供方法について
  (ア)  消費者が現に利用しているメールアドレスに、PDFファイル等一覧性を保持できる形で電子データを電子メールにより送信する方法に限ること    
    ①  まず、クーリング・オフの起算点を明確化し、事業者側で契約書の内容が改ざんされることを防ぐため、URLやQRコードを交付し、消費者がアクセスするといった方法による電子データの提供方法は認めるべきでない。また、書面の電子化により契約書面等が一覧性を失うようなことがあってはならない。
そこで、電子データの提供方法は、内容の改ざんができないPDFファイル等を、一覧性が保持される形で提供する方法に限定すべきである。
    ②  SNSの発展により、電子メールの重要性が低下している昨今、消費者が電子メールを利用していないことがありうる。このような場合に、新たにメールアドレスを取得させ、そこに電子データを送ることをも許容すれば、電子データの提供に気づかない、電子メールを送ったメールアドレスがわからない、メールアドレスはわかるが、パスワード等を忘却したため、電子データを確認できないなどといったことが起こり得る。
そこで、事業者は、消費者が現に利用しているメールアドレスにのみ電子データを提供することができるものとし、そのようなメールアドレスが存在しない場合には、書面の電子化自体を認めるべきでない。
  (イ)  電子データは、契約締結後、直ちに提供すること
紙の書面であれば、消費者は書面が交付されたことを明確に認識できるが、電子データの場合は、物理的な存在がなく、受領行為を必要としないから、提供されたことを明確に認識しづらい。そのため、消費者が電子データの存在に気づいたときには、クーリング・オフ期間がすでに徒過していたということもありうる。悪質業者であれば、このような事態を積極的に狙って、あえて提供時期を遅らせたり、夜中など消費者が電子メールを確認しづらい時間帯に提供したりするということも考えられる。
電子データの提供には、書面の郵送に要する期間が要らず、書面の作成に要する期間も短いと考えられることから、その提供時期は、契約締結後「直ちに」と定めるべきである。
  (ウ)  消費者に電子メールにより電子データの提供をした際には、消費者に当該電子メールに返信させるなどして、事業者は消費者が電子データを受領したことを確認すること
      消費者が電子データの提供を受けたことを確認できない場合には、実質的には電子データの提供があったものとはいえない。事業者から電子メールが迷惑メールと認識されて、通常の受信フォルダとは別のフォルダに送られ、消費者がこれに気づかないということも考えられる。このような場合に、消費者に、クーリング・オフ期間を徒過した責任を負わせることはできない。
      そこで、事業者は、消費者から、電子データを提供した電子メールに対して返信をする方法等により、電子データを受領したことの確認を得るべきである。
  (エ)  第三者の承諾を得た場合、当該第三者にも電子データを送付すること
第三者が契約当事者のメールを確認することは、プライバシーの問題や、電子メールが膨大であれば、該当の電子メールを見つけるのも容易ではない。
よって、承諾をした第三者がすぐに契約内容を確認できるよう、当該第三者にも電子データを送付すべきである。
  (オ)  以上に違反した場合には、書面交付がなかったものと扱うことを明記すること
民事上の効果も併せて明記することで、事業者に規定を遵守させることが必要である。

3  意見の趣旨2について
(1)「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」の中に、書面の電子化が盛り込まれるに至った経緯に問題があることは、多くの意見書で指摘されているとおりであり 、国会の審議の場でも何度もこの点が指摘された。
  これらの批判もあり、消費者庁は、答弁の場で、政省令の制定にあたっては、消費者団体や消費生活相談員の方々の意見も丁寧に聞きながら、オープンな場で検討していく旨述べている。
そして、参議院では、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」が可決され、「書面交付の電子化に関する承諾の要件を検討するに当たっては、悪質業者の手口や消費者被害の実態を十分に踏まえた上で、学識経験者、消費者団体、消費生活相談員等の関係者による十分な意見交換を尽くすこと」という項目が盛り込まれた。
  このような答弁、附帯決議を踏まえ、弁護士、消費者団体、消費生活相談員等実務に携わる第三者を含んだ専門的な検討会が立ち上げられた 。
(2)書面の電子化が改正案に盛り込まれるに至った経緯の問題点は、消費者保護の見地に立つべき消費者庁が、消費者の利便性の名のもとに、立法事実もなく、第三者からの意見聴取も実質的な検討も経ないまま、消費者にとって不利益な改正を積極的に推し進めたうえに、消費者委員会も最終的に消費者庁の方針を追認してしまったところにある。
  今回立ち上がる検討会は、消費者庁の本来の立ち位置である消費者保護の見地に立ち、この立ち位置から丁寧な議論を行うことが強く求められる。そして、紙の書面による承諾の取得や第三者からの承諾の取得などの消費者保護のため事業者にとって厳しい規制は、事業者側から反対意見が述べられることが容易に想像できるが、緩和されることのないようにしなければならない。

4  最後に
  「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」は、預託商法を抜本的に取り締まり、送り付け商法に対する規制を見直し、詐欺的な定期購入に対して規制を加えるなど、評価できる内容が多く含まれるものであった。
  しかし、こと書面の電子化に関しては、内容もさることながら、当該規定が盛り込まれるに至った経緯、消費者委員会が誤った規定を追認してしまったこと、多くの団体から反対意見が述べられ、国会でもほとんどの参考人から反対意見が述べられたにもかかわらず、抜本的な修正がなされないまま法案が可決されたことなど、多くの問題点を孕むものであった。
  消費者の利便性の名の下に、消費者にとって不利益な方向に法律改正の提案を行った消費者庁は、もう一度、本来の立ち位置を見直すべきである。
以 上


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