意見書

「消費者契約に関する検討会」の報告書に対する意見書(2021年10月21日)


2021年(令和3年)10月21日

消費者庁長官  伊  藤  明  子  殿

京都弁護士会                

会長  大  脇  美  保  



「消費者契約に関する検討会」の報告書に対する意見書



  当会は、「消費者契約に関する検討会」作成の令和3年9月付け報告書に対して、下記のとおり意見を述べる。


第1  消費者の取消権について
1  困惑類型の脱法防止規定
(1)報告書の提案概要
困惑類型のうち、強迫類似型(消費者契約法(以下「法」という。)第4条第3項第1号、第2号、第7号及び第8号について、脱法禁止規定を設ける。
他方、法第4条第3項第3号から第6号については、受け皿となる脱法防止規定を設けない。
(2)意見
強迫類似型の脱法防止規定を設けることには賛成する。
もっとも、法第4条第3項第3号から第6号までの脱法防止規定についても設けるべきである。
(3)理由
消費者が困惑するに至る事業者の行為態様等は様々であるため、取り消しが可能となる不当行為の脱法防止規定を設けるという方向性については賛成できる。この規定により、消費者に心理的な負担をかける不退去等の4類型(法第4条第1号、第2号、第7号及び第8号)と実質的に同程度の不当性を有する行為についても取り消しが可能となり、規制の漏れを防止することができるためである。
もっとも、脱法防止という観点からは、不安をあおる心理状態や行為の好意の感情の不当な利用(法第4条第3号ないし第6号)に関する受け皿となる脱法防止規定も設けるべきである。成年年齢引下げに伴い若年者の悪質商法被害が増加するおそれがあり、また高齢者に対する消費者被害が高止まりしている現在においては、つけ込み困惑型行為として分類されている規定の脱法防止規定も設ける必要がある。

2  心理状態に着目した規定
(1)報告書の提案概要
事業者が、正常な商慣習に照らして不当に消費者の判断の前提となる環境に対して働きかけることにより、一般的・平均的な消費者であれば当該消費者契約を締結しないという判断をすることが妨げられることとなる状況を作出し、消費者の意思決定が歪められた場合における消費者の取消権を設ける。
(2)意見
本提案の取消権を創設することには、賛成する。もっとも、要件が限定されて適用範囲が狭くなることのないようにすべきである。
(3)理由
事業者が、検討時間を制限して焦らしたり、広告とは異なる内容の勧誘を行って不意を突いたりすると、消費者は、適切な判断ができないような状況に置かれることとなる。そのため、消費者は、冷静かつ慎重な判断ができず、契約内容を十分に吟味できない心理状態に陥った状態で契約したような場合には取消しが認められるべきである。
そして、検討時間の制限によって焦って判断することを余儀なくされる場合だけでなく、情報商材被害のような、一方的に期待感をあおられた場合や、複数の要素が重なり合う場合など、様々な状況によって、消費者が冷静かつ十分な判断ができなくなるおそれがあることから、このような要素によって消費者の意思決定が歪められた場合の取消権が認められるべきである。
参議院法務委員会の成年年齢引下げに伴う附帯決議(2018年(平成30年)6月12日)において、いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権を創設することなど、若年者の消費者被害を防止し、救済を図るための必要な法整備を行うことについて検討を行い、必要な措置を講ずるとされているのであるから、これに対応するためにも、本提案の取消権は必要である。

3  判断力の不足に着目した規定
(1)報告書の提案概要
判断力の著しく低下した消費者が、自らの生活に著しい支障を及ぼすような内容の契約を締結した場合における取消権を設ける。
対象となる契約は、当該消費者の生活が将来にわたり成り立たなくするようなものとする。
契約が当該消費者の生活に著しい支障を及ぼすことについて事業者が悪意又は重過失がある場合に対象を限定する。
消費者の判断力に関する事業者の認識については要件としない。
(2)意見
判断力が低下した消費者を守るための規定を設けることは必要である。
しかし、本提案の要件では対象が狭すぎて、実務上、取消権が全く機能しないおそれがあるため、事業者の主観的要件については、過失を含むべきである。もし、契約内容の不当性についての事業者の認識を悪意重過失までにとどめるのであれば、契約内容の不当性自体の要件を緩和すべきである。
(3)理由
意思無能力とはいえないような判断力の低下した消費者を守るための規定を設けること自体は反対するものではない。
しかし、本提案の要件では、判断力が「著しく」低下した消費者の生活への「著しい」支障がない場合は取り消すことができず、適用範囲が非常に限定的である。また、契約内容の不当性について、事業者の悪意やそれと同視される程度の重過失まで要件とすると、事業者の単に知らなかったという主張がまかり通ることとなり、実務上、取消権が機能しなくなる。したがって、事業者の主観的要件については、過失を含むべきである。
もし、契約内容の不当性についての事業者の認識を悪意重過失までにとどめるのであれば、契約内容の不当性自体の要件を緩和すべきである。すなわち、判断力が低下した者に、悪意や重過失により契約を締結させるのであるから、生活が成り立たないような契約に限定せずに、生活が成り立たなくなるという程度に至らない場合でも、契約が対価的に不均衡な内容であること、又は、契約が当該消費者の告知した契約目的・動機に合致しないか反する内容であることも含めるべきである。

4  過量契約取消権における「同種」の解釈
(1)報告書の提案概要
「同種」の範囲は、別の種類のものとして並行して給付を受けることが通常行われているかどうかのみならず、当該消費者が置かれた状況に照らして合理的に考えたときに別の種類のものとみることが適当かどうかについても、社会通念に照らして判断すべきである旨を逐条解説等によって明らかにする。
(2)意見
本提案については、賛成する。

第2  「平均的な損害」について
1  「平均的な損害」の考慮要素の列挙
(1)報告書の提案概要
「平均的な損害」を算定する際の主要な考慮要素として、当該消費者契約における商品、権利、役務等の対価、解除の時期、当該消費者契約の性質、当該消費者契約の代替可能性、費用の回復可能性等を列挙することにより「平均的な損害」の明確化を図る。
(2)意見
本提案については、基本的に賛成する。
ただし、「商品、権利、役務等の対価」を考慮要素の一つに入れるかについては、慎重な判断が必要である。
(3)理由
消費者と事業者との間で、平均的な損害についての共通認識が生じるため、考慮要素を挙げて明確化を図ることには賛成である。
もっとも、「商品、権利、役務等の対価」については、この考慮要素がいかなる方向に働く要素なのか、十分な検討がされておらず、例えば、対価が安いためにキャンセル料が高くても仕方がないというように捉えると消費者に著しく不利に作用するおそれがある。
したがって、「商品、権利、役務等の対価」を考慮要素とするか否かについては、慎重な判断が必要である。

2  解約時の説明に関する努力義務の導入
(1)報告書の提案概要
事業者に違約金条項について以下の内容の不当でないことを説明する努力義務を課す。
①説明の時期については、事業者が消費者に対して違約金条項に基づいて違約金を請求する場合等において、当該消費者から説明を求められた場合に限定する。
②説明の内容については、どのような考慮要素及び算定基準に従って「平均的な損害」を算定し、違約金が当該「平均的な損害」の額を下回っていると考えたのかについて、その概要を説明する。もっとも、消費者が違約金その物の説明を求める場合にあっては、違約金を定めるに当たって考慮した要素や算定の基準の概要、違約金の考え方等をもって、違約金の合理性を説明する。
③義務の効果については、努力義務にとどめる。
(2)意見
事業者の消費者に対する説明義務を定めることについては賛成する。
もっとも、①説明の時期については、勧誘段階や、契約締結前後等において消費者が説明を求めた場合も含まれることを明らかにすべきである。
また、②事業者が説明すべき内容について、「平均的な損害の額及びその算定根拠並びに逸失利益が含まれる場合はその理由」とすべきである。
そして、③当該義務は努力義務ではなく、民事効を付与する法的義務とすべきである。
(3)理由
ア  説明時期
違約金条項が問題となるのは、必ずしも解除時に限るものではない。法第3条第1項第2号が勧誘時における情報提供義務を定めていることから、「消費者から説明を求められた場合」とは、解除時に限らず、勧誘段階から、消費者契約締結前後等を含むこと明らかにすべきである。
イ  説明内容
消費者が「平均的な損害の額」の算定根拠等の説明を求める趣旨は、違約金等が「平均的な損害の額」を超えないという結論ではなく、①平均的な損害の額、②その算定根拠、③逸失利益が含まれる場合にはその理由である。
したがって、これらを事業者が消費者に説明する内容とすべきである。
ウ  義務の効果
事業者は違約金条項を定めるに際し、予め「平均的な損害の額」を適切に算定しているはずであるため、事業者に対し②の内容を説明すべき義務を課しても過度な負担を課すものではない。そして、事業者に対し、説明義務を履行させ、違約金条項の公正化を促進するためには、説明義務を怠った場合は、当該違約金条項が無効となるなどの民事効を付与すべきである。

3  違約金条項の在り方に関する検討
(1)報告書の提案概要
「平均的な損害」の考え方について、違約金条項に関する消費生活相談事例や差止請求訴訟の実例も参考にし、関係する事業者、業界団体や適格消費者団体等の意見も踏まえつつ、法学、経済学等の観点から違約金条項の在り方に関する検討を行い、逐条解説等により随時示していく。
(2)意見
本提案については、賛成する。

4  立証責任の負担を軽減する特則の導入
(1)報告書の提案概要
主張立証の負担の軽減を図るにあたっては、訴訟上の新たな規律を設けること、すなわち、事業者が、その相手方が主張する「平均的な損害」の額を否認するときは、その事業者は自己の主張する「平均的な損害」の額とその算定根拠を明らかにしなければならないこととする規定、いわゆる積極否認の特則の規定を設ける。
例外的に、「相当の理由」が存在する場合には、事業者が当該算定根拠について明らかにする必要がないようにする規律とする。
積極否認の特則の利用主体については、適格消費者団体及び特定適格消費者団体に限定する。
(2)意見
積極否認の特則規定を設けることに賛成する。
ただし、例外規定の要件及び適用は厳格にすべきであり、利用主体についても、限定すべきではない。
(3)理由
「平均的な損害」額の算定根拠等、必要な情報は事業者側にあるため、積極否認の特則規定を設けることで、訴訟上必要な証拠が提出されることが期待できる。したがって、積極否認の特則を設けることは、「平均的な損害の額」に関する立証負担の軽減を図り得る。
もっとも、消費者等の立証責任の負担を軽減するという改正の趣旨からすると、相当な理由が認められる場合における例外規定を設けるとしても、「営業の秘密」ということのみで容易に相当な理由をみだりに認めるべきではなく、その要件及び適用は厳格に解すべきである。
また、違約金条項について、消費者個人が訴訟提起することは十分に考えらえるため、利用主体を限定すべきではない。

5  将来の検討課題
(1)報告書の提案概要
「平均的な損害」に係る立証責任の負担を軽減するために、文書提出命令の特則及び「平均的な損害」の額の立証責任の転換等については、将来の検討課題とする。
(2)意見
文書提出命令の特則規定の導入を将来の検討課題とすべきではなく、積極否認の特則規定と併せて今回導入すべきである。
(3)理由
適切な証拠資料の提出という観点からすると、積極否認の特則規定が創設されるのみでは不十分であり、文書提出命令の特則と併せて導入することで、「平均的な損害の額」を算定するに足りる資料を入手し、主張立証を尽くせるようになる。
したがって、積極否認の特則のみならず、文書提出命令の特則も併せて導入する必要がある。

第3  不当条項等について
1  サルベージ条項
(1)報告書の提案概要
事業者の損害賠償責任の範囲についてサルベージ条項が用いられる場合に、事業者の損害賠償責任の範囲を軽過失の場合に一部免除する旨の契約条項は、これを明示的に定めなければ効力を有さない(サルベージ条項によっては同様の効果を生じない)こととする規定を設ける。
(2)意見
本提案については、賛成する。
もっとも、事業者の損害賠償責任の免責条項に限定すべきではない。
(3)理由
サルベージ条項は、その意味が消費者にとって正しく理解されないため、その条項があることにより消費者が事業者に対する責任追及を諦めざるを得なくなる点で、現実的な弊害が大きいといえる。したがって、かかる契約条項は、全部無効として不当条項リストに追加されるべきである。
しかし、サルベージ条項が問題となるのは事業者の損害賠償責任の免除条項に限られないし、サルベージ条項は事業者に対する責任追及の萎縮効果をもたらす問題のある条項であることから、事業者の損害賠償責任の免責条項に限らず、サルベージ条項については、全部無効とすべきである。

2  所有権等を放棄するものとみなす条項
(1)報告書の提案概要
所有権等を放棄するものとみなす条項について、法第10条の第1要件に例示する。
所有権以外の権利についても放棄の対象となることを逐条解説等で明らかにする。
(2)意見
本提案については、賛成する。

3  消費者の解除権の行使を制限する条項
(1)報告書の提案概要
解除に伴う手続に必要な範囲を超えて、消費者に労力又は費用をかけさせる方法に制限する条項について、法第10条の第1要件に例示する。
その範囲の判断を画するため、「本人確認その他の解除に係る手続に通常必要な範囲」等として、必要な範囲の典型例を具体的に示す。
(2)意見
消費者の解除権行使を制限する条項を第10条の第1要件の例示に追加することには賛成する。
ただし、例示の在り方については、「消費者の解除権の行使について、事業者の同意、対価の支払い、その他要式又は要件を付加する条項」といった内容にすべきである。
(3)理由
消費者の解除権行使を限定ないし制約する条項は、本来は解約の意思表示たり得るものであれば、その方式を問わずに自由に消費者が行使できるはずのものを制約されているのであるから、法10条の第1要件を満たす。
ただし、その例示の在り方については、「必要な範囲を超えて消費者に労力又は費用をかけさせる場合」のみが法10条の第1要件を満たすかのような内容となっているため、例示の在り方については、「消費者の解除権の行使について、事業者の同意、対価の支払い、その他要式又は要件を付加する条項」といった内容とするのが合理的である。

4  消費者の解除権に関する努力義務
(1)報告書の提案概要
事業者が消費者の解除権の行使のために必要な情報提供を努力義務とする規定を設ける。消費者による解除権の行使が円滑に行われるための配慮も有益と考えられるところ、消費者が解除権の行使を円滑に行える様々な手法による配慮を含めて努力義務の内容とする。
(2)意見
本提案については、賛成する。
ただし、たとえ情報提供をしたとしても、解除権行使の制限自体が不当条項となり得ることに留意すべきである。

第4  消費者契約の条項の開示について
1  定型約款の表示請求権に係る情報提供の努力義務
(1)報告書の提案概要
事業者は、消費者契約の条項として定型約款を使用するときは、消費者契約の締結について勧誘をするに際し、定型約款の表示請求権の存在及び行使方法についての必要な情報を提供することを努力義務として定める。
もっとも、定型約款を使用する事業者が、消費者が定型約款の内容を容易に知ることができるようにするための措置を講じている場合には、定型約款の表示請求権に係る努力義務を負わない旨を明らかにする。
(2)意見
本提案については、反対する。
事業者の義務として、定型約款の事前開示義務を明確にすべきである。
(3)理由
定型約款について必要な情報を事前に提示すべき義務は、法第3条第1項第2号による情報提供義務に含まれているため、まずは、逐条解説等により、この点を明確にすべきである。この点を明確にせずに定型約款の表示請求権(民法第548条の3第1項)のみを規定すると事業者に定型約款事前開示義務がないものと誤認されるおそれがある。
したがって、事業者の義務として定型約款の事前開示義務を明確にしないのであれば、定型約款の表示請求権の情報提供努力義務のみを規定することには反対する。

2  適格消費者団体の契約条項の開示請求
(1)報告書の提案概要
事業者が不特定かつ多数の消費者との間で不当条項を含む消費者契約を締結している疑いがあると客観的な事情に照らして認められる場合には、適格消費者団体は、開示を求める趣旨を示して、当該事業者に対し、当該事業者が不特定かつ多数の消費者との間で使用している契約条項の開示等を求めることができる仕組みを設ける。
もっとも、事業者が不特定かつ多数の消費者との間で使用している契約条項の内容を消費者が容易に知ることができる状態に置く措置を講じている場合には、開示を求めることができない。
(2)意見
本提案については、賛成する。
ただし、認定を受けた適格消費者団体がなす開示請求なので、「事業者に不合理な負担が生じる」という場面は、通常は想定できないことを明らかにしたうえで、開示請求が求めることができない場面を限定的なものとすべきである。
(3)理由
一定数の事業者が、契約条項を開示しないことからすると、本規定を設けることは賛成である。
ただし、開示請求権の対象を「不特定かつ多数の消費者との間で現に使用している消費者契約の条項」としているが、適格消費者団体の差止めの対象は、上記条項にとどまらず、広告、チラシ等の不当表示をも含むものであるところ、本規定が反対解釈されると、事業者が、約款以外の資料(広告、チラシ等)の開示を拒む根拠とされかねない。
そこで、事業者が開示すべき対象を、約款に限定される訳ではない旨を逐条解説やガイドライン等により明確にすべきである。
また、認定を受けた適格消費者団体がなす開示請求なので、「事業者に不合理な負担が生じる」という場面は、通常は想定できないことから、単にウェブサイト上で公表されていることなどをもって、開示を求めることができない理由とすべきではなく、適格消費者団体に開示請求の必要性等を考慮するなど、認められない場面は限定的なものとすべきである。

第5  消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素について
(1)報告書の提案概要
消費者の「年齢」を消費者契約の内容に係る情報提供の努力義務における考慮要素とする。
(2)意見
本提案については、賛成する。
(3)理由
消費者が若年者である又は高齢者であるという意味で、「年齢」は、理解の不十分さ(経験のなさ、あるいは、認知力・判断力の衰え)を推測させる。
そこで、「年齢」を考慮することで、若年者や高齢者に対し、より丁寧な情報提供することを期待できる。
以 上


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