意見書

「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次報告案)及び建築基準制度のあり方(第四次報告案)について『脱炭素社会の実現に向けた、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物における木材の利用促進及び既存建築ストックの長寿命化の総合的推進に向けて』」に関する意見書(2021年12月28日)


2021年(令和3年)12月28日


国土交通省住宅局建築指導課企画係 パブリックコメントご担当者 殿


京都弁護士会            

会長  大  脇  美  保
  


「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次報告案)及び
建築基準制度のあり方(第四次報告案)について『脱炭素社会の実現に
向けた、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物に
おける木材の利用促進及び既存建築ストックの長寿命化の総合的推進に
向けて』」に関する意見書



国土交通省が2021年12月9日付けで意見募集を開始した「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次報告案)及び建築基準制度のあり方(第四次報告案)について『脱炭素社会の実現に向けた、建築物の省エネ性能の一層の向上、CO2貯蔵に寄与する建築物における木材の利用促進及び既存建築ストックの長寿命化の総合的推進に向けて』」(以下「報告案」という。)について、建築基準法20条1項4号所定の建築物(以下「4号建築物」という。)に関する安全性を確保するため、以下のとおり意見を述べる。

第1  意見の趣旨
  1  報告案は、構造計算が義務付けられる木造建築物の範囲の拡大を検討しているが(報告案20頁23~25行目)、報告案の内容では、現行の4号建築物の多くが適用範囲に入らないため、現行の4号建築物全てについて構造計算を行うべきことを、建築基準法令において明確に義務付けるべきである。
2  仮に、同法20条1項4号イに定める方法(政令の仕様規定に適合すれば構造計算が免除される方法)を残すのであれば、4号建築物に適用される仕様規定(施行令36条3項に基づき適用される36条から80条の3までの規定)により定めている技術的基準を全面的に見直し、構造計算を行った場合と同等以上の構造安全性を確保できるようにすべきである。
    具体的には、報告案が省エネ対策として想定している木造住宅の仕様は、建築物の重量・高さが現状よりも増大する結果を招くため(報告案17頁19~22行目、同19頁27行目)、①要求値の見直し(例えば、垂直剛性を確保するため施行令46条4項による壁量計算の見直し等)、②建築物に応じた仕様を要求する技術的基準への改正(例えば、水平剛性を確保するため施行令46条3項において住宅品質確保促進法の規定に準ずる床倍率計算の導入等)、③欠如している技術的基準の追加(例えば、壁直下率・柱直下率、梁断面性状等に関する規定の新設等)を行うべきである。
3  手続面において、同法6条1項4号所定の建築物につき建築確認手続及び中間検査・完了検査手続において構造安全性の審査及び検査の省略を認める同法6条の4第1項3号及び7条の5の特例(いわゆる「4号特例」。以下「構造審査省略制度」という。)に関して、報告案では、対象となる建築物の範囲の縮小が検討されているが(報告案20頁7~14行目)、端的に、4号建築物全てについて、建築確認手続及び中間検査・完了検査手続において例外なく構造安全性の審査及び検査を行うものとし、そのために建築確認申請時に構造関係図書の添付を義務付けるべきである。

第2  意見の理由
1  はじめに
      当会は、2018年2月22日付で「建築基準法6条1項4号所定の建築物に対する法規制の是正を求める意見書」(以下「2018年意見書」という。)を発出しており、その内容は以下のとおりである。
(1) 建築基準法20条1項4号を改正して同号イに定める方法をなく、4号建築物についても、それ以外の建築物と同様に、常に構造計算を行うことを法的に義務付けるべきである。
(2) 仮に、同法20条1項4号イに定める方法を残すのであれば、4号建築物に適用される仕様規定(同法施行令36条3項に基づき適用される36条から80条の3までの規定)により定めている技術的基準を全面的に見直し、構造計算を行った場合と同等以上の構造安全性を確保できるように、①要求値の見直し(例えば、垂直剛性を確保するため施行令46条4項による壁量計算の見直し等)、②建築物に応じた仕様を要求する技術的基準への改正(例えば、水平剛性を確保するため施行令46条3項において住宅品質確保促進法の規定に準ずる床倍率計算の導入等)、③欠如している技術的基準の追加(例えば、壁直下率・柱直下率、梁断面性状等に関する規定の新設)を行うべきである。
(3) 手続面において、建築基準法6条の4第1項3号及び7条の5を改正して、4号建築物についても、建築確認手続及び中間検査・完了検査手続において例外なく構造安全性の審査及び検査を行うものとし、そのために建築確認申請時に構造関係図書の添付を義務付けるべきである。本意見書は、上記内容について、改めてその徹底を求めるものである。
2  2018年意見書以後の立法動向
2018年意見書の発出後、2019年11月に建築士法施行規則が改正され、4号建築物についても設計図書を15年間保存すべきことが義務付けられる(2020年3月1日施行)といった動きがあったものの、それ以外に目立った法改正の動きは見られなかった。
  3  近時の社会資本整備審議会における検討状況
  (1) 現在、国土交通省の社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会及び建築基準制度部会において、「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方及び建築基準制度のあり方」について審議が行われ、今般、報告案が示されたところ、2018年意見書の内容の一部実現に向け、以下の各点において、一定の前進とも見られる動きがある。
    ①  構造計算に関しては、「木造建築物のうち、構造安全性の確保のために構造計算が必要となる建築物の範囲を、500㎡超のものから、大空間を有するものも含まれる300㎡超のものに拡大する」(報告案20頁23~25行目)として、構造計算が免除される建築物の範囲の縮小を提言している。
②  仕様規定に関しては、「小規模木造建築物における省エネ化に伴う建築物の重量化や、大空間を有する建築物の増加などの状況を踏まえ、必要な構造安全性を確保するため」の「具体的な対策」の一つとして、「省エネ化等に伴って重量化している建築物の安全性の確保のため、必要な壁量等の構造安全性の基準を整備する」(報告案20頁2~6行目)として、仕様規定の一部見直しを提言している。
③  手続面に関しては、「建築確認・検査の対象外となっている建築物の範囲及び審査省略制度の対象となっている建築物の範囲を縮小し、現行の非木造建築物に係る建築確認・検査や審査省略制度の対象に統一化する。これにより、構造種別を問わず、階数2以上又は延べ面積200㎡超の建築物は、都市計画区域等の内外にかかわらず、建築確認・検査の対象とし、省エネ基準への適合審査とともに、構造安全性の基準等も審査対象とすることが適切である」(報告案20頁8~14行目)として、構造審査省略の対象となる建築物の範囲を平家建てかつ延べ面積200㎡以下の建築物に縮小することを提言している。
(2) もっとも、その一方で、「省エネ性能を確保するために木造建築物等の高さが高くなっている状況を踏まえ、構造安全性の確保を前提として、木造建築物等の設計等の負担軽減のため」の「具体的な対策」として、「階高の高い3階建ての建築物のうち、簡易な構造計算(許容応力度計算)によって構造安全性を確かめることが可能な範囲について、建築物の構造バランス等の確保を前提に防火規制との整合性にも留意しつつ拡大することとし、現行の高さ13m以下かつ軒高9m以下から、高さ16m以下に見直す」ことが提言されている(報告案19頁27~34行目)。
4  2018年意見書の内容を改めて求める必要性・緊急性
      前記のように、そもそも建築物の省エネ化は、断熱材等の増大に伴って下階の天井と上階の床の間の空間(いわゆる「ふところ」)の増大をもたらすため、必然的に建築物の高さの増加が生じ、さらに、窓等の外部建具の断熱性能を高める必要性等もあいまって、建築物の自重の増大も生じる。つまり、建築物の省エネ化は、建築物の高度化・重量化という建築物の構造安全性にとって不利ないし危険な方向に働くことを意味する。したがって、住宅の構造安全性については、現状以上に慎重かつ厳密に検討されるべきことは当然である。
      ところが、これら一連の議論は、脱炭素化社会の実現や建築物の省エネ化といった議論の中に位置付けられており、省エネ化の推進の要請が先行していることから、構造安全性の議論は後追いであるようにも見受けられる。実際、法案化の動きも、まず、省エネ化を推進する方向での法制整備の議論が先行している。これでは、建築物の高度化・重量化という建築物の構造安全性にとって不利ないし危険な方向に働く法制度のみが先行して作られかねず、現行制度以上に建築物の構造安全性に関する法規制が後退しかねない危険性がある。
      あくまでも、省エネ化の推進と構造安全性の確保は一体として議論され、同時に法制度の運用がなされるべき問題である。その意味において、2018年意見書が求めている内容は、現在の議論状況に照らして、より一層の必要性と緊急性を増しているというべきである。
      なお、報告案において従前の規制を緩和する方向での提案に対して、本意見書では触れていないが、そのことは緩和案を無条件に許容する趣旨でなく、慎重に検討すべきであることを付言しておく。
5  意見の趣旨第1項の理由
      構造計算が義務付けられる建築物の範囲について、現行の延べ面積500㎡超から300㎡超へと拡大が提言されているが、一般的な戸建住宅の多くは延べ面積300㎡以下にとどまっていることからすると、このような改正提言は戸建住宅の構造安全性の確保の要請に十分に応えていない。
      省エネ化に伴い、構造安全性を確保すべき要請が高まっている現状を直視するならば、全ての建築物について構造計算を行うことを、明確に建築基準法令において義務付けるべきである。
6  意見の趣旨第2項の理由
    現行の仕様規定が極めて不十分であることは既に2018年意見書で指摘したところであるが、前記のとおり、報告案が省エネ対策として想定している木造住宅の仕様は、建築物の高さ・重量が現状よりも増大する結果を招くため、現行の仕様規定で対応することは到底不可能であると言わざるを得ない。現に、報告案自体も、少なくとも「必要な壁量等の構造安全性の基準を整備する」等、「必要な構造安全性を確保するために(中略)具体的な対策を講じる必要がある」ことは認めているところである(報告案20頁2~6行目)。
    とすれば、構造計算を行う場合との矛盾を解消して整合性を図るためにも、この機会に仕様規定を抜本的に見直すべきであり、①要求値の見直し(例えば、垂直剛性を確保するため施行令46条4項による壁量計算の見直し等)、②建築物に応じた仕様を要求する技術的基準への改正(例えば、水平剛性を確保するために施行令46条3項において住宅品質確保促進法の規定に準ずる床倍率計算の導入等)、③欠如している技術的基準の追加の改正(例えば、壁直下率・柱直下率、梁断面性状等に関する規定の新設等)を行うことが必要不可欠である。
7  意見の趣旨第3項の理由
そもそも手続面における構造審査省略制度は、1983年の建築基準法改正(1984年4月1日施行)によって設けられたものであるが、政府の持ち家政策の下での新築戸建建売住宅の急速な増加傾向 等が背景にあった。
近年では、いわゆる空き家問題にも見られる住宅ストックの過剰傾向、人口減少・少子高齢化や景気の長期低迷等を受け、住宅の新築着工件数は確実に減少傾向にあり、従前のように構造審査省略制度を維持すべき必要性は認められない。むしろ、報告案も提言するように、省エネ化に伴って、建築確認手続を通じて構造審査を行うべき必要性は、ますます大きくなっているものと言える。
とすれば、報告案のように、構造審査省略制度については、対象建築物の範囲を縮小するだけにとどまらず、端的に、全ての建築物について、例外なく構造安全性の審査及び検査を行うものとし、そのため建築確認申請時に構造関係の設計図書の添付を義務付けるべきである。
  8  結語
以上を踏まえ、4号建築物に関する安全性を確保するため、意見の趣旨記載のとおり、建築基準法令を改正することを改めて求める次第である。

以 上



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