オンラインを活用した接見交通の実現を求める会長声明(2022年1月19日)


オンラインを活用した接見交通の実現を求める会長声明



1  現在、刑事手続のIT化の議論が、法務省の検討会(「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」。以下「検討会」という。)で進められている。
検討会では、刑事手続について情報通信技術を活用する方策に関し、現行法上の法的課題を抽出・整理した上でその在り方が検討されているが、論点項目として「書類の電子データ化、発受のオンライン化」「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」が挙げられており、この中には被疑者・被告人との接見交通が論点項目として掲げられている。
2  言うまでもなく、被疑者・被告人は弁護人の援助を受ける権利(憲法第34条、第37条第3項)を保障されているが、現実的には、刑事収容施設が遠方である等のために、速やかに接見することが困難な場合も少なくない。弁護人の援助を受ける権利は、距離や時間という問題によって制約されていると言わざるを得ない。
しかし、弁護人が刑事収容施設に赴かなくとも、ビデオ通話や電話等のオンラインを活用した接見交通が可能になれば、被疑者・被告人は適宜の助言を受けることができるようになる。また、書類等についても、メールやSNS等での送受信ができるようになれば、より迅速に授受することが可能となる。
急速に発展する情報通信技術を、被疑者・被告人と弁護人との間の接見交通に積極的に活用することによって、弁護人の援助を受ける権利に対する制約を排除し、より実効性のある権利とすべきである。
3  また、現在の被疑者国選弁護制度では、勾留段階からしか国選弁護人を請求することができないが、憲法第34条からすれば、逮捕段階から国選弁護人を請求できる制度とすべきことは当然である。逮捕段階からの国選弁護制度の創設は急務であるが、その制度設計において、逮捕から勾留までの短期間における弁護人選任と接見が課題となっている。当会においても、京丹後警察署、宮津警察署などの京都府北部地域の刑事収容施設に、京都市内に事務所を置く弁護士が接見しようとすれば、片道2時間以上もかけて移動しなければならず、北部地域における弁護人選任が課題となっている。
しかし、オンラインを活用した接見交通が可能となれば、弁護人は遠隔地にある刑事収容施設であっても、選任後直ちに接見をすることができるようになる。逮捕段階からの国選弁護制度創設のためにも、オンラインを活用した接見交通は、極めて重要な意味を持っている。
4  もっとも、オンラインを活用した接見交通を実施した場合、捜査機関等が、弁護人に察知されることなく接見を傍受することも、技術的には可能である。現在、試行されている電話による被疑者・被告人との連絡は、秘密接見交通権が保障される接見とは位置付けられていないが、今後のオンラインを活用した接見交通では、秘密接見交通権が保障されるよう、傍受が不可能な技術的措置を講じた接見が実現されなければならない。
5  検討会における議論の中で、オンラインを活用した接見交通については、設備や予算などの問題が指摘されているようである。しかし、新たな設備の整備等が必要なのは、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することである。弁護人の援助を受ける権利は、被疑者・被告人の基本的人権であり、設備や予算などの理由で、十分な保障をしないなどということは、本末転倒というほかない。
6  刑事司法制度の根幹は被疑者・被告人の権利保障である。刑事手続のIT化の議論も、何よりも被疑者・被告人の権利保障を充実させるという観点で進められなければならない。
検討会においても、さらに具体的な議論を進め、早期にオンラインを活用した接見交通を実現することを求める。

      2021年(令和3年)1月19日

京都弁護士会                  

会長  大  脇  美  保  
    

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