旧優生保護法に基づく不妊手術を強いられた被害者等の全面救済と差別のない社会の実現を求める会長声明


旧優生保護法に基づく不妊手術を強いられた被害者等の全面救済と
差別のない社会の実現を求める会長声明



旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関して国家賠償を求める裁判は、各地で取り組まれていますが、この間、除斥期間(改正前民法724条後段)の適用を否定して被害者への賠償を命ずる判決が連続して出されました。2022年(令和4年)2月22日の大阪高等裁判所の判決と、同年3月11日の東京高等裁判所の判決です。いずれも、除斥期間の経過を理由に請求を棄却した原判決を取り消し、正義・公平の理念から国に賠償を命じたものであって、被害の本質を正面から見据えた画期的な判決といえます。
これらの判決を契機として、強制不妊手術を受けた方々への真摯な謝罪と十分な賠償が早急に実施されるとともに、尊厳の回復に向けたあらゆる措置が講じられなければなりません。また、差別を完全になくしていくために社会全体としても取り組んでいかなければなりません。
当会もそのためのあらゆる努力を惜しまないことを、ここに宣明します。

旧優生保護法に基づいて実施された強制不妊手術に関しては、これまで、同法や同手術が、その立法目的や手段などに鑑みて違憲・違法であることは各裁判所が一貫して認定していましたが、他方で、除斥期間の適用を認めて国の賠償責任を否定する判決が続いていました。それに対して今回の両判決は、本件に除斥期間を適用して国の賠償責任を否定することは、次のような理由から著しく正義・公平の理念に反すると判断しています。
すなわち、旧優生保護法の被害者は、違憲の法律に基づく国の施策として差別され、不妊手術を強制的に受けさせられるなど二重、三重の精神的・肉体的苦痛を与えられたこと、国は優生手術や差別思想の正当化を積極的に推し進め、極めて非人道的な手段による不妊手術をも許容し、かつ長年にわたって被害救済のための措置を何ら執らなかったこと、それらに起因する社会的な差別・偏見を受けることへの危惧感から被害者は司法へのアクセスが著しく困難な環境に追いやられていたこと、などです。特に、東京高等裁判所の判決が指摘する、憲法に違反する法律に基づく施策によって生じた被害の救済を憲法よりも下位の法規範である民法によって拒絶することは慎重であるべきという点は、被害の本質や憲法の価値を端的に示すものとして最大限に高く評価されなければなりません。

各地で続く同種訴訟において最初の、そして二番目の高等裁判所の判決がいずれも国の賠償責任を認めたことは、今後の訴訟に大きな影響を与えるものであり、被害救済のためにも極めて大きな意義があります。
旧優生保護法に基づく不妊手術は約2万5000件実施されたと国は報告していますが、2019年(令和元年)4月24日に成立した「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律」に基づく申請件数は、本年2月6日時点で1138件にとどまっており、被害救済は、道半ばにさえ全く至っていません。国は、両判決を真摯に受け止め、一刻も早く、謝罪の在り方を検討するとともに、旧優生保護法の被害者全員に対し、被害に見合った適切な賠償を行うなど、全面的な被害救済と解決に向けて一刻も早く動き出すべきです。
当会は、2019年(令和元年)3月31日、シンポジウム「優生思想との訣別~旧優生保護法被害からの人権回復に向けて~」を開催して、被害の一端を明らかにしました。これからも、旧優生保護法によって被害を受けた方々の救済と尊厳の真の回復をはじめ、一人一人が大切にされるあらゆる差別のない社会の実現を目指し、真摯に取り組んでいく決意です。

2022年(令和4年)3月29日

京都弁護士会                  

会長  大  脇  美  保  
    

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