消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する会長声明


消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律案に対する会長声明



2022年(令和4年)3月1日、「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)が第208回国会(常会)に提出された。
しかし、本法案は、消費者庁が2018年(平成30年)消費者契約法改正の際の衆参両院附帯決議において指摘された喫緊の課題の検討のため、2019年(令和元年)12月から全23回、約1年9か月にわたって議論を重ね、取りまとめをするに至った消費者契約に関する検討会(以下「本検討会」という。)の報告書(以下「検討会報告書」という。)の内容と著しく乖離している。本検討会は、2019年(平成31年)2月から開催された「消費者契約法改正に向けられた専門技術的側面の研究会」(以下「本研究会」という。)による報告書を踏まえつつ、実務的な観点から検討を深化させてきたものであるが、その検討会報告書の提案を反映していない本法案は、本検討会の存在意義を喪失させるだけでなく、本研究会から長期間にわたり、消費者契約法改正に向けて多角的な視点から議論を重ね、多数の有識者が熟考してきた時間を全て無に帰するものといわざるを得ない。
検討会報告書では、不当勧誘の規定として、①消費者契約法第4条第3項各号の困惑類型の脱法防止規定、②消費者の慎重な検討の機会を奪うような勧誘があった場合の消費者の心理状態に着目した規定、③判断力の著しく低下した消費者が生活に著しい支障が及ぶような内容の契約をした場合の消費者の判断力に着目した規定という、3つの新たな取消権を創設することが提案されていた。
また、不当条項の規定についても、所有権等を放棄するものとみなす条項や消費者の解除権の行使を制限する条項を不当条項に関する消費者契約法第10条の第1要件の例示として掲げること等、いくつかの不当条項を規定することが提案された。
これらの検討会報告書の具体的な提案は、上記附帯決議や成年年齢引下げの民法改正の際の参議院附帯決議において、高齢者、若年成人等の知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を事業者が不当に利用した場合の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)の創設が求められたこと等に対応しようとするものであった。
しかし、本法案では、上記3つの取消権に対応する規定は全て抜け落ちており、賠償請求を抑制するおそれがある不明確な免責条項(いわゆる「サルベージ条項」の1類型)を除く不当条項の規定も改正の対象から抜け落ちている。
有識者の議論によってまとめられた法改正のための報告書と法案の改正条文がこれほど乖離していることはこれまでの消費者関連法規の改正では経験したことはなく、極めて問題である。本法案は、上記のとおり長期間にわたる消費者契約法改正の議論を無に帰し、さらに上記各附帯決議を軽視してその意義をも喪失させるものである。
多発する消費者被害の救済に資するよう、法改正手続は早急に進められるべきであるが、本法案の内容では消費者被害の救済を実現することはできない。
よって、本法案は、早急かつ根本的に見直されるべきであり、少なくとも検討会報告書で提案された規定を含めるべきである。

2022年(令和4年)3月29日

京都弁護士会                  

会長  大  脇  美  保  
    

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