契約書面等の電磁的方法による提供に関する政省令の在り方についての意見書(2022年4月21日)(本イベントは終了しました。)


2022年(令和4年)4月21日


内閣府特命担当大臣(消費者及び食品安全)  若  宮  健  嗣  殿
消費者庁長官                              伊  藤  明  子  殿
消費者委員会委員長                        後  藤  巻  則  殿
特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会座長  河  上  正  二  殿
特定商取引法等の契約書面等の電子化に関する検討会
                                ワーキングチーム主査  鹿  野  菜穂子  殿


京都弁護士会              

会長  鈴  木  治  一  
  


契約書面等の電磁的方法による提供に関する政省令の在り方についての意見書



第1  意見の趣旨
1  承諾の取得方法について
改正特定商取引法第4条第2項等の「承諾」が真意に基づくものであることを確保するため、承諾の取得方法について、少なくとも以下の事項を政省令に定めるべきである。そして、以下の事項が実行されない場合には、契約書面等の電磁的方法による提供について、承諾が得られていないものと扱うべきである。
①  承諾は、原則として、書面により取得するものとし、オンライン完結型の特定継続的役務提供に限り、電子メールで取得することが認められるものとすること。また、承諾をした書面については控えを交付する義務を課すこと。
②  消費者が電子メールの送受信やPDFファイル等の閲覧・保存等の取り扱いに習熟していることを事業者が確認すること。
③  事業者に以下の事項についての説明義務を課すこと。
ア  書面交付が原則であること。
イ  提供する電子データが契約内容を掲載した重要なものであること。
ウ  電子データが提供された時点がクーリング・オフの起算点であること。
    ④  契約書面等の電磁的方法による提供に承諾するよう誘導することを禁止すること。  
⑤  消費者が高齢者である場合、事業者は当該高齢者に対し、家族等からも承諾を得ることを希望するか否か意思確認をする義務を負い、その意思がある場合には家族等から承諾を取得すること。消費者が高齢者でない場合でも、消費者が家族等からも承諾を得ることを希望した場合には、家族等から承諾を得ること。
2  電子データの提供方法について
電子データの提供方法については、少なくとも次のことを政省令で定めるべきである。
    ①  電子データの提供方法は、PDFファイル等を電子メールに添付して提供する方法に限定すること。
②  PDFファイル等を電子メールで送信するに際し、電子メール本文に、商品名、数量、代金額、クーリング・オフ事項、クーリング・オフの送信先メールアドレスを表示すること。
③  消費者が電子データを閲覧・保存等ができること及び電子データの提供後に消費者がこれを実施したことの確認義務を事業者に課すこと。
④  PDFファイル等の再提供の要請を受けたときの再提供義務を事業者に課すこと。
⑤  PDFファイル等の提供後、書面の交付の要請を受けたときの交付義務を事業者に課すこと。
⑥  消費者が高齢者である場合、事業者は当該高齢者に対し、家族等への電子データの提供を希望するか否かを意思確認する義務を負い、その意思がある場合には家族等へ法定記載事項を記載した電子データを直ちに提供すること。消費者が高齢者でない場合でも、消費者が家族等への電子データの提供を希望した場合には、事業者はこれに応じること。

第2  意見の理由
1  はじめに
⑴  野党及び160を超える消費者団体や弁護士会等の団体から反対を受けながらも、「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律」が成立し、特定商取引法第4条第2項、第5条第3項等が新設され、特定商取引法上求められる書面交付に代えて、消費者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供することが可能となった。
そして、その承諾の取得方法や電子データの提供方法については、政省令で定められることになった。
    ⑵  政省令を定めるにあたっては、まず、2021年(令和3年)6月4日付参議院地方創生及び消費者問題に関する特別委員会による附帯決議第1項 で定められた内容が十分に尊重されなければならない。また、地方創生及び消費者問題に関する特別委員会において、消費者庁が行ってきた答弁 の内容も十分に斟酌する必要がある。
        以上に加え、特定商取引法の対象取引が、トラブルの発生頻度が高い取引類型であり、開業規制もなく、概要書面の説明義務も業務適正化義務もない分野であることをも踏まえれば、承諾の取得方法や電子データの提供方法に関する政省令は、以下のような厳格なものとされなければならない。
2  承諾の取得方法について(意見の趣旨1)
⑴  意見の趣旨1①について
ア  今後は承諾の有無で争いが増えることが必至であるため、消費者が承諾をしたことを明確に確認できる必要がある。
また、契約書面等の電磁的方法による提供は、書面交付の有する第三者による見守り機能を低下させる点に問題がある。この点、承諾は書面で取得することし、その控えを交付することとすれば、第三者が承諾の存在を認識し、もって契約の存在まで認識することができるようになり、高齢者等の保護につながる。
したがって、承諾は書面で取得することを原則とし、承諾を取得した場合には控えを交付することとすべきである。
イ  これに対しては、契約書面等を電磁的方法により提供することを可能とする本改正の意義を失わせるといった事業者側からの意見が考えられる。
    しかし、訪問販売や電話勧誘販売、訪問購入といった取引類型については、その不意打ち性故に規制対象となっているところ、不意打ち性が払拭されないなかでは、真意に基づく承諾というものが考えがたい。また、連鎖販売取引及び業務提供誘引販売取引といった取引類型についても、その強い利益誘引性故に規制対象となっているところ、やはり利益誘引性が払拭されないなかでは、真意に基づく承諾というものが考えがたい。したがって、以上の取引類型については、承諾の取得に際しても厳格な要件設定が必要であり、上記の要件を緩和すべきではない。
ウ  特定継続的役務提供についても、不確実性が高いことから、契約内容を十分に把握させるため規制対象となっているのであるから、このような書面の重要性に鑑み、原則として、書面による承諾を要件とすべきである。
    他方で、特定継続的役務提供のうち、オンライン完結型取引(契約の勧誘から役務の提供まで、全てをオンラインで行う取引をいう。)の場合、書面を不要とする必要性があることは理解できる。また、オンライン完結型取引を利用する消費者においては、電子データの取り扱いにも成熟している可能性が高い。したがって、特定継続的役務提供のうちオンライン完結型取引に限り、書面に承諾を不要としてもよい。
  ただし、書面による承諾を不要とする場合でも、消費者がインターネット上でチェック欄にチェックする方法を認めると、言われるがまま操作をして、明確に認識しないまま承諾をしてしまうという事態が起こり得る。
        よって、このような事態を避けるため、かかる場合の承諾の取得は、消費者から電子メールの送信を受ける方法に限定し、控えを交付するのと同様、事業者は、承諾を取得したことを消費者に返信等することにより、消費者が後に確認できるようにすべきである。
⑵  意見の趣旨1②について
      多くの消費者がスマートフォンを所持している時代であるが、高齢者に限らず、消費者の中には、操作に不慣れで、電子メールを使いこなせなかったり、提供された電子データを確認できなかったりする者も一定数いるものと思われる。
      このような消費者に対しては、契約書面等を電磁的方法により提供すべきでない。後述の電子データの提供方法に鑑み、事業者は、承諾を取得する前提として、電子メールの送受信やPⅮFファイル等の閲覧・保存等の取り扱いに習熟していることを確認する義務を負うべきである。
⑶  意見の趣旨1③について
    消費者が真意に基づく承諾をするためには、まずもって、原則として書面交付が受けられることを知っていなければならない。したがって、事業者は、書面交付が原則であることを説明する義務を負うべきである。
    また、消費者が真意に基づく承諾をするためには、提供される電子データが契約内容を記載した重要なもので、電子データが提供された時点がクーリング・オフの起算点となるということを理解したうえで、書面を電子データで受け取った場合、容易に電子データにアクセスし、当該電子データを閲覧・保存等できるのかどうかを十分に検討しなければならない。したがって、事業者は、消費者に対し、提供される電子データが契約内容を記載した重要なもので、電子データが提供された時点がクーリング・オフの起算点となるということを説明する義務を負うべきである。
⑷  意見の趣旨1④について
    悪質事業者は、不当な契約を隠し、クーリング・オフを避けるため、電子データはかさばらない、失くさない、いつでもどこでも確認できるなどと甘言を弄したり、割引をするなど有利な条件を示したりして、電子データの提供に承諾することを誘導するおそれがある。このような誘導が許されるならば、消費者は、十分に検討をしないまま、契約書面等の電磁的方法による提供に承諾してしまいかねない。
    そこで、事業者に対し、書面交付ではなく、契約書面等の電磁的方法による提供へ誘導を行うことは禁止し、事業者はあくまで契約書面等の電磁的方法による提供も可能であるといった程度の情報提供ができるものとしなければならない。
⑸  意見の趣旨1⑤について
        高齢者においては、承諾の意味や契約書面等の電磁的方法による提供により被る不利益を十分に理解できないまま承諾をしてしまう可能性が、他の消費者よりも高いと考えられる。これを防止するためには、承諾においても、家族等の関与が必要である。
したがって、事業者は、消費者が高齢者の場合には、家族等からも承諾を得ることを希望するか否か意思確認をする義務を負い、その意思がある場合には家族等から承諾を取得する義務を負うべきである。
また第三者の関与が必要なのは、高齢者に限られない。そこで、消費者が高齢者でない場合でも、当該消費者が家族等からも承諾を得ることを希望した場合には、家族等から承諾を得なければならないとすべきである。
3  電子データの提供方法について(意見の趣旨2)
⑴  意見の趣旨2①について
    まず、電子データは、これまでの書面と同様、一覧性が確保される状態で提供される必要があるから、PⅮFファイル等によって提供される必要がある。
    そのうえで、提供方法は、PⅮFファイル等を電子メールに添付して送信する方法でなければならない。
この方法以外にも電子データを消費者に提供する方法として、事業者のウェブページにアクセスして閲覧させたりダウンロードさせたりする方法や、SNSで送信する方法が考えられるところである。しかし、前者は、改竄のおそれやクーリング・オフの起算点があいまいになるおそれがあり、また閲覧までの手続きが煩雑であること、後者は、実際に電子データの中身を確認していないにもかかわらず、「既読」したことにより確認したものと扱われるおそれがあることから、不適切である。
なお、消費者がどの電子メールのアドレスで受信したかわからなくなるといった事態を避けるため、事業者が送信する電子メールの送信先のアドレスは、消費者の使い慣れたものに限定すべきである。
⑵  意見の趣旨2②について
        PDFファイル等を電子メールに添付して送信する場合であっても、契約内容等を確認するためには、いったんPDFファイル等を開く作業が必要になるため、消費者は、電子メールが届いても、一見して契約内容を確知することはできない。
        そこで、契約上、重要な事項については、電子メールの本文に記載し、消費者が、当該電子メールを閲覧するだけで、契約の概要を把握することができるようにすることが、消費者保護の観点から必要である。
⑶  意見の趣旨2③について
        電子メール自体が受信できないという事態や、電子メールを受信できたがPDFファイル等が破損していたり、消費者側の機器に問題があったりしてPDFファイル等が開けないという事態が想定される。
このような場合、そもそも電子データの提供があったものと扱うべきではないが、電子データの提供には、このような危険が内在しているため、事業者は、消費者がPDFファイル等を閲覧・保存できたことを確認する義務を負うべきである。
また、その確認は、確認の有無についての紛争を避けるため、消費者に当該メールに返信させる方法によって行うべきである。
⑷  意見の趣旨2④について
        電子メールを誤って消去してしまったり、大量の電子メールでPDFファイル等を添付した電子メールの所在が不明になってしまったりすることがありうる。
        このような場合には、電子データの再提供は容易であるから、事業者は、消費者から電子データの再交付の要請があった場合には、再提供義務を負うべきである。
⑸  意見の趣旨2⑤について
消費者は、契約書面等を電磁的方法により提供されたものの、書面の交付を受けたいと希望する場合がある。
        そのような場合、書面交付が原則であることに鑑み、事業者は、書面の交付義務を負うべきである。
⑹  意見の趣旨2⑥について
        契約書面等の電磁的方法による提供は、書面交付の事実上ではあるが重要な機能である第三者による見守り機能を失わせるものである。特に高齢者においては、家族や福祉関係者等の第三者が契約書の存在に気づき、被害にあっていることが発見されるということがままあり、その影響は非常に大きい。
        そこで、消費者が高齢者である場合、事業者は当該高齢者に対し、家族等への電子データの提供を希望するか否かを意思確認する義務を負い、その意思がある場合には家族等へ法定記載事項を記載した電子データを直ちに提供する義務を負うべきである。
        また、消費者が高齢者でない場合であっても、当該消費者が家族等に電子データの提供を希望した場合は、事業者は、電子データを家族等に提供する義務を負うべきである。
4  事業者側の意見に対する反論
⑴  事業者側からは、書面の電磁的方法による提供が認められている電気通信事業法や割賦販売法と比較して、あるいはデジタル社会の推進といった観点から、厳格な規制に反対する旨の意見が述べられている。
⑵  しかしながら、電気通信事業法では、事業者の登録制や届出制が採用され、契約条件の説明義務や苦情処理義務等が定められ、また割賦販売法では、事業者の登録制が採用され、業務適正化義務、加盟店調査義務等が定められていて、悪質事業者を排除する仕組みとなっている。
    これに対し、前述のとおり、特定商取引法は、悪質事業者自体が排除される仕組みとなっていないから、他の法律と同様には考えられない。
    また、特定商取引法の規制の対象となっている取引類型は、不意打ち的、利益誘導的な勧誘がなされるものであるから、本来は、真意に基づく承諾というものが想定できないはずである。しかし、これを可能と擬制する以上は、真意に基づく承諾か否かを確認するため、承諾の取得方法において、他の法律よりも厳格な規制を置くことは、むしろ当然である。また、電子データの提供方法についても、クーリング・オフの起算点となるなど書面交付のもつ重要な意義を十分に考慮しなければならない。
    したがって、電気通信事業法等の法律と比較しても、厳格な規制を緩和する理由は認められない。
⑶  また、デジタル社会の推進は、消費者保護をないがしろにするものではないはずである。
特定商取引法における書面交付を電磁的方法による提供で可能とすることは、まさに特定商取引法における消費者保護の機能を減退させるものである。
よって、承諾の取得方法や電子データの提供方法において、厳格な規制を定めることは、決してデジタル社会の推進と矛盾するものではない。
⑷  いずれにせよ、事業者側の意見を重視して、上記附帯決議の内容や上記消費者庁の答弁の内容が後退するようなことがあってはならない。
以 上



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