意見書

区分所有建物の共用部分に関する損害賠償請求についての立法措置を求める意見書


2022年(令和4年)5月25日


衆議院議長      細  田  博  之  殿
参議院議長      山  東  昭  子  殿
法務大臣        古  川  禎  久  殿
国土交通大臣    斉  藤  鉄  夫  殿
経済産業大臣    萩生田  光  一  殿
消費者庁長官    伊  藤  明  子  殿
内閣府消費者委員会委員長    後  藤  巻  則  殿


京都弁護士会   

会長  鈴  木  治  一
  


区分所有建物の共用部分に関する損害賠償請求についての立法措置を求める意見書



第1  意見の趣旨
区分所有建物の共用部分に関する欠陥等の不法行為ないし契約不適合に基づく損害賠償請求権について、管理者による訴訟追行を容易にする立法措置をとるべきである。例えば、区分所有法、住宅品質確保促進法の改正等によって、区分所有権が譲渡された場合に上記損害賠償請求権も転得者に当然承継されるものとみなす制度や、上記損害賠償請求権の行使権限が管理組合に原始的に帰属するものとし債権譲渡を不要とする制度などといった立法措置をとるべきである。

第2  意見の理由
1  共用部分に関する損害賠償請求と区分所有法第26条第2項・第4項
分譲された区分所有建物の共用部分に欠陥ないし契約不適合がある場合、買主たる区分所有者は、設計・施工・監理者に対しては不法行為に基づく損害賠償請求を、売主たる分譲業者に対しては契約不適合責任に基づく修補費用相当額の損害賠償請求を、それぞれ行うことができるが、金銭債権は分割債権であるため(民法第427条)、それと異なる規定又は当事者の別段の意思表示がない限り、請求しうる額は当該区分所有者の共用持分に応じた金額に限られると一般に解されている。
ここにいう「異なる規定」としては区分所有法第26条があり、管理者(同法第3条、第25条)が個々の区分所有者を代理して「共用部分等について生じた損害賠償金」の請求を行うことができ(同法第26条第2項)、規約または集会の決議により、区分所有者のために訴訟の当事者となることができる(同条第4項)。同規定によって管理者は、区分所有建物の共用部分に欠陥ないし契約不適合があった場合、設計・施工・監理者や売主に対し、損害の全部について、個々の区分所有者を代理し、規約等に基づき損害賠償請求訴訟を提起して、賠償金を受け取ることができる。
このような規定を設けた趣旨について、法務省立法担当者は、「共用部分等に損害が生じた場合の損害賠償金の請求および受領については、損害賠償請求権が可分債権であり、各区分所有者に分割的に帰属するものである・・・しかし、共用部分等について生じた損害賠償請求権については、各区分所有者が権利行使をしたとしてもその額が少額にとどまることが多いこと、受領した損害賠償金は共用部分等に生じた損害の回復の費用に振り向けるべき場合も少なくないこと等から、管理者が一元的に請求し、または受領することができるものとした方が、建物の適正な管理に資するものと考えられる」と説明している(稻本洋之助・鎌野邦樹著『コンメンタール区分所有法(第3版)』日本評論社 159頁)。
2  区分所有権が譲渡された場合に生ずる不都合
(1)現在の法制度の限界
ところが、区分所有権が譲渡され転得者が現れた場合、現行法上、そうした損害賠償請求にあたって不都合が生ずる。
すなわち、まず、契約不適合責任について、転得者は分譲会社との間で契約関係に立たず直接の損害賠償請求権を有していないことから、権利行使のためには元の買主から損害賠償請求権について債権譲渡を受けていることが必要であるが、そのような場合は稀である。そうすると、損害賠償請求権は元の買主に帰属したままとなるが、その場合、管理者は区分所有者でなくなった者が有する損害賠償請求権を代理行使することはできないと解すると、管理者が売主に対して行うことのできる共用部分にかかる契約不適合責任に基づく損害賠償請求はその分だけ減額されてしまうことになるのである(岸日出夫・古谷恭一郎・比嘉一美編『Q&A建築訴訟の実務-改正債権法対応の最新プラクティス-』新日本法規 663~664頁)。実際、かかる考え方に基づいて、区分所有権が転売された場合の共用部分の契約不適合責任に基づく損害賠償請求権全額の管理者による行使を否定して管理者の原告適格を否定した裁判例も現れている(東京地判平成28年7月29日。控訴棄却、上告棄却)。
次に、不法行為責任について、共用部分の欠陥が売買価格に反映されないままに転得者が売買契約を締結した場合であれば転得者が損害賠償請求権を有することになるが(上記『Q&A』666頁、注(14)参照)、そうでなければ転得者は損害賠償請求権を有するものではないため、同様の問題が生ずる。
これを回避しようとすれば、損害賠償請求権を有している元々の買主から転得者へと同請求権が債権譲渡される必要があるが、債権譲渡に応じるか否かは債権者の自由であるため、管理者の働きかけ等によって債権譲渡が必ず実現できるとは限らない。
(2)立法措置による新たな法制度創設の必要性
そうすると、現行法上、損害賠償請求権の債権譲渡がされていない場合、訴訟等によって損害賠償を得ることができたとしても、その金額は修補に必要な全額ではなくその限度で減じられたものとなってしまうため、不足が生じ、修補に不都合が生ずる。このような事態は、区分所有建物の価値の維持やマンションの適正な管理を困難ならしめ、ひいてはマンションの良好な居住環境を損なうものである。とりわけ、当該欠陥ないし契約不適合が共用部分のうち構造耐力や防耐火性能の不足といった建物の安全性に関する部分に存する場合の問題性は極めて大きく、修補が十全に行えないことによって建物の基本的な安全性が棄損されかねない。
かかる事態は、「管理者が一元的に請求し、または受領することができるものとした方が、建物の適正な管理に資する」という区分所有法第26条第2項の立法趣旨に反するとともに、「マンションの管理の適正化を推進するための措置を講ずることにより、マンションにおける良好な居住環境の確保を図」ること(マンションの管理の適正化の推進に関する法律第1条)や「マンションにおける良好な居住環境の確保」すること(マンションの建替え等の円滑化に関する法律第1条)を目指している国の施策とも相反する。
区分所有法第26条第2項の規定が設けられたのは平成14年改正法によるものであるが、その後20年の間にマンションの数が増え続けるとともに既存マンションの欠陥も顕在化してきており、このことを背景に、管理者による共用部分の修補を可能として価値を維持すべき要請も高まっている。
現行法上生ずるかかる不都合を回避するためには、立法措置を講じ、新たな法制度を創設する必要がある。
3  考えられる立法措置の内容
(1)損害賠償請求権が転得者に承継される旨の制度
そのような法制度として、まず、区分所有法、住宅品質確保促進法の改正等の立法措置により、区分所有権の譲渡と同時に共用部分の欠陥ないし契約不適合責任に基づく損害賠償請求権も転得者に承継される旨の規定を設けることが考えられる。
理由は次のとおりである。すなわち、区分所有法第26条第2項の立法理由である「共用部分等について生じた損害賠償請求権については、各区分所有者が権利行使をしたとしてもその額が少額にとどまることが多いこと」という点及び「受領した損害賠償金は共用部分等に生じた損害の回復の費用に振り向けるべき場合も少なくないこと」という点(前記『コンメンタール区分所有法』159頁)は、いずれも、区分所有権が元の買主に帰属している場合に限らず転得者に帰属している場合にも妥当する。また、区分所有建物の共用部分の欠陥ないし契約不適合に基づく修補費用相当額の損害賠償請求権は、集団的・統一的に行使され、かつその全額が現実の修補費用に振り向けられるべきものであるから、かかる請求権は、本来、区分所有権の譲渡に付随して移転すべき権利であり、また、それが区分所有権を売買する当事者の合理的意思にも適うというべきである。他方、損害賠償責任を負うべき分譲業者等にとっても、修補費用相当額の損害賠償の交渉を多数と行うのは煩雑であるから、管理者による一元的請求を可能ならしめる方が便宜である。
現に諸外国にはこのような立法によって措置した例がある。韓国では、2012年改正後の韓国集合建物法第9条により、区分所有建物の分譲者および施工者は区分所有者に対して担保責任を負うとする制度が創設されている。同条にいう「区分所有者」は現時点での区分所有者である。すなわち、同条に基づく請求権は、区分所有権が譲渡された場合、特別の事情がない限り、現時点での区分所有者に帰属する法律上の権利とされる。
(2)損害賠償請求権の行使権限が管理組合に原始的に帰属する旨の制度
また、区分所有法、住宅品質確保促進法の改正等の立法措置により、共用部分の欠陥ないし契約不適合による損害賠償請求権の行使権限が、管理組合に原始的に帰属する旨の規定を設け、債権譲渡を不要とすることも考えられる。上記集団的・統一的行使の必要性や管理者による一元的請求を十全ならしめるためには、区分所有関係という特殊の関係においてこのような制度を設けることも合理性があるというべきである。
現に諸外国にはこのような立法によって措置した例がある。フランスでは既に1965年区分所有法(建築不動産の共同所有の規則を定める1965年7月10日の法律第557号)第15条により、管理組合には訴訟能力が認められており、建設業者に対する不動産の瑕疵・不具合に関する訴訟等、不動産に関する権利の保護のためであれば、区分所有者と共同してまたは単独で訴訟行為をすることができ(第1項)、支払を命ずる判決の場合、損害賠償金は管理組合に対して支払われるものとされている(第4項)。
(3)上記の立法措置は、区分所有建物の共用部分に関する欠陥の不法行為ないし契約不適合に基づく損害賠償請求権について、管理者による訴訟追行を容易にする立法措置の例示であって、上記の立法措置のいずれであっても、あるいは、それ以外の立法措置であっても、同等の効果をもたらすものであれば、上記の立法措置に拘泥するものではない。
4  共用部分に関する損害賠償のその他の場面
以上の問題は、共用部分の欠陥ないし契約不適合による損害賠償請求の場面に限った問題ではない。例えば、共用部分に自動車が衝突して損傷を受けた場合等にも、全く同様の問題状況が生じる。
このことは、法務省立法担当者が「共用部分等に損害が生じた場合の損害賠償金」について上記説明をしているところからも窺えるところである。
そこで、上記法制度の創設にあたっては、共用部分に関して生じた不法行為責任ないし契約不適合責任全般も対象に含めるべきである。
5  結論
以上のとおりであるから、区分所有建物の共用部分に関する欠陥等の不法行為ないし契約不適合に基づく損害賠償請求権について、管理者による訴訟追行を容易にする立法的措置をとるべきである。国土が狭隘で多数の区分所有建物が存在し活用されているわが国においてその必要性は高く、速やかな対応が求められる。
以 上



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