低賃金労働者の生活を支え地域経済を活性化させるために最低賃金額の引上げと実効的な中小企業支援を求める会長声明(2022年6月15日)(本イベントは終了しました。)


1  2021年(令和3年)7月16日、第61回中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、全国一律で28円の賃金引上げを答申した。これをうけて、京都地方最低賃金審議会は京都労働局長に対し、最低賃金額の引上げを答申し、2021年(令和3年)10月1日より、京都府の最低賃金は時間額937円に引き上げられた。この引上げ額は過去最大であり、これまで当会が最低賃金の大幅な引上げを求めてきたこと(2021年7月21日付声明など)にも沿うものであって、十分評価できる。
しかしながら、労働者の生活を守り、地域経済を活性化させるためにも、本年度も、さらなる最低賃金額の引上げが重要である。
時給937円では、フルタイム(週40時間、年52週)で働いても、年間所得で約195万円、月換算にすれば約16万2400円にすぎない。他方、2019年(令和元年)5月の静岡県立大学中澤秀一准教授監修による調査結果によれば、京都市北区在住の25歳・単身者をモデルとした月間の最低生活費は、男性24万5785円、女性24万2735円であり、生活に必要な賃金は、時給換算で各1639円、1618円となる。この調査結果をみても、京都府下の労働者の生活水準を上げるために、最低賃金の引上げが必要であることがわかる。
長期に及ぶ新型コロナウイルスの感染まん延により多くの働く者の収入が減少していること(2021年10月の公益財団法人連合総合生活開発研究所の調査結果による)や、ロシアのウクライナ侵攻その他様々な要因によって食料品や光熱費など生活関連品の価格が上昇していることからすれば、最低賃金額を大きく引き上げることが、なおさら重要である。
国際的に見ても、最低賃金額について、フランスでは、2021年1月に10.25ユーロに、同年10月に10.48ユーロに引上げとなり、さらに、2022年5月に10.85ユーロに引き上げられた。ドイツでは、2021年7月に9.60ユーロに引き上げられたが、2022年1月に9.82ユーロに、同年7月に10.45ユーロに引上げとなり、さらに、同年10月から12ユーロに引き上げられる。イギリスでも、2021年4月から23歳以上の労働者の最低賃金が8.91ポンドに引き上げられたが、さらに2022年4月から9.5ポンドに引き上げられた。韓国では、2021年1月に8720ウォンに引き上げられたが、2022年1月から9160ウォンに引き上げられた。このように多くの国で、コロナ禍で経済が停滞する状況下においても最低賃金の大幅引上げが実現している。
政府は、2015年(平成27年)11月、最低賃金を毎年3.0%程度引き上げる方針を示し、これに沿って、漸次最低賃金は引き上げられてきたのであり(実際、2021年の引上げ額は前年比3.1%増であった。)、また、政府は、いわゆる骨太方針(「経済財政運営と改革の基本方針2022」。以下「骨太指針」という。)において、できる限り早期に全国平均で時給1000円以上になることを目指していくなどとしているが、本年度も、これに沿って最低賃金の引上げがなされなくてはならない。

2  最低賃金の地域間格差が依然として大きいことも、見過ごすことのできない重大な問題であり、地域間格差の縮小は、喫緊の課題である。全国一律最低賃金の導入を含む格差解消政策が検討されるべきであり、京都地方最低賃金審議会としても、最低賃金の地域間格差の問題を念頭に置いた最低賃金額の大幅な引上げを主体的に図るべきである。

3  今般、新型コロナウイルスの感染状況の継続に伴い、中小企業を中心として大きな負担が生じている。最低賃金の引上げの際には、これと合わせて企業に対する助成がなされなければならない。特に経営基盤が脆弱な中小企業の倒産、廃業を回避する対策が必要である。
最低賃金引上げに伴う中小企業への支援策について、現在、国は「業務改善助成金」制度により、影響を受ける中小企業に対する支援を実施している。しかし、中小企業にとって必ずしも使い勝手の良いものとはなっておらず、利用件数はごく少数である。京都府の経済を支えている中小企業が、最低賃金を引き上げても円滑に企業運営を行えるように充分な支援策を講じることが必要である。具体的には、諸外国で採用されている社会保険料の事業主負担部分を免除・軽減することによる支援策が有効であると考えられる。
政府は、骨太指針において最低賃金の引上げの環境整備を一層進めるためにも事業再構築・生産性向上に取り組む中小企業へのきめ細やかな支援や取引適正化等に取り組みつつ、景気や物価動向を踏まえ、地域間格差にも配慮しながら、できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が1000円以上となることを目指し、引上げに取り組むとしている。
こうした政府の取組みも視野に入れながら、労働者の生活の安定を守るという観点から、京都地方最低賃金審議会には果断さが求められる。

4  コロナ禍で地域経済が停滞している部分はあるが、最低賃金の引上げには地域経済を活性化させる効果もある。当会は、国に対し中小企業への充分な支援策を求めるとともに、各地の地方最低賃金審議会において最低賃金額の引上げを図り、労働者の健康で文化的な生活(憲法第25条)を確保し、地域経済の健全な発展を促すためにも、京都地方最低賃金審議会が、本年度、最低賃金の大幅な引上げを答申することを求めるものである。

2022年(令和4年)6月15日

京都弁護士会                  

会長  鈴  木  治  一  
    

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