大崎事件再審請求棄却決定に抗議する会長声明


大崎事件再審請求棄却決定に抗議する会長声明


  2022年(令和4年)6月22日、鹿児島地方裁判所は、いわゆる大崎事件第四次再審請求事件について、再審請求を棄却するとの決定をした。
  大崎事件は、1979年(昭和54年)に原口アヤ子氏が親族と共謀して被害者を殺害し、死体を遺棄したとの嫌疑により起訴された事件であるが、犯行を裏付ける客観的証拠はなく、共犯者とされた親族の供述を主な証拠として、逮捕時から一貫して無実を主張していたアヤ子氏に対し、懲役10年の有罪判決が確定した。
  アヤ子氏は、服役後も無実を訴え続け、再審請求手続においては、これまで第一次再審請求審(2002年(平成14年)3月26日)、第三次再審請求審(2017年(平成29年)6月8日)、同即時抗告審(2018年(平成30年)3月12日)の3回にも及ぶ再審開始の判断がなされている。しかし、検察官は即時抗告・特別抗告を繰り返し、いずれの判断も取消されてきた。特に、最高裁第一小法廷は、2019年(令和元年)6月25日、第三次再審請求特別抗告審における検察官の主張は法定の抗告理由に当たらないと判断しておきながら、特別抗告を棄却せず、あえて職権による判断として自ら再審開始決定を取り消した。無辜の救済のみを目的とする非常救済制度である再審手続において、再審開始の判断に対して検察官が上訴を繰り返し、検察官の主張に理由が無くとも最高裁が自ら職権を行使して有罪判決を維持し、無辜の救済に対する「壁」として立ちはだかるという状況は、再審制度の趣旨に照らして著しく正義に反するものであり、当会は2019年(令和元年)7月2日付「大崎事件第三次再審請求棄却決定に抗議する会長声明」において強く抗議していたところである。
  今般の第四次再審請求においては、本件は「殺人事件」ではなく、確定判決が認定した犯罪行為よりも前に、被害者が死亡していた「事故」であることを明らかにするため、新証拠として、死亡時期に関する救急救命医の鑑定書や、自転車ごと側溝に転落していた被害者を発見した近隣住民の供述鑑定書などが提出され、5名の専門家の証人尋問が実施された。既に何度も再審開始の判断がなされている上に、上記新証拠を加えれば、もはや確定有罪判決の基礎とされた検察官の立証が決定的に揺らいでいることは明らかである。鹿児島地裁は、これら新証拠による死亡時期の検討を十分に行わず、上記最高裁第一小法廷決定に追従して、再審請求を棄却したものである。かかる決定は、新旧全証拠の総合評価と「疑わしきは被告人の利益に」という鉄則の適用を求めた白鳥・財田川決定に反し、無辜の救済という再審制度の趣旨を没却する不当なものであり、到底是認し難い。
  特に、本件においては、既に最初の再審開始決定からでも20年以上が経過しているにもかかわらず、再審公判が開始されない状態のままアヤ子氏は95歳の高齢に達するという深刻な状況にある。再審開始の判断が繰り返されても本人の生命の続く間に救済が危ぶまれるような再審制度の在り方は、およそ実効的なえん罪救済制度として機能しているものとは言えない。
  よって、当会は、適正な刑事手続の保障と実効的なえん罪救済制度の実現を求める立場から、今般の不当な再審請求棄却決定に対して、強く抗議の意思を表明する。

2022年(令和4年)6月22日

京都弁護士会                  

会長  鈴  木  治  一  
    

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