消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律の成立に対する会長声明


消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の

特例に関する法律の一部を改正する法律の成立に対する会長声明



1  2022年(令和4年)5月25日、第208回国会において、「消費者契約法及び消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が可決され、成立した。

2  しかし、改正法は、消費者契約に関する検討会(以下「本検討会」という。)の報告書(以下「検討会報告書」という。)の内容と著しく乖離している。本検討会は、消費者庁が、2018年(平成30年)消費者契約法改正の際の衆参両院附帯決議(以下「前回改正附帯決議」という。)において指摘された喫緊の課題の検討のため開催したものであるが、2019年(令和元年)12月から全23回、約1年9か月にわたって議論を重ね、検討会報告書として取りまとめをするに至った。本検討会は、2019年(令和元年)2月から開催された「消費者契約法改正に向けられた専門技術的側面の研究会」(以下「本研究会」という。)による報告書を踏まえつつ、実務的な観点から検討を深化させてきたものであるが、その検討会報告書の提案を反映していない改正法は、本検討会の存在意義を喪失させるだけでなく、本研究会から長期間にわたり、消費者契約法改正に向けて多角的な視点から議論を重ね、多数の有識者が熟考してきた時間を全て無に帰するものといわざるを得ない。

3  検討会報告書では、不当勧誘の規定として、①法第4条第3項各号の困惑類型の脱法防止規定、②消費者の慎重な検討の機会を奪うような勧誘があった場合の消費者の心理状態に着目した規定、③判断力の著しく低下した消費者が生活に著しい支障が及ぶような内容の契約をした場合の消費者の判断力に着目した規定という、3つの新たな取消権を創設することが提案されていた。
また、不当条項の規定についても、所有権等を放棄するものとみなす条項や消費者の解除権の行使を制限する条項を不当条項に関する消費者契約法第10条の第1要件の例示として掲げること等、いくつかの不当条項を規定することが提案された。
これらの検討会報告書の具体的な提案は、前回改正附帯決議や成年年齢引下げの民法改正の際の参議院附帯決議において、高齢者、若年成人等の知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を事業者が不当に利用した場合の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)の創設が求められたこと等に対応しようとするものであった。
しかし、改正法では、上記3つの取消権に対応する規定は全て抜け落ちており、賠償請求を抑制するおそれがある不明確な免責条項(いわゆる「サルベージ条項」の1類型)を除く不当条項の規定も改正の対象から抜け落ちている。
改正法で新設された取消権は、極めて限定した場合にしか対応しておらず、超高齢社会における高齢者の被害増加や成年年齢引下げに伴う若年者の被害増加に対応するには不十分であることから、上記3つの取消権に対応する規定及び不当条項規定について、検討会報告書の意見に沿った法改正をただちに行うべきである。

4  また、改正法に付された衆議院附帯決議(以下「本附帯決議」という。)は、法改正後直ちに、諸外国における法整備の動向を踏まえ、消費者契約法が消費者契約全般に適用される包括的な民事ルールであることの意義や同法の消費者法令における役割を多角的な見地から整理し直した上で、判断力の低下等の個々の消費者の多様な事情に応じて消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる制度の創設、損害賠償請求の導入、契約締結時以外への適用場面の拡大等既存の枠組みに捉われない抜本的かつ網羅的なルール設定の在り方について検討を開始すること等につき、適切な措置を講ずべきとしている。
これを受けて、消費者庁は、本年6月21日に「消費者法の現状を検証し将来の在り方を考える有識者懇談会」準備会合を開催しているが、有識者懇談会、そして法改正に向けた検討会を早急に開催し、その検討内容を反映した法改正を実現させる必要がある。

5  そこで当会は、第一に、困惑類型の脱法防止規定、消費者の心理状態に着目した規定、消費者の判断力に着目した規定及び不当条項規定について、検討会報告書の意見に沿った法改正を速やかに実現することを求める。
第二に、検討会報告書の意見に盛り込まれなかった抜本的かつ網羅的な規定についても、本附帯決議での要請を踏まえて、早急に検討の場を設け、その検討内容を反映した立法を行うことを求める。

2022年(令和4年)7月21日

京都弁護士会

会長  鈴  木  治  一
      


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