裁量労働制実態調査の結果を踏まえ、規制強化を含む裁量労働制の見直しを求める会長声明


裁量労働制実態調査の結果を踏まえ、規制強化を含む裁量労働制の見直しを求める会長声明


1  裁量労働制が1987年(昭和62年)の労基法改正で新たに導入されて以降、裁量労働制は、基本的に規制緩和・適用対象拡大の改定がなされてきた。その流れの中、2015年(平成27年)労基法改正法案や、2018年(平成30年)働き方改革一括法の法案要綱には、企画業務型裁量労働制の適用対象を拡大する内容が盛り込まれていたものの、当会がいずれについても反対の立場を採っていたように(後記会長声明)、労働者の長時間労働を引き起こすという観点から反対意見があった。前者の法案は後に廃案となり、後者の法案要綱は後に政府自ら裁量労働制に関する部分を撤回しているところ、後者の撤回理由は、裁量労働制拡大の根拠とされた調査結果に不正確な部分があったというものである。
そこで厚生労働省は、裁量労働制について改めて実態調査を行うこととし、2019年(令和元年)11月に調査が行われ、2021年(令和3年)6月25日に「裁量労働制実態調査」の結果が公表された(以下、この実態調査を「本件実態調査」、その調査結果を「本件実態調査結果」という。)。それに伴い、同年7月26日より、厚生労働省では「これからの労働時間制度に関する検討会」が始まり、本件実態調査結果を踏まえた検討が行われ、2022年(令和4年)7月15日には検討会報告書が発表されている。
2  本件実態調査結果のうち、労働者調査では、裁量労働制の適用労働者(以下「適用労働者」という。)のほうが、1日当たり平均で、専門業務型で18分、企画業務型で31分、各裁量労働制対象業務に従事する非適用労働者より実労働時間が長いという結果が出ている。
特に注目すべきは、週の労働時間が60時間を超え、脳・心臓疾患の労災認定の目安となる、月間時間外労働時間80時間(いわゆる「過労死ライン」)を確実に上回ると言える適用労働者の割合が8.4%、過労死ラインを上回るか過労死ライン近傍といえる週55時間以上の適用労働者も含めれば14.2%となる点である。この結果は、適用労働者のおおむね1割が、過労死ラインを超える長時間労働を行っているであろうことを示す。
3  また、本件実態調査結果のうち、労働者調査結果では、専門業務型で40.1%、企画業務型で27.4%の労働者がみなし労働時間が何時間に設定されているのか「分からない」と回答している。これらの事実は、適用労働者のうち相当部分が、自身に適用される制度を理解しないまま、適用を甘受していることを示す。
さらに、約9割の適用労働者が「業務の遂行方法、時間配分等」につき自分で決めていると回答しているが、これは逆に、約1割の適用労働者は業務遂行・時間配分の裁量性を有していないことを示す。裁量労働制は、「業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し、当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと」が適用要件とされるので(労基法第38条の3第1項第3号、同第38条の4第1項第1号)、この結果は、適用労働者のうち約1割に裁量労働制が違法適用されている状態にあることを示す。
「働き方の認識状況」においても、「当初決まっていた業務でない業務が命じられる」が18.9%、「仕事に裁量がない」が10.7%あり、調査対象のうち1割から2割近くは違法適用事例が存在すると言える状況にある。
実際、京都においても、裁量労働制の違法適用を認定する裁判例が存在する(大阪高判平成24年7月27日労働判例1062号63頁、京都地判平成29年4月27日労働判例1168号80頁)。
4  長時間労働は労働者の命と健康を害する要因となる。本件実態調査結果は、裁量労働制適用労働者のうち約1割が、現に命と健康の危険にさらされている状況にあることや、裁量労働制を違法適用されていることを示している。1割は、規制を強化すべき根拠とするに十分と言える大きな数字である。
当会は、これまでにも、2015年(平成27年)6月24日付で「労働時間規制の緩和に反対する会長声明」を、2018年(平成30年)3月27日付で「高度プロフェッショナル制度創設の法案提出に反対する会長声明」を、2018年(平成30年)7月19日付で「いわゆる『高度プロフェッショナル制度』が創設されたことに抗議する会長声明」をそれぞれ公表し、長時間労働によって労働者の健康を害する危険性が高まることがないような労働法制を求めてきた。当会は、裁量労働制の見直しに向けた検討においても、本件実態調査結果を踏まえ、長時間労働助長傾向や違法適用・濫用適用の傾向などの裁量労働制の問題点を克服するための規制強化を含めた検討がなされることを求めるものである。

2022年(令和4年)7月21日

京都弁護士会                  

会長  鈴  木  治  一  
    

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