「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の見直しにあたり、自動車運転者の休息期間を連続して11時間以上と定めることを求める会長声明(2022年8月25日)(本イベントは終了しました。)


「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の見直しにあたり、自動車運転者の休息期間を連続して11時間以上と定めることを求める会長声明


1 厚生労働省は、タクシー・ハイヤー、トラック、バスの各自動車運転者の労働条件の向上を図ることを目的として、拘束時間、運転時間、休息期間等の労働条件を定めた「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。以下「改善基準告示」という。)を制定しているところ、現在、労働政策審議会労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会においてその見直しが検討されており、休息期間(勤務間インターバル)についての議論が行われている。その契機は、2018年(平成30年)7月6日に制定された「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号、以下「働き方改革関連法」という。)の附帯決議にある。すなわち、働き方改革関連法は、長時間労働に起因する過労によって心身等に悪影響が及ぶことを防止するため、2019年(令和元年)4月1日以降、時間外労働等についての上限規制を行うこととしたが(労働基準法第36条第6項第5号及び第6号)、「自動車の運転の業務として厚生労働省令で定める業務」については、例外的に適用が猶予されることとなった。ところが同業務は、2020年度(令和2年度)の脳・心臓疾患の労災認定件数に占めるトラック運転者である「道路貨物運送業」の数が55件と最も多くなっているように、長時間労働に至りやすい業務であり、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」でも、一貫して重点業種として取り上げられていた。そこで、2018年(平成30年)6月28日、働き方改革関連法について「過労死等の防止の観点から…総拘束時間等の改善について、関係省庁と連携し、速やかに検討を開始すること」との参議院厚生労働委員会附帯決議がなされ、改善基準告示の見直しについての議論が始まったのである。

2 このような経過からして、改善基準告示の見直しは、自動車運転者の長時間労働を防止するに相応しい内容でなければならず、休息期間についていえば、以下のとおり、現状の連続8時間以上(改善基準告示第4条第1項第3号)から連続11時間以上へと引き上げることが必要不可欠である。そもそも働き方改革関連法は、時間外労働等の上限規制を設けており、その趣旨は労働者の心身等の保護にあるのであるから、休息期間の設定にあたってもその趣旨を十分に踏まえるべきところ、休息期間を8時間とすると、食事等の生活時間を除外した睡眠時間はわずか数時間となり、その趣旨に反する事態となる。最低限として6時間程度の睡眠時間を確保するためには、休息期間は11時間程度が必要である。
実際、2021年(令和3年)9月14日改正の脳・心臓疾患の労災認定基準(令和3年基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」)でも、業務の過重性の要因として「睡眠時間の確保の観点から、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等」が挙げられており、国も、休息期間11時間未満での勤務では十分な睡眠時間を確保できず、労働者の心身等を害するおそれがあるとの立場を採っている。諸外国の例を見ても、ILO勧告161号(労働時間及び休息期間(路面運送)勧告)は、休息期間を原則11時間以上としており、EU規則(No561)でも、24時間に対して休息期間を原則11時間設けるものとされている。さらに日本弁護士連合会も、2016年(平成28年)11月24日付「『あるべき労働時間法制』に関する意見書」において、勤務開始時点から24時間以内に連続11時間以上の勤務間インターバル規制を設けることを求めているところである。

3 自動車運転者が結成している労働組合である全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)がトラック運転者を対象に行っているアンケートによれば、ここ数年、勤務中居眠り運転をすることが「よくある」「ときどきある」と答えた者の割合は併せて4割程度、睡眠時間が「5時間未満」と答えた者の割合は2割程度、勤務中に前日の疲れが取れないことが「よくある「時々ある」と答えた者の割合は8割超でそれぞれ推移している。このような長時間労働の背景には深刻な人手不足や高齢化があるが、ひとたび事故が発生すれば、労働者の生命・健康が害されることはもちろん、道路を通行する他の運転者や歩行者等に被害が及ぶ危険も高く、バス・タクシーであればその乗客も被害を受ける。そのため、改善基準告示を改正し、自動車運転者に十分な休息期間を確保することは、喫緊の課題である。
そこで当会は、改善基準告示の見直しにあたり、同告示における自動車運転者の休息期間を
連続して11時間以上と定めることを求めるものである。

  2022年(令和4年)8月25日

京都弁護士会                  

会長  鈴  木  治  一  


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