京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)の存続・発展を求める要望書


2022年(令和4年)10月20日

京都市長  門  川  大  作  殿

京都弁護士会              

会長  鈴  木  治  一



京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)の存続・発展を求める要望書



第1  要望の趣旨
京都市におかれては、
1  京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)の施設の基本的部分を民間企業等に貸与する計画を見直されたい。
2  京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)において現在行われている市民対象の各種の相談活動については、廃止・縮小することなく、第5次京都市男女共同参画推進計画に基づき拡充されたい。

第2  要望の理由
1  理由の骨子
京都市は、2021年(令和3年)9月に策定した第5次男女共同参画推進計画において、男女共同参画センター(ウィングス京都)(以下「ウィングス京都」という。)について、計画を推進する中核施設と位置付けている。しかるに、京都市は、ウィングス京都の事業に必要となる施設の基本的部分について、民間に貸与するためのサウンディング調査の実施を本年6月10日発表し、これを実行した。
ウィングス京都の基本的部分を民間貸与した場合、女性支援のための様々な相談体制の縮小に繋がり、男女共同参画の推進の妨げとなる恐れが非常に大きいので、本要望に及ぶ次第である。
以下、経過も含めて詳述する。

2  京都市の男女共同参画推進の取り組みとウィングス京都設置の経過
・1994年(平成6年)4月  京都市女性総合センター(ウィングス京都)開設
・1999年(平成11年)6月  男女共同参画社会基本法施行
第9条(地方公共団体の責務)において、「国の施策に準じた施策及びその他の地方公共団体の区域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と規定される。
・2003年(平成15年)12月  京都市男女共同参画推進条例公布
・2006年(平成18年)4月  「京都市女性総合センター」から「京都市男女共同参画センター」に正式名称を変更
・2021年(令和3年)8月  京都市が「行財政改革計画」発表
(府市類似施設や民間、他機関の状況、立地条件などの資産として市場価値を踏まえ、民間移管、存廃や必要な機能に応じた施設の在り方を検討)の項目に「男女共同参画センター」が含まれる。
・2022年(令和4年)6月10日  京都市がウィングス京都について「有効活用に係るサウンディング型市場調査の実施について」を発表(資料1)。

3  ウィングス京都の事業内容等
(1)第5次京都市男女共同参画推進計画における位置付け
ウィングス京都は、第5次京都市男女共同参画推進計画において、計画を推進する中核的施設と位置付けられ、その機能の充実が同計画の方針とされている。
(2)具体的な事業内容
①  男女共同参画に関する「情報の収集と提供」「啓発誌の発行」「講座・研修等の実施」「相談事業」「活動のための施設の提供」「活動団体相互間の連携と交流」「調査研究・人材育成」など様々な事業を実施している。
②  相談業務としては、一般相談(女性のための電話・面接相談)、専門相談(女性への暴力・法律相談、男性相談、男性のためのDV電話相談)、男女共同参画に関する苦情・要望等処理受付を行っている。
③  図書情報室、相談室、貸会議室があり、市民への情報提供、市民団体の活動支援を行っている。
④  市民向けの情報発信として、「男女共同参画通信」を発行するとともに、男女共同参画に関する講座、女性の就業支援のための講座、市民活動への支援、女性の健康支援のための講座、男性向け講座など様々な講座を開設している。
(3)運営方法
京都市は、ウィングス京都の指定管理者として、財団法人京都市男女共同参画推進協会を選定し、同協会が管理運営を行っている。

4  今回のサウンディング型市場調査の問題点
(1)サウンディング型市場調査とは
公有財産の活用や民間活力導入の検討などを行う際、事業発案や事業化検討段階において、事業者との対話を通じてアイディアの収集や市場性の有無、実現可能性の把握を行うものとされている。
国土交通省のマニュアル「効果的なサウンディング型調査の進め方」によれば、
・枚方市  王仁公園(プール、テニスコートなど含む)
・京都府笠置町  表参道(温浴施設、キャンプ場など)
・守口市  旧庁舎跡地
が事例として挙げられており、民間との競合が考えられる施設等であり民間活力の導入を検討して公有財産を活用することに適している施設等を対象にしていることは明らかであって、男女共同参画等の地方自治体が自ら取り組むべき課題を行うのに不可欠な施設については、そもそも、同調査の対象とならないと考えられる。
(2)京都市は、この間、所有施設の「公共性」を検証すべく、地域体育館などを含む京都市の施設について、「収益可能性」「公的関与の必要性」についての分類を行っているが(資料2)、この分類によると、ウィングス京都は、
・収益可能性  A・B・Cのうち  B
・公的関与の必要性  Ⅰ(大)・Ⅱ(中)・Ⅲ(小)のうち  Ⅰ(大)
とされており、公費負担割合上限75%とされている。
ウィングス京都の稼働率は、63%であり、BⅠグループの中では、キャンパスプラザ(66%)に次いで高く、公費負担割合は60.8%であり、上限である75%を超えていない。
(3)以上の数字から、ウィングス京都は、
・公共性が高く
・現在の公費負担割合も上限以下にとどまる
という点で、そもそも、サウンディング調査にかけて民間委託する必要性は乏しい施設といわなければならない。
(4)さらに、資料1をみると、調査対象エリア及び活用方法は、「1階及び2階の一部(2,000㎡程度)の貸付け」となっており、この範囲を、現状のウィングス京都のフロア図(資料3)に照らしあわせると、以下の部分がすべて貸付部分に含まれることとなっている。
・総合受付カウンター
・図書情報室
・事務所(指定管理者である財団の職員らの執務室)
・印刷コピー室(市民も利用できる)
・相談室(法律相談などが行われている)
・子どもの部屋(イベントなどが行われることもあるが、相談者が連れてきた子どもの待機室となっている)
・京都若者サポートステーション
・交流コーナー
(5)以上の状況から、これらが民間事業者に貸与された場合、法律相談を含む各種相談、男女共同参画推進のための諸活動が、全く行われなくなるのではないかとの危惧がある。京都市は、これらを今後どこで行うのか、全く説明を行っていない。
(6)この問題を審議すべき「京都市男女共同参画審議会」は、本年度第1回会議が、ようやく8月30日に開催されたが(資料4)、終了5分前に「その他の報告事項」として京都市から報告が行われたのみである。
(7)また、京都市民からの意見聴取も全く行われていない。

5  女性を取り巻く状況の悪化
(1)日本では、男女共同参画に関する法設備は一定進んでいるものの、ジェンダーギャップ指数は146か国中116位(2022年)という評価にあらわれているように、状況は大きく改善されていない。京都市もまた例外ではない。
(2)また、この間の新型コロナウイルス感染拡大の中、2020年、2021年と、女性の自殺者が連続して増加するなど、女性にとってさらに厳しい状況となっている。
(3)当会では、女性のみを対象として週2回の無料電話相談を行っているが、常に電話が鳴り止まず、「電話がつながらない」という苦情さえあり、本年4月から予約制に切り替えたほどであり、女性相談の需要は大きい。
(4)このように女性を取り巻く状況は悪化しているが、本年5月19日、「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(以下「困難女性支援法」という。)が衆議院で賛成多数で可決成立し、2024年(令和6年)4月1日から施行される。同法は、女性支援を売春防止法から切り離すものであり、男女共同参画社会、男女平等社会の実現に向けて画期を成す法律といえる。
同法は、女性の抱える問題が多様化、複雑化していることを踏まえ、多様な支援を包括的に提供する体制を整備し、男女平等の実現に資することを理念としている。かかる理念を実現するため、国には支援に関する基本方針の策定を、都道府県及び市町村には基本計画の策定を、それぞれ義務付けている。そして、女性支援を具体的に実施するための拠点として「女性相談支援センター」が明記され、都道府県には設置が義務付けられるとともに、京都市を含む政令指定都市についても設置をすることができると明記された。
このように、女性支援のための拠点施設は、これまで以上に重要となっており、女性に対する相談や支援を行うウィングス京都の機能強化が求められている。

6  結論
以上述べたとおり、第5次京都市男女共同参画推進計画(資料5)「第4章  計画の推進」の「2  京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)の機能の充実」にもあるとおり、京都市の男女共同参画を推進のために、ウィングス京都は不可欠な存在であることからも、その基本的部分を民間企業等に貸与することには強く反対するものである。
現在、京都市が行っているウィングス京都を対象としたサウンディング調査は、市民からの様々な相談を受ける体制の縮小につながり、男女共同参画推進の観点からも大きな後退であると言わざるを得ず、その見直しを強く要望する。
もって、男女共同参画センターであるウィングス京都を存続させ、市民対象の相談活動を充実させ、第5次京都市男女共同参画推進計画の実行を強く要望するものである。
以  上



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